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02


バタリバタリ

人が2人、立て続けに倒れる音で我に返った。顔を見れば、それは先ほど俺を見つけた廃工場の問題児2人。暴れた後の気だるさが残る身体で、頭もぼうっとしている。重い身体に苛立ち、チッと舌打ちをすれば、後ろで誰かがいる気配がした。ハッとして振り返れば、強張った顔でこちらを見ているあの男がいる。まだ居たのか、そう思う反面逃げるならとっとと消えてくれとも思う。そのままどちらも動かず見つめ合う形になったが、この状況に先に耐え切れなくなった俺は、一言も発する事なくその場から踵を返した。かけられる声は、なかった。

その後は、見つかる度に相手を張っ倒しながら家まで向かった。自分でもどうしたいのか、どうなりたいのかも分からず俺は逃げ帰った。何が原因だったのかは分からないが、精神的にキていたようだ。相変わらず自分はよわっちい。逃げたくなると相手を突き飛ばしてまで逃げ仰せようとする幼稚さ。ますます卑屈になりそうで考える事すら嫌になる。

俺はそのまま食事もとらず、シャワーを浴びるとすぐさま布団に入った。これからを考えると吐き気さえ催しそうで、何も考えずに、テレビの音を聞きながら眠りに着いた。



* * *



朝、俺は起きろとそう叫ぶ声と、ドンドンと戸を叩く音で目を覚ました。まだ朝の7時だと言うのに、騒がしい外と重い瞼に苛立ちが湧き上がる。珍しく夢も見ずにグッスリと眠れたと思えば、この寝起きの悪さ。昨日が昨日だったため、昼過ぎまでゆっくり寝て過ごそうかと考えていたのに。出鼻を挫かれた気分だ。

畜生、そう思いながら俺は軽く髪を整えると、叩き続けられているドアを開くべく、カギを開錠した。どこの能無しだと、苛立ちを込めながら勢い良くドアを開いた。ゴツン!と鈍い音がしたのは気にしない。

「うるせえっ、朝っぱらから誰……」

ドアを開いて文句を言って、その近所迷惑な輩を確認した所で、俺は思わず動きを止めた。相手も何を驚く事があったのか、傷だらけのまま正座し、俺を見上げた状態のままぽかんと口を開けていた。なにをジロジロと、そう不審に思っていれば、そいつらーー昨日ボコった例の2人は唐突に声を上げた。

「サガラさんのエッチー!エローい!」
「ギャー服ぐらい着て下さい襲いますよ!」

奴らは何をしにここまできたのか、奴らはデカイ声で意味不明な事を叫ぶ。理解すらしたくない。奴らがそんなだから、俺は開けた戸を思いっきり閉めてカギをかけた。中で適当なシャツを着て(別に裸だったわけじゃないが)、再び布団の中に潜る。さらに騒がしくなった外の騒音を耳に、今度は絶対に開けるもんかと固く心に誓うと、耳にイヤホンをつけて音楽を聞きながらそのまま無理矢理眠りについた。睡魔に身を委ねながら、奴らどうやってここの場所を知った、とか、何しに来やがった、だとか、そんな疑問には知らないふりをした。先ほど、元々眠かった頭を無理矢理起こしたせいもあって、再び深い眠りにつくのはすぐだった。



「ねぇサガラさん起きて下さい、じゃないと、今度こそ危険ーーあ」

突然、ハッキリと耳に入ってきたその言葉に、俺は衝撃を受けて飛び起きた。布団を蹴って(一緒に何か硬いものも蹴った気がするが、)起き上がった。それから、まず始めに視界に入ったのは、うじゃうじゃ詰め込まれたように突っ立つ廃工場の連中。思わずこれは現実か、と頭を抱えた。そして。

「サガラさあああん!先日はスイマセンっしたあ!!」
「もう絶対暴れたりしませんから、居なくなったりしないで下さいよおお!!」
「「お願いですっ!!」」

傷だらけの例の2人が、物凄い勢いで土下座をし、何やら大声で謝罪をし始めたのだ。何が何やら、どうやってここに入り何に対して謝っているのか、寝起きのせいもあって、俺はただ混乱するばかりだった。そんな時だ。混乱する俺に助け舟を出す人が1人。

「ほら、サガラさんこの前しばらく廃工場に行かなかったんでしょう?だから今度は自分達のせいでサガラさん二度と来なくなる、ってみんな思っちゃってるらしくて……ね、違いますよね、サガラさんはまたちゃんと廃工場行くよね?」
「……ん?」

その言葉を聞いて、確かにしばらく姿を消していたからこいつらが勘違いをしてもおかしくないが、と思い直し、ふと声をかけてきたその彼を見上げた。が、その彼が誰かを認識した俺は動きを止める。

それはなぜか、ナカライさんだった。つい最近、昨日だか一昨日だかに初めて会ったばかりの人が、なぜ連中と一緒に部屋の中に上がり込んでいるのか。俺はもう、状況を呑み込むだけで精一杯だった。

「?どうしたんですか?」
「……色々あるが何でナカライさんがここに……や、って言うか第一どうやってこの部屋に入ってきたんだよ、カギはかけたハズだし大家にだって……」
「口止めと拒絶、だろう?」

困惑と動揺に揺れながら口を開けば、更なる声がした。ナカライさんよりも、廃工場の連中よりも低くて落ち着いたその声。

「金の使い方が足りねぇな。◯十万出したらコロッと転がって来たぞ?甘いぞ、あ?」
「………………そこまでするか普通、高々この家に入るくらいで……」
「ハッ、こんな端金出したって構わねぇよ、テメェの居場所突き止めたってだけで多少の箔はつく。景気付けだ」

フン、と鼻で笑うその男は相変わらず偉そうな口調でそう言い放ち、俺は返す言葉すら見つからなかった。なぜかその頬に殴られたような跡がある……、蹴ったかもしれないが俺は知らない。

この男、名を龍崎といい、とある組の若旦那をやっているだとかなんだとか。色男なだけに噂は色々あるが、兄貴分、と廃工場の連中にも中々慕われつつあるようだ。

思えばこの男も、タチバナもイツキもここにいる連中も。なぜ俺なんかにここまで食いつくのかと思う。いくら考えても、本人達に聞いても、どうしてかはサッパリ分からない。が、これが現状なのだ。

溜め息ばかりが口を出るが、なんとなく心持ちは明るい。自分で選んだわけではないが、1人進んで来た道は存外暖かくて居心地は良い。そう思ったら一転、嫌な気分も少しは良くなりそうだった。

俺の反応を伺っているのか、普段騒がしいことしか出来ないような連中が静かに俺を見ている。何だかそれすら可笑しくって、俺は下を向いて顔を手で覆うと、静かに口を開いた。

「あそこは元々俺が見つけた場所だ、居なくなる訳がねぇだろ、むしろテメェらどっか行けよ」

段々と笑えて来て、俺クスクスと一頻り笑った。俺をポカンと見つめる廃工場の連中、散々俺の周りを引っ掻き回しやがった若旦那、なぜか不良の溜まり場にまで足を運んで来た超がつく程の美丈夫、こんな状況全てが兎に角可笑しかった。






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