05.今なら素直に好きといえる





※男装ヒロインです※





貴方のことが好きだよ。

そう言ったら、




笑うかな?














「カクー!この木材、ここに置いておくからなー?」

私としてはらしくない男みたいな口調で、少し離れたところにいるカクに呼び掛けると、彼は「助かるわい」と軽く手を振った。

「いいっていいって。その代わり、今度奢れよ?」
「わはは、お嬢様はパウリーのようなことを言うのう。考えておくわい」






私は、女でありながら男装し、この1番ドックで働いている。
口調も男らしくして、まぁ、元々そんなに無い胸も包帯をぐるぐる巻いて平たくしてある。
髪も、長いと変かと思い、ばれないように首のあたりで隠すように、よく美容院で使われるようなダッカールで留めていて、短髪に見えるようにしてある。

船大工は男の世界。

そんなイメージが強いし、仮に女として入ったとしても、性別故に楽な仕事ばかり任せられるのも嫌なもんだから、こうして性別を偽っている。

昔から、なめられるのが嫌な性格だったからね。
今はもう、この恰好にも慣れたし、口調も安定してきた。

うん。
日頃の成果だね。





でも、このままじゃ解決しないこともあるわけで。







「おいカク、誰が誰に似てるんだよ?」

後ろからした声に振り向くと、チカッとその人物の装着しているゴーグルに光が反射し、自然と目を瞑る。

「まぶっ…!」
「ん?…あぁ、悪ぃ。眩しかったか」

悪い、と言っておきながら、そいつはそれを取る様子も、場所を移動する気配もない。
尚目に突き刺さるような光に目を細めつつ、思い切りその人物のスネを蹴ってやった。

「っ…てぇ!」
「まぶっしいっつってんだろうが!馬鹿なのかお前!?パウリーやめてバカウリーになるかっ!?」
「おまっ…、まず謝れ!」

その人物…バカウリーもといパウリーは、屈んで痛むスネをおさえているため、目線は私より低くなっている。
しかし、彼がこちらを睨むために目線を上げれば、再び光が目に突き刺さる。

「っ…こっち向くんじゃねぇ!」
「じゃあお前もこっち見なけりゃいいだろ!」
「何でてめぇの言うこと聞かなきゃいけねぇんだ!」

何をぅ?!何だよ!!


そんな私とパウリーの言い争いを見て、カクとルッチがぼそぼそと話し合う。

『まったく、いつもいつも騒々しいな』
「喧嘩するほどなんとやらとは言うが、お嬢様とパウリーの喧嘩ははまるで夫婦喧嘩じゃな」


「「誰が夫婦だっ!」」


声を揃えて叫んだ二人にカクが「仲が良いのう」と微笑ましく言い、それがさらなる喧嘩の火種になったのは言うまでもない。












「……………はー…」

ドック内に積まれた木材の上に座り込み、一人うなだれる。

いつもパウリーとは顔を合わせる度に喧嘩をし、大抵はルルやカリファが仲裁に入って終わるというのが毎日繰り返されている。

(私としては、あまり、なぁ…)




それが恋と知ったのは、つい最近なんてもんじゃない。少なくとも、ガレーラに入社する前からだ。

太陽のような彼の笑顔に魅せられた。

でも彼のファンの多さとか、自分が一般市民であったりすることが、その想いを封じ込めた。
投げやりでここの入社試験を受けて、合格して、更にパウリーと同じ職に就けたのがとても嬉しかった。

でも、男装を貫くと決めた今、その想いはまた遠ざかる。

向こうも自分を男として見てるし、そんな自分から告白でもされたら…。



(今までの関係が、壊れてしまう)



いつも喧嘩するとはいえ、昼食も一緒に食べたりするし、会議も一緒に出させてもらったりしてるから、仲が悪いわけじゃない。

過ごしていて、すごく楽しい。

だからこそ、この関係が壊れるのが嫌。
彼が私のことを嫌いになるのが嫌。






(…………女だからってナメられても良いから、)



男装、やめればよかったなぁ…。




ふぅ、と小さくため息をつくが、それはトンカチの音や職人たちの声に飽和していった。



「……悩んでも仕方ない、か。……うっし、仕事仕事!」

ばし!と膝を叩いて立ち上がり、木材の上から飛び降りる。

パウリーに何か仕事がないか聞こう。
そう考えながら、辺りを見回しながら歩く。


と、






「お嬢様!危ない!」



「――――…え?」







ガラガラガラ!


物凄い音と共に、私の意識は薄れていった。
















―――ガラガラガラ!




「っ!?」


木材の落ちる音に、パウリーは作業をする手を止め、そちらに視線を向けた。
散乱した木材が視野に入る。

「おい、どうした!」

そちらに駆けて行くと、木材を吊り下げていた布とロープが目に止まる。
恐らく、木材の重さに耐え兼ね、ロープが切れてしまったのだろう。


と、何やら職人達が慌てて木材を撤去している姿を見る。
皆、顔が青ざめていて、木材を退かす手も震えている。



(……そういえば、)



木材が落ちる少し前、パウリーはそちらをちらりと見ていたのを思い出す。



吊り上げられていく木材の下を誰かが歩いてはいなかったか?

