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イメチェン!!


「ねえしいちゃん」
「はい?」
「明日言うよ」
「……はい。……がんばって、くださいね」
「うん」

ある日の夕方、いつものように2人で練習を繰り返していた時、市村隊長は唐突に話を切り出した。2人の間で決めた約束事。イメージが固まったら、三國に真意を問う、というもの。三國に、市村夏とこれからも付き合い続ける気があるのか否かを問うのだ。三國が是、と答えれば市村隊長は野猿から三國をとりもどすべくアピールをし続けるが、否と答えればキッパリと諦めるという。これは、市村隊長の決めた事だった。市村隊長にはもちろん、坂巻少年にとっても、これは大きな運命の分かれ道だった。三國の答え次第で、坂巻少年もまた、諦めるか、それともこのまま関係を発展させていけるかが、かかっていた。

「坂巻」
「はい?(名字呼び?)」
「ぼく今からすごく緊張してる」
「……はい。告白するのってきっと、こんな感じなんですよね」
「気持ち悪くなってきた」
「ちょ……それはさすがに緊張し過ぎじゃないですかね……明日なんですし、もっと気楽にいきましょうよ、ね」
「うう……」

青白い顔で具合も悪そうな彼の様子を見て、坂巻少年はすぐに市村隊長をベッドまで運び横にさせた。こうなるほど三國を想う彼に一層惹かれる反面、それを気づきもしないで野猿に夢中になっている三國に苛立ちがつのる。しかし、坂巻少年は決してそんな心の内を明かそうとはしなかった。惚れた弱みか、市村隊長にはどうしても幸せでいてほしかった。例え自分の淡い想いが崩れ去ろうとも。彼の味方として一番近くに居られるこの関係を壊してでも間に入ろうとは、どうしても思えなかったのだ。

「顔色悪いです……少し横に なっててください」
「ん、しいちゃん」
「はい、なんですか」
「添い寝して」
「え!?」

ゆっくり、市村隊長の頭を撫でてあげている時、突然告げられた要求に坂巻少年は激しく動揺した。すぐさまイエスと返事をして、その布団の中で市村隊長を抱きしめてあげたい位の、願ってもない幸福なお願いなのだが、自分との戦いになる事は必至。坂巻少年の心は葛藤していた。そうやって迷う坂巻少年に、当然ながら市村隊長は問う。

「……いや?」
「いいいいいやなわけないじゃないですかっ!」
「じゃあなんで迷うの?」
「っだって、先輩いつもそんな事言ったりしないし、それに先輩には彼氏がーー」
「しいちゃん、僕の事好き?付き合いたい?」
「!」

突きつけられた思いがけない質問に、坂巻少年の心臓は飛び跳ねんばかり。呼吸を止めてしまうほど、衝撃を受けていた。これは夢か、それとも冗談か、なんて思いもしたが、市村隊長の目はこれが真剣な問いである事を如実に語っていた。
坂巻少年は、グッと拳を握る。

「……好きです、俺、先輩が好きです!意外に男前で、素直で、一途で……気づいたら夏先輩から目を離せなくなってました。正直、あんな顔だけ……って訳ではないけど、あんなサイテー野郎とはキッパリ別れて、スカッとぶん殴ってほしくて……」
「うん」
「でも、俺は先輩が悲しむところは見たくないです。夏先輩が三國会長がすごい好きなのは知ってますから」
「うん。そっか……ありがとう」

ふふっと、柔らかく笑う市村隊長を見てようやく、坂巻少年は我に返った。そして、今し方やらかしてしまった自身の行動を振り返ると、思い出したかのようにカアッと顔が火照りだした。彼の頭は、羞恥心で一杯だった。

「……うう、ああもう、俺こんな事言うつもりじゃなかったのにっ……夏先輩すいません、俺出直しますっ」

この人の一大決心をにぶらせるかもしれない、自分のせいで悩ませることになるかもしれない。そうなるのが嫌で、言うつもりのなかった告白。顔が熱い。彼は自分自身を落ち着けるため、市村隊長のそばを離れようと後ろに下がろうとした。だが咄嗟に伸びてきたその人の腕がそれを阻んだ。

「だめ!」
「あ、あ、お願いです!離してください、俺恥ずかしくて死ねる!時間をください!」
「やだ!」
「やだって……だって、俺、……」
「僕しいちゃんにだったら別になにされてもいいよ、コハクちゃんなんかよりずっとやさしい、だから、ね?今日は一緒に寝てほしいの」

首を傾げウルウルと目を潤ませ坂巻少年を誘う市村隊長。そしてこれは正に、市村隊長と坂巻少年が練習を重ねてきた市村スペシャル、究極の誘い文句だったりする。まさか、こんな時にこれを使われるとは思っていなかった坂巻少年はその光景を直視してしまい、下半身に大きなダメージをくらった。咄嗟に目を反らしてみたが無駄だったようで、一瞬力が抜けてしまった坂巻少年の体は瞬く間に無駄に大きなベッドの中へと引きずり込まれてしまった。市村隊長に抱き込まれる形で布団を被る坂巻少年は、それでも抵抗はやめない。辛うじてベットの外に出ている足を引っ掛け脱出を試みる。小柄な割に力はある市村隊長には敵わないと分かっていても、意地かプライドか、抵抗しないではいられなかった。だが、そんな坂巻少年の様子を見た市村隊長が、面白いはずがない。そのうちに、彼の顔には不機嫌の色がハッキリと映るようになった。

「ちょっ、せんぱい!いま、先輩と会長はまだ付き合っているわけだし俺だって、そりゃ願ってもないお誘いなんですけども!ちょっと心の準備がーー!」
「…………しいちゃんそんなに逆らうとね、僕の方がイタズラしちゃうんだから」
「はい!?」

市村隊長の言葉が意味するものを理解して、坂巻少年はギョッとした。それではまるで、とそんなことを考えたところで坂巻少年の体は突如跳ね上がった。あらぬ所に刺激を受けたのだ。

「ちょ、ちょおお夏先輩なななななにを」
「ん?」

抱き寄せられながら、段々と大胆になるその手つきに、坂巻少年は冷や汗を流す事しか出来なかった。こんな、綺麗な人に自分から触るのはどことなく抵抗感があって、自分から攻めようにも攻められず。こんな彼の思考が祟ってか、彼は見事に童貞だった。

「や、う、ちょ、そこは、」
「きもちい?服脱がしたげようか?」
「うう、いえいえおかまい、なく!え、先輩、マジですか」
「きもちよくないの?」
「いや、…………すごくいいですけど……」
「なに?僕にされるのがやだって?」
「イヤイヤそんなことはないですけど、タイミングおかしくないですか、せめて、先輩と会長の関係がどうなるか分かって、からっ!」
「セフレ、しいちゃんはダメだって言わなかったよね」
「い、言ってない、デスけど、あ、そこはちょっと、あ、待ってくだ、さい!」
「おっきくなった」
「あああああもう、言わなくていいです!」
「…………攻めるのたのしい……」
「ボソって言うのやめてください地味にこわいです!ああもうっ、先輩の意地悪っ!」
「……たのしい……」
「あ!」

こんな様子で、2人は布団の中息苦しい一夜を過ごしたのだった。こうして2人は絆を深め、翌日の大イベントに備えた。後に坂巻少年はこの日についてこう語ることになる。
泣きそうだったと。

次の日が、彼らにとって決戦の日となる。






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