魔王の部屋
ガッッ………
鈍い音と頭部の激しい痛み。
そして、薄れゆく景色の中で最後に見えたのは教壇で銃を構えるマリアン先生だった。
「で………?
お前は一体何の為に此処に存在してるんだ??
おい、40字以内で答えろ」
『地球防衛のため……』
ジャキッッ
『すみません。間違えました。
学生の本分である勉学に励み、社会を担う力となれるよう心身ともに鍛錬するためです。』
学校には到底そぐわぬ豪華な部屋。此処は魔王……否、マリアン先生の部屋。正しくは“社会科準備室”であった。
その床に哀れな美少女、firstは小さく座っていた。
「俺の授業で寝るなんざ、いい度胸してるじゃねぇか。
頭に風穴空けられたいか??」
粛正チョーク銃、ジャッジメントの大きな口径が目の前に突きつけられる。
午後の最終時限であったマリアン先生の授業で完全に爆睡してしまった私は、正にこのジャッジメントにジャッジメントされた訳だ。
チョークが激突した額はまだ赤く、時折痛みが走る。
こんな殺人的兵器にまたやられては、一溜まりもない!!!!!
私はすぐさま先生に平伏してみせた。
『すいませんっしたぁっっ!!!!
二度と寝ませんので、どうか今一度御慈悲をぉっっ!!!』
「first。“すいません”で済むなら、この世に後悔も痛みもねぇんだよ。」
『……………!!!!!』
絶対的絶望が私を襲う。
ジャッジメント片手に満足げに此方を見る魔王に、慈悲は微塵も存在しなかったのだ。
「おら、余すとこなくやって来いよ。」
ドサッ、と渡されたプリントの束。
我が目を疑った私は、またマリアン先生を見上げた。
『嘘ですよね!!この束!!!!
何かの間違いですよね!!』
「あ?間違いだと……??」
『すみません、喜んでやらせていただきます!!』
マリアン先生から渡されたのは、社会科教科のプリントの束で、提出期限は明日の朝まで。
厚さは約3センチ。
いや、無理っしょ………
本当に泣きたい……
口に出かかった愚痴は、マリアン先生の一睨みで黙らされる。
やるしか道は無かった……
「よし、明日までだ。
ただし、提出時にテストしてやるから、俺が居なければ提出するな。分かったな?」
『はい……了解…です。
たぶんっっ!!!!』
「提出しなければ、お前が後悔するだけだ。
残念なことにな。」
『う゛ぅ……っ』
「分かったらとっとと失せろ。
俺も忙しいんだ。」
シッシッ、とまるで犬を追い払うかのような手つきで 行け、と促されるがまま立ち上がる。
しかし、長い正座をしていた私はの足は、使い物にならなかった。
ぐらり、と世界は揺れて、床にこんにちはまであと何秒?
プリントで両手の塞がっていた私は、ぐっと目を瞑った。
「馬鹿が……
よろけてんじゃねえよ。
お前は婆さんか。」
ぐい、と腕を引かれ、私が着地したのは、マリアン先生の胸の中。
すぐ上にはマリアン先生の顔。
先生の好き勝手に跳ねた髪がチクチクと私をさわった。
『教師と生徒、禁断の恋って感じですか………。
先生なら有り得ますよね。』
「お前は助けて貰って、それしか言えねえのか?
今から保健の授業してやってもいいぞ??」
『いえ、すみません。
結構です。
助けて頂き、誠にThank youでしたっ!!!!』
にやり、と笑う先生に寒気を感じ、私はマッハで出口へと急いだ。
「失礼しました!!!!
さようなら、先生!!」
『おう、
ま た 、後 で な。』
パァンッッ
うん、何か聞こえたのは気のせい気のせい!!!!
自らを走る悪寒を無視して、窓の外に目をやれば空は随分と赤い。
そういえば……
今日はアレンくんたちと帰りに美味しいお菓子を食べに行く約束をしていた!!!!
私はプリントの束を持ったまま、また駆け出す。
ああ、学生は本当に忙しい。
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