そして、その人物は―――…、









(お嬢様じゃ、なかったか…?)









嫌な寒気がパウリーの身体を駆け巡り、職人達と一緒に木材を退かしていくと、布の部分にたどり着く。
ばさ!と勢い良く布を捲ると、そこにはお嬢様が倒れていた。
厚手の布のおかげで、怪我はしていないようだ。

「お嬢様!おい、お嬢様!」

肩を掴み揺さ振ると、お嬢様は小さく唸るが、目を開ける気配はない。
お嬢様を横抱きにかかえ、パウリーは職人達に呼び掛けた。

「おれはこいつを医務室に連れていく。お前らは木材片付けておけ!」
「は、はい!」


お嬢様を落とさないように、あまり衝撃がいかないように、

パウリーは医務室へ急いだ。









・・・・・


最初は、女なのではないかと考えた。

声だって少し高い。
睫毛だって長い。

でも口調は男のそれだし、アイスバーグさんはお嬢様は男だと言っているから。

自分は気が狂ったのか?

知らず知らず、気が付いたらあいつを探している。

知らず知らず、側に居たくなる。



本当、おかしいよな。

まさか、男を好きになっちまうなんて。





自嘲するように、ため息混じりに笑う。

医務室へ向かう廊下に、自分の足音が響く。

ひとまず、こいつを医務室へ連れていき、医者に診てもらわなければ。
そう考え、歩調を少し早めた。



その時、
カランと何かが落ちる音が響いた。

「―――何だ?」

周囲を見回してみると、ダッカールが床に転がっていて。

もちろん、おれはそんなものを使う訳がなく。








「っ………!」








おもむろにお嬢様を見ると、そいつの髪がいつになく長くなっていて―――…。

なんだ、髪長かったんだな。
という考えも浮かばず、ただただ頭が混乱するばかりだった。

その混乱を紛らわすように、おれは医務室へと急いだ。







――――


意識が上昇していく感覚。

ぼんやりとした視界。



(……ここは…)

確か、木材が落ちてきて、
それから…、それから…?

あまりはっきりしない意識の中、辺りを見回すために首を横に傾けると、



「……お。起きたか、お嬢様」
「パウリー……?」



そこにいたのは、パウリー。
手では何かをもてあそんでいるようで、




「…………?!」




パウリーが持っている物体を見て、絶句した。
彼が持っているのは、私の髪を留めていたはずのダッカール。

がば!と勢い良く起き上がり、おそるおそる自分の髪を触る。
はたりと長い髪が指をすり抜け、シーツの上に落ちた。

文字通り、思考停止。

そっとパウリーを見てみる。
彼はダッカールを開いたりしながら、


「さっき、アイスバーグさんが来て、そん時に聞いたが…」


と、私の額にダッカールの先端を軽く置きながら言った。

「何のことだ」と念のため男の口調で話すと、少し呆れたようなため息が聞こえてくる。



「女なんだろ、お前」



…こんな表情、彼はしただろうか。
そう思えるような、いつにない真剣な顔でこちらを見つめてくる。

…視線が固定されたように、動かない。



さぁ、と全身の血が下降していく。



嫌われたかな、軽蔑されたかな。

未だダッカールは額に置かれているが、それがやけに冷たく感じる。

何と言葉を発していいのか分からずに目を泳がせていると、再びため息が聞こえてきた。

「……何で男だって嘘ついたんだ?」
「っ……それ、は…」

パウリーの質問に答えようと顔をあげると、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳と視線が絡む。

いつもならときめいていたが、今は逆にそれが怖い――…。



どうしよう、本当に嫌われたのかも…。



その考えが頭をよぎった途端、ほろりほろりと涙が頬を伝った。

先ず唇が紡いだ言葉は、「ごめんなさい」だった。

「…私、人より地味だし…、っ船大工は…男の人の職業だから…っ、パウリーに近づきたかった、からっ…!」
「……………」

…しばらくの間、医務室には私の嗚咽が響いていた。

ぽろぽろと涙を流す私は、パウリーの姿を見る勇気が無かった。

見る権利すら失ったと思っていた。




と、ふわりと鼻腔を葉巻の香りがかすめたと思ったら、




「…もう、泣くな」




そう言って、
パウリーは私の頭を撫でながら、優しく抱き締めてくれていて。




そして、良かったと、言い聞かせるように呟くと、




「      」




私が待っていた言葉というか、夢に見た言葉を囁いてくれて。



その言葉に答えるように、私は彼を抱き返した。










――今こそ伝えよう、

(私の)(おれの)本当の想いを。





――――――――――

執筆者様の後書き

参加させていただき、ありがとうございます!
そしてグダグダで申し訳ありませんorz

男装ヒロイン萌えです←



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