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02


学園では桐生奏斗(キリュウ カナト)と呼ばれる彼は元来、平凡と呼ばれる程平凡な顔立ちはしていない。全体的に顔のパーツは整っているし、世間一般に言えば、中の上だろうと評価されるような容姿をしている。しかし、何分彼の居るこの学園では、アイドル並みの容姿をした生徒が多い。故に、彼の容姿は埋もれてしまうのだ。

それでいても、彼の見た目が酷いわけではないし、決して誰かに理不尽に暴力を振るわれる程態度が酷いわけでも、学校全体から嫌われるような行動をしでかしたりもしていない。大した理由など、在りはしない。ただの、憂さ晴らしだった。

「早く、此処から出て行け。目障りだ」
「う、あ、」
「「痛そー」」
「顔はヤッてはだめですよ。ハルが感づくでしょう」

それでも彼は、理不尽にもただ早乙女に気に入られているというそんな単純な理由で、日常的に何人もの生徒たちーー特に彼ら生徒会の人間ーーからバッシングを受けているのだ。一見すると少女にも見える早乙女は、数ヶ月前に同性愛の蔓延るこの全寮制の男子校にやって来た。

そして、幼くも真っ直ぐな早乙女は、学園で孤独だった有名どころを、恋愛的な意味で次々と落としていった。生徒会に近づく者は排除される、というのが学園での掟のようなものであったのだが、早乙女は尽くそれを破り、学校の色に染まりきっている生徒たちを苛立たせた。その雰囲気はたちまち全体に蔓延し、早乙女は格好の虐めのターゲットとなった。

しかし、学校を取り仕切る生徒会自体が早乙女に惚れ込んだ人間の集まりとなっていてーーあとはお分かりだろう、生徒会がバックに控える早乙女に危害を加えることが出来ず、堪ったフラストレーションは早乙女の同室者でもあった奏斗の元へ向いたのだ。以来、奏斗は虐めのターゲットとなってしまったのだ。



容赦のない彼らの暴力に、我慢強い奏斗も思わず呻き声をあげた。校舎裏で受けた傷を抉るように重点的に狙われるのだから、堪ったものではなかった。気を抜けば意識が飛んでしまいそうで、奏斗はひたすらに耐え抜く。

いつも、罵倒雑言だけなのに今日はやけに暴力を受けると、奏斗は意識にしがみつくため考え事を始める。普段も似たようなものだったが、今日のようにここまで暴力を振るわれるのは初めてだった。何かあるのだろうか。奏斗は意識を繋ぎ止めるように必死で頭を動かした。と、その時だった。

「ーーそこまでにしておきましょう?ハルに気づかれる前に出ないといけません。それに明日のための資料も用意しておかないと」
「…………」
「……ほら、さっさと動いて下さい。また転入生だなんて全く……」

どこかいらついた様な副会長のセリフで、会長は奏斗から手を離した。同時に、自分の身体の重さに耐え切れなくなった奏斗の身体は、床にドサリと放り出される。痛みと熱で、奏斗の息は荒い。必死に起き上がろうとするも、体は動かなかった。
そんな奏斗を見ながら、その場に居た双子の会計達はただ嘲笑っているだけだった。

「ほら、ハル達がもどってくる前に、部屋に置いてきてください」
「……立て」
「っつ、」

無理やり立たされ、そのまま自分の個部屋に放り投げられる。奏斗は床に身体を強く打ち付け、更なる痛みを訴える。そしてそれを知りながら、会長は奏斗に向かって吐き捨てる。

「いい気味……そんなんで狗(イヌ)が務まるはずがないでしょう、嗤えますよ」

そう、言いながらニヤリと笑うと、副会長は扉を閉めた。奏斗は、朦朧とする意識の中、投げかけられた言葉の意味を理解しようと考える。しかし、途中で疲れが勝るようになり、床に寝転んだままの状態で奏斗は意識を手放した。

ーー明日はあの人に会えるといい、

そんな、叶わぬ夢を願いながら、奏斗は今日も天に向かって願う。






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