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愛と言う名の


愛と言う名の

「気がついたか?ああっ、良かった、良かったっ……涼一(リョウイチ)、ごめんよ、俺が、俺がもっとちゃんとしてれば……」

そう言って泣き続ける男。空っぽの心がたちまち暖かくなった。キツく抱きしめられ、何度も何度も謝られる。愛されてることが酷く嬉しくて、俺はそっと目を閉じた。それが、つい三カ月前の出来事。俺の前方不注意ゆえの交通事故で入院していた俺を、父親は酷く心配していたようだった。



それから俺は、中途からでも入学出来る私立高校に入学した。前の高校は出席日数が足りず、だいぶ前に退学になっていたようだが、そこは一司さんが何とか掛け合い融通をきかせてもらったようだった。勉強はサッパリだったが、進学校でもあるその学校は、俺の将来を考えた一司さんが選んでくれた学校。俺は懸命に勉強し、授業に追いこうとした。何としてでも一司さんの期待に応えたいと、そう思ったのだ。
最初こそ族あがりの不良だの親の七光りだの噂をたてられたが、努力はやめなかった。今まで好き勝手やってきた俺なりの孝行だ。それに、噂だって強ち嘘ではないし、自分自身に課せられた罰だとさえ思っていた。俺は何を言われようとやめなかったし、例え1人っきりでも高校は絶対に卒業しようと決めていた。

猛勉強の成果か努力の成果か、その後はクラスにも少しづつ馴染めてきていた。まだまだぎこちなくとも、ふとした時に助けてくれる。話しかけてくれる。不器用で人見知りな俺には、それがとても助かるのだ。

あの日から俺は相当な進歩を見せた。一司さんとの仲もうまくいっているし、これほど幸せな事はない。そして。

「リョウくんごめん、ホームルームなかなか終わらなくって」
「イイって、大して待ってないし」
「そう?ごめんね、ありがとう。じゃ、行こっか」
「ああ」

俺が気になっていた他クラスの女の子とは最近よく一緒に過ごすようになった。付き合いはまだ一ヶ月程だが、彼女は俺が自分から話ができない人間だということを分かってくれている。さりげない心遣いが、俺の癒しになる。まるで、彼女が俺に気があるのでは、そんな自惚れさえ抱いてしまうほど、彼女は俺と一緒にいてくれた。彼女はまた、分かってくれているのだろうか。俺が寂しがり屋だという事を。いつも隣に誰かがいないと、内心落ち着かないのだ。
だれか、が一緒にいないと……。


そういう幸福を前に、俺はここ最近、酷い夢を見るようになった。内容こそ思い出せないが、嫌な気持ちばかりが残る悪夢……夢の内容を思い出そうとすることすら苦痛で。俺はそれ以来眠る事が嫌になった。だから最近は、いつも少しばかり寝不足だ。隈ができてる、とクラスメイトに心配される日もあって。だからその日もまた、俺は寝不足だった。だが、その日の午後は酷い眠気と頭痛に耐えきれず、心配する教師に断りをいれて学校を早退する事になったのだ。1人きり、校舎から出、街に入りとぼとぼと帰り道を歩く。いつも一緒の彼女がいない事が酷く悲しかった。

「イチッ!!」

切羽詰まったその声に、俺は周囲につられて思わず声の主を見てしまった。それが、始まりであり、終わりでもあった。

「良かった、良かった…ずっと、ずっと探してた……!」

突如現れたその男に抱き締められて某然と立ち竦む。わけが分からずどうする事もできず、俺はただ男が自分を離してくれるのを待った。心配した、身体は大丈夫か、あいつらにはキツく言って置いた、だから戻って、だの何だの喚く男に、俺は声さえかけられなかった。そして。

「なぁ、どうして何も言ってくれないんだ?」

そう、悲し気に締めくくった男はようやく顔をあげ、

「俺達、兄弟だろう?」

自分と同じ顔、同じ身長、同じような髪型ーー、俺は思わず目を見開いた。

「なあ、涼一(リョウイチ)」

きっとそれは
自分だけが知らない






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