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蝶々


私は人間が嫌いだ。美しいこの私を賞賛して好き勝手に蹂躙していく。だから私は狡猾に、ずる賢くなるしか生き残れなかった。こんなだから、私は決して人を好きになる事なんか無いと、そう考えていた。だから、国を破壊するのが目的だという、頭のイかれた男についていく事にした。

彼は僕を大層気に入っていたし、僕も、自分よりも大きくて強い、世界を変えてしまう程の力をもったあの男を従わせて蹂躙することに優越感を持っていた。ーーいつか、国を引っくり返して王になったこの男を、組み敷いてみたい。それが僕の願望だった。

「あ、あッ、うんんっ、はやくっ、もっと!」
「っこの、淫乱め!気持ちいいんだろ?オラ、もっと善がれよ!」
「ひあああ、んんっ、激しいいっ、ああッ!あ、気持ちいい」

それは偶然だった。フラフラ、人のいない場所を探していた時だった。寂れた街の小さな一角。人目につかないような狭い路地裏に、彼はいた。小さな身体で男の大きなものを受け入れ、怪しく哭いている。しかし、その鳴声とは裏腹に、眼光は酷く冷めきっていた。それはそれは、男を食い殺してしまいそうな程の鋭さで。そして。

「オラ、イく、ぜっ……!」
「んんっ、……あ〜、サイアク」
「あ"っ、ガハッ!?」

男が、彼の中に精液を吐き出したその瞬間。彼は目にも止まらぬ早さで、懐から取り出したナイフを男の首目掛けて突き刺した。運良く……いや、狙いを定めたナイフは確実に男の急所を突いていて。瞬く間に男は赤く染まり、倒れた次の瞬間には動かなくなっていた。

「下手くそ」

彼は静かに言い放ち、簡単に衣服を整えると、血まみれのままその場から離れていった。鮮やかな手つきで、彼がただの人ではないことは十分想像できた。

私は衝撃的な出来事の余り、暫くその場から動くことができなかった。彼の、あの冷たい、けれど壮絶に美しい目を忘れることができない。誰も信じていない、けれど何かの為に突き進むあの目。私は珍しくも、欲しいと思ってしまった。あの目で自分を貫いてほしい。私はこの時、完全に狂ってしまったのだ。


 











「お前っ、このっ、この野郎!ヤりやがったな!!」

それから一年も経たず。

「アンタは俺らの仲間だって、軍のなかでもアンタは信用してたのに……詐欺師め」

彼は私の元へ堕ちてきた。

「殺す、殺す、殺すっ!」

思い思い、連中は切れない鎖に縛られながら彼を罵倒する。いくら叫んでも何も変わらない。今や連中は哀れにも私達反乱軍の捕虜なのだから。なによりも、連中は彼の本当の姿を知らない。

実の弟に罵倒され拒絶され、ひとりさめざめと涙をながす彼。
軍の連中にいいようにされながらも、ひとり冷めきっている彼。
連中を蔑むような態度をしながら、それでもどこか嬉しそうな彼。

大して親しくもないくせに、いけしゃあしゃあと彼を人非人呼ばわりする。彼を知りもせず彼に敵意をむける連中に、殺意がわく。殺すなという彼との約束だったが、これはいただけない。震える手が思わず腰にさがるナイフにかかった。
そんな私に気付いたのか、ただの気まぐれか、その時彼は、お得意の口撃にでていた。

「は?仲間?所詮は出来損ないの集まりでしょ?なんで僕がアンタらと仲間ごっこなんて巫山戯た遊びしなきゃなんないんだよ。……っつーか僕、軍人って大っ嫌いなんだよね、殺したくなる」

吐き捨てるように、言い放てば、連中は更にいきり立つ。だがそれを制し、静かに口を開いた男がいた。あの、男だ。

「だったらなぜ、2年もここに?さっさと離れればよかっただろ?」
「っ、……お金が、必要だったんだよ」
「なぜだ?理由は?」
「そんな事、お前らに言うわけないじゃん」

しつこく食い下がる。男は、彼の上司でいて、彼が恐らく最も好いていた男ーー。大して顔がいいわけでもない。威張ることはしないが、自分の力を恐れ、それでいて自分のやっている事が正しいと信じて疑わない、
ただの偽善者だ。

「なぜ?君はこういう事を私達に出来る人間じゃないだろう」
「……出来るからこんなことになってるんじゃん」
「人質がいるんだろう」
「っ……」

ほら、必死で押し隠そうとしているが私には分かってしまう、彼が男を見つめる目に熱がこもっているのを。

ああ、なぜだろうか。思いながら、ナイフを持った手に力が篭る。許せない。

そんなつまらない人間に、どうして彼は心奪われているのか。私には理解できない。絶対に私の方が彼には相応しい。優しくできるかは分からないが、私だって強いし影響力もある。あんな男よりも皆から好かれているし、何よりルックスだって負け知らずだ。
あんなのに、負けるはずがない。

負けるなんて、ありえない。

『ーーひとつだけ……彼らを殺したら許さないよ』

"彼ら"と言いながら彼の目に映っているのがただ1人なのは知っている、そう、あの男なのだ俄かには信じ難く彼自身だって気づいていないのにそれでも私は分かるのだ、彼はあの男を好いているそれならば彼らの関係を壊すしかない、彼にとっては誰よりも弟が、全てだから。

「ならば俺と軍を出よう」
「っ!?」
「俺の家で暮らせばいい、働けるように手をかそう」
「な、んで、そんな事」
「苦しそうな君は見たくない」

彼が男の言葉に迷う姿を見た瞬間。血が滾りこのまま男を、と。連中目掛けてナイフを振り上げた。

「っ!だめだって言っただろ!」

瞬間、彼は目敏くもそれに気付いて私と連中の前に躍り出ると私の腕を捕らえた。一瞬見えた彼の必死な表情が、酷く気に障った。

「そうか、やっぱり君は……」
「?」

困惑顔で私を見上げる彼は酷く幼く、少年と言える年相応の顔をしている。今のままでは、自分は彼の一番にはなれないかもしれない。だがそれでも、私が彼を暴く事が出来れば、彼の全てを知りさえすれば、とそう思ってしまっている。

罠を張り、私は彼がそれにかかるのを待っていたはずが。今や私の方が、気づかぬ間に彼の魅惑の糸にズルズルと巻き取られていってしまっている、まるで蜘蛛の糸に絡め取られた蝶々のように。決して脱出することが出来ないほど巻きつかれて、もがく度に糸は一層絡みつく。
二度と解放されることのないほどに。

「ダメだね、私が我慢出来ないとは……」
「?」

スッと頭から血が抜け、我に返った。この状況が可笑しくてたまらない。人を好きになることなんてないと、そう思っていたのに。彼の腕を優しく振りほどき、私はさっと彼らに背を向けた。

「さて仕上げだ、×××、おいで。奴らに良いものを見せてあげるんだ、我らが王に任せておけばみんなぶち壊してくれる」

私はクスクス笑ながらその場から去る。民衆を扇動するのは私の役目。ちょこちょことついてくる彼を背後に感じながら、私は最後の望みを託した。

願わくば、彼が私を見てーー






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