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01

次々と降ってくる暴力にも暴言にも、何をやり返すでもなく何を言い返すでもなく、彼はただただされるがままだった。それでもまだ昔よりは良い、だなんて彼は半ば諦めていた。そして、いい歳をした会社の将来を担う連中が、無抵抗な人間に暴力を振るうというこの状況を彼ながらに悲観しているのだ。

また同時に、彼は見定めている。使える人間なのか否かを。例えばこうやって、無抵抗の彼に、ただ気に入らないだなんていう下らない理由で集団暴行を加えている連中。そして、それを命令し自分は高見の見物を決めこんでいる連中。そういう人間を、彼は“必要のない”人間としてカテゴライズしていくのだ。すべては、“将来”のために。彼自身、そう考えていなくては理不尽な暴力に頭が狂いそうだった。

「ーーっ!」
「つっまんねぇな、抵抗ひとつしねぇし」
「皆が怖くて手も足も出ないんじゃん?」
「違いねぇな」

両手を拘束されたまま腹に攻撃を受けて、彼が思わず息を詰めると、殴りつけてくるその生徒と、それを傍観していた内の一人、つまり今回の件の首謀者が彼の事を目の前で囁く。そういう彼らのやりとりを聞き、彼がそういう生徒達を"要らないもの"にカテゴライズしているだなんて、彼らは知らずにいるのだ。

「ーーねぇ、アンタ、何か言ったらどう?」
「…………」
「オイ、凌ちゃんが話しかけてやってんだ、ちっとくらい何か答えろよ」
「ねぇってