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蝶々


「選べ」

ジリジリ、精神的に追い詰められた僕は、息をつめて選択肢を突きつけてきた美丈夫を見つめた。この美しい男は、僕たちの敵。国を守護する僕たちとは正反対の組織、反乱軍の一人。

反乱軍の中で、彼はその美しさで有名で、しかし誰にも靡かない硬派として人気を集めている。彼に魅了される人間は後を絶たず、反乱軍が着々と支持者を増やす最大の要因でもあった。容姿と甘い言葉を使い分け、巧みに人間の心を操る。彼がリーダーではない事が不思議なくらいの影響力を持っている。しかし彼は、上には立ちたがらないのだという。まるで、獲物が近寄ってくるのを待っているのかのよう。底知れない。だからこそ、彼は危険だった。

笑みを浮かべながらジッと僕を捉える。余裕を見せている彼はきっと、僕がそれを断れないと信じて疑わない。

「お前の仲間か?弟か?」

美しい。だが僕は決して彼には傾かない。言い切れる、そうだったはずだ。

「私は知っているぞ、お前は国軍を憎んでいる事を」
「やめろ……」
「この国が滅びたとしても、お前達2人が生き残ればそれでーー」
「やめろッ、言うな!」
「イイと思っている事」

私は知っているんだぞ?

ジリジリ、逃げ腰の僕を嘲笑うかのように笑みを浮かべ、近寄ってくる男に、僕は一層の恐怖を抱いていた。一歩、また一歩、僕は男から離れる。男の言っている事は、事実だった。

僕が暴かれるのは初めてだった。人好きのする上っ面を張り付け、従順になれば皆コロリと騙される。簡単だと思っていた。

国軍に入ったのは、軍人に襲われて以来臥せってしまった弟を養う為のカネが欲しかったから。カネ目当てで無かったら、僕が憎き国軍に入ることはまずあり得なかった。

僕が、貧乏人ながら貴族のような高い地位にいるのは、僕を身心共に気に入った高位の軍人の計らい。自分のプライドなどとうの昔にに捨てた。国の上に立つような男達が、この身体を貪る醜い姿はまるで畜生。僕はその阿呆さ加減を蔑むのが唯一の楽しみ。
我ながら狂っている。

ただ、
今僕が居る部隊は中々気に入っている。時々僕は、自分がどういった人間なのかを忘れ、彼らと共にヒーローごっこに明け暮れてしまう。茶番劇ではあったが、今までに無い程充実した日々だった。

隊長は優しくて、貴族ながら僕の意見を大事にしてくれる。かっこ良くて、背が高くて、それでいてもの凄く強い。ただの小隊長に収まっているような小さな人間じゃあないはずだ。欠点さえなければ。こういう人が軍のトップなら僕だってーー。

そして、小隊に居る人たちはみんなーー隊長も含まれるのだがーー、ワケありで隊に入れられたらしい。殺人鬼と呼ばれる程人を殺してきた男、高官の妻を寝取った反社会的ナルシスト、高官の命令には従わない大男、狡猾で人を騙しまくる詐欺師の僕ーーそして、暴走すると敵味方関係無く殺戮してしまう最強の隊長。よくもこんなに曲者が集まったといつも思う。でも僕は、彼らの歪み具合が好きだ。

闇に紛れ密かに軍の機密を盗み出したり、高官の不正疑惑を暴露したり、お陰で僕らは軍の爪弾き。だがそれが、僕には合っていたのだ。しかも軍人の爪弾き者達が軍の最高戦力だなんて、とんだお笑い種。僕ら無しではこの国はとうに滅びて居るはず。それはとても、滑稽だ。

こんな僕は、暗がりに生きる蝶。暗闇に紛れ甘い蜜を探している。枯れるまで吸い付くした花は、捨て置くまで。また新たな花を探し、良い顔をして僕は飛び回るのだ。

「私の気が変わらない内に、どうにかした方がお前たちの身のためだぞ?」

そして、

「どうした?ただ私を受け入れるだけで、お前の弟は幸せになれるんだぞ?たった、それだけの事で」

男は、さながら世にも美しい蜘蛛。罠を張り、獲物が飛び込んでくるのを待っている。
その獲物は、僕だ。

終ぞ僕の足は止まって、目の前には男。そのしなやかな手を僕の頬に当て、男は僕の顔を覗き込んできた。彼の恐ろしい笑みを見てしまって、拒絶なんてできるはずがない。
弟か最後に笑ったのはいつだったか。なぜかそんな思考が頭を過ぎった。
抵抗しない僕を見て是と見なしたのか。
彼は僕を






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