04.この熱は誰の所為?





「…どういう事だ、これ」



仕事の帰りにカクに誘われて、ブルーノの酒場で呑む事になった。
まあしばらく仕事が立て込んでたし、悪くねェと思って承諾したワケだ。

それで仕事が終わって行ってみたら、何故か俺を迎えたのはこれでもかという程酔っぱらった同僚のお嬢様と、何故か楽しそうなルッチとカク。
いつもはビー玉みたくまんまるに開かれている目が、今日は目尻も下がってとろんとしている。

おまけにさっきから―――――



「ぱうりぃだぁ…あっはは」



―――こんな様子だ。

カク達を見れば、それはそれは楽しそうにニヤニヤしながらこちらを見ている。
…なんなんだこいつらは。



「おいお嬢様、しっかりしやがれ。どんだけ飲ませたんだお前ら」


「わしは止めたんじゃがルッチがなぁ」


「俺のせいにするな、お嬢様が自分で飲んだんだッポー」


「ぱうりーも飲むー?あははっ」



(こいつら…!!!)



絶対楽しんでやがる。

俺がお嬢様のことを好きで、でも色々とあって結局何も言えてなくて、それを俺が悩んでるってことを知った上で、こいつらはこの場を用意したに違いない。
そうだ、そうに決まってる。



「おいお嬢様、これ以上飲むな。送ってってやるから帰れ」



くたりとカウンターに突っ伏しているお嬢様の頭をはたいて言うが、反応はなし。
もしやと思って覗き込めば、予想通りお嬢様は爆睡してやがった。

寝顔も可愛…何言ってんだ俺の破廉恥野郎!



「お嬢様、起きろほら」


「んん…すぴー」


「すぴーじゃねェ、帰るぞ!」



このままではらちが明かない為、お嬢様を担ぎ上げようと腰に手を回すと、カウンターの向かいにいたもののずっと黙っていたブルーノが、はあ、と溜息をついて言った。



「パウリー、担いだら多分気分悪くなるぞ?お嬢様の奴」


「…じゃあどうしろってんだ」


「そりゃあ、」



ブルーノが視線を移した先を見れば、カクが満面の笑みで両腕を半分ほど曲げてこちらを見ていた。
まさかあれは俗に言う…



「"お姫様抱っこ"だろう」



俺の代わりにルッチが正解を言ってしまう。
冷静になって考える。俺が?お嬢様を?



「いやいやいや無理無理無理」


「…そんなこともできないのかッポー、」



小馬鹿にしたように言うルッチに少しイラッとしたが、それどころでない俺は目の前で寝息を立てるお嬢様を見た。
いやでも、担ぎあげてる間にリバースされたらそれこそ洒落にならない。



「……」



仕方ねェ、と自分の頬を叩いて、お嬢様の膝の裏と背中に手を回す。
ああああなんだこれ壊しちまいそうだな!



「じゃ、お嬢様は頼むぞパウリー」


「また明日ッポー」



当然のように片手を挙げるカクとルッチ。
本当俺は何の為にここへ来たんだ。
そう思いつつそっとお嬢様を持ち上げた時、お嬢様が小さく呻いた。



「…ぱう、りー?」



ぼんやりとした眼で俺を見上げるお嬢様。
正直つらいものがあるが、必死に平常心を保つ。



「帰るぞ、飲み過ぎだ馬鹿」


「…えへへ」



何故か嬉しそうに笑って頷いたお嬢様に「何だよ」と問うと、お嬢様はにっこり笑ったままとんでもない台詞を吐いた。



「今ねぇ、パウリーに"好き"って言われる夢、見たの…ふふ」


「……ッッ」



顔から蒸気が出るんじゃないかと思った。
何してくれてんだ、夢の中の俺!
思わず破廉恥だ、と叫びたくなる衝動を抑える。
酒の所為だ、酒の所為。



「…でね、わたしも言ってあげたの」



その言葉に、思わず動きを止めてしまう。
腕の中のお嬢様は、またふふ、と幸せそうに笑った。



「大好きだよ、パウリー」





お嬢様のそんな声と一緒に、頬に当たる柔らかい感触。

あ?それが何か考えるほど、俺に余裕がある訳がねェだろ!はははは破廉恥だ!







この熱は誰の所為?
(…手が掛かる奴だッポー)
(まったくじゃ)



――――――――――

執筆者様の後書き

パウリーの恋路を手助けするガレーラカンパニーが好きです。笑
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!



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