試験3日前ですよ。
今までとは人が違うように変わって、真剣な面持ちで化学式を見つめる彼女。
窓の外を見れば、いつの間にか太陽は随分と傾いてしまっていた。
“ウェンハム先生”という言葉が、これほどまでに効果があるとは………
勉強に集中してくれたのは嬉しいが、そのきっかけがその教科担当の男性教師の名前となれば、なんだか気持ちは複雑だ。
いや、これに深い意味はない…の…だが………
目の前で困り顔の彼女に気づかれないよう、小さな溜め息を漏らして、私は少しだけ身を乗り出した。
「どうですか。
何か分からないところでも??」
『あ、リンクさん……
ここってどうなって……』
分からないところを指差しながら、顔を上げた彼女。
そして私たちは、ぴたりと固まった。
彼女まであと数センチ。
まさに目と鼻の先に彼女の顔がある。
いつもよりも随分近くから見た彼女の瞳は、思っていたよりもずっと澄んでいて、素直に綺麗だと思った。
そして、やっと事態の処理に追いついた頭が、ばっと身を引かせた。
「す…すみません……っ」
『え…いや…私がいきなり顔上げたから!ごめんね!!』
机の向こう側の彼女の顔が、少し赤く見えるのは私の自惚れだろうか。
いや、あれはきっと私の顔の赤みが反射されているのだろう。
机を挟んで互いに謝り続けながら、私たちは最後のチャイムを聞いたのだった。
*****
「おーい、お前たち。
下校時刻だぞー……って…
2人して何やってんだ??」
『あ!リーバー先生!!
今、リンクさんに化学ならってたんですよ!!
私、今度は絶対頑張りますから!!!!』
「ははは、そりゃ楽しみだ。
頑張れよ。」
『はい!!』
そう言って、ウェンハム先生に微笑みかける彼女を見て、私はどことなく釈然としなかった。
さて、この気持ちは何であるか。簡潔に答えよ。
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