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イメチェンU!!


とうとうその日がやって来てしまった。

教室に入った途端、雅志様に集中する視線に苛立ちを覚えながら僕らは担任の紹介を受ける。妙に雅志様に馴れ馴れしい担任が癪で、木刀を握る右手に力がこもった。だが、これから世話になる担任に殴りかかるわけにもいかない。ーーが雅志様の肩に置いたその汚い手を離せ、僕は心にそう念じながら怒りを抑えた。

「今日からこのクラスの仲間になる五条雅志と五条葵だ。ほら、2人とも挨拶」
「こんにちは!五条雅志と言います、凄く楽しみにしていたので、仲良くしてくれると嬉しいです」

雅志様の自己紹介を聞いた野郎共は、歓声を上げニヤニヤとキモい。僕は思わず木刀を振り上げそうになった。

「五条葵?どうした、自己紹介しろ」
「…………どうも」
「おいおい、せっかくの紹介なんだから一言くらいつけようぜ?」
「ほら葵、なんでもいいから一言だけ、ね?」
「なんでも……」

雅志様に声をかけていただきながら、僕は考えた。雅志様より僕に注意を向けさせ、雅志様を魔の手からお守りすること、僕にはその事しか頭に無かった。

「自己紹介……雅志様のいとこになる五条葵、デス。雅志様に近づく下衆はブッ殺すので宜しくお願いします」

自己紹介は笑顔でね!そう助言して下さった雅志様の言を実行すべく、僕は笑顔で木刀を床に叩きつけながら言った。騒がしかったクラスが一瞬で静まってくれたので、少し気分が良くなった。床が少しへこんだけど僕は知らない。

「……五条葵、教室は壊すなよ」
「は?」

顔を引きつらせた担任は僕にそう言ったが、僕は素知らぬ顔でしらばっくれる。雅志様が言葉を下されば僕はその通りに動くが、雅志様は嬉しそうに僕を見てくださっている。

言葉がなくても僕には分かる。

『いいぞもっとやれ』

雅志様は顔でそうおっしゃっている。僕はこの調子か、そう自己完結すると、ぼさっとしている担任を促した。

「大子(ダイゴ)先生とっとと席座らせてください、雅志様が疲れていらっしゃるのがわかんないんですか」
「……あそこの、後ろの中央席が空いーー」
「雅志様、座りましょう」
「……僕、葵のそう言う所好きだよ」
「ありがとうございます」

担任は何時の間にか大人しくなってしまったが、僕と雅志様は前後に並ぶ席へと着き、これから始まるだろう授業に備えた。

シーンとしたクラスは、その後すぐに授業にやって来た教師を酷く驚かせたが、雅志様は始終ご機嫌な様子だった。それだけで僕は満足だったが、これから何があるか分からない。少しばかりの不安を胸に、薄れつつあるこの学校の記憶に思いを馳せた。あの頃の僕はきっと、酷く醜かったに違いなかった。



* * *



それはまさに突然降りかかった災難。僕がこんな風になってしまうなんて誰が想像できたか。

事が起こる数刻前。雅志様と僕は、クラスメイト達に連れられ(雅志様に触れようとした連中はもちろん血祭りにしたが)、ただ広いだけの食堂(五条家の屋敷は広くとも日本家屋の趣きがあった)にやって来た。僕は人混みの苦手な雅志様の事だからもちろん誘いなんぞ断わると思っていたが、『葵が行くって言ったら行く』とおっしゃったので、僕は渋々首を縦に振った。雅志様は分かりづらいが、したく無い事には即座に否定を示すようなお方だ。だから即ち、少しでも迷いがあられる時は大抵それをやりたい時。この一年で、僕はありとあらゆる雅志様の癖を覚えて来たのだ。雅志様が言葉にせずとも、雅志様の望むように事を進めるのが従者の役目。僕は一生を雅志様に捧げるのだ。

なんて、食堂に着き、和やかに会話する雅志様に近づく不届き者がいないか目を光らせていた時。

ざわり、食堂が瞬く間に騒がしくなった。その異様さに気付かれた雅志様は、驚いたようにあちこちを見回していた。滅多にそんな表情を浮かべられることがなかったので、可愛らしいなこんちくしょう!そんな呑気さで、僕は雅志様に見とれていた。だがその瞬間。

「おいアンタ!見ない顔だけどすげえ美人だな!」

害虫が雅志様に纏わりついていた。ただ近づく程度なら僕だって忠告で済ませるのだが、害虫はあろう事か、雅志様の腕に手を触れていたのだ。いきなり触れたら雅志様がビックリしてしまうではないか!この僕がその状況を許せるワケがなく。"駿足"、一家からそう称される僕は、瞬間的に木刀を両手持ちに変えて、距離を瞬間的に縮めると害虫目掛けて思い切り振り下ろした。




【あ、葵君……次に練習する時はもう少し力を弱めて貰えるかな?】
【はい。でもなぜですか師匠?】
【ええとね、ほら、あそこの床を見てご覧、木刀が突き刺さっているだろう?葵君がやったんだよ、すごいだろう?あんなの……や、君の力投を受けたら大人もドタマかち割られてしまうからね、気をつけておくれ】
【はい、わかりました師匠!】
【まったくとんでもないガキが現れた、雅志様も酷いお方だよもうあれ私より腕が立つんじゃないの、私の立場がないじゃないか。……鬼畜か……!】
【師匠?】
【あ、いや、何でもないよ、私の独り言……さ、木刀を竹刀に変えて練習を再開しようか】
【はい!】






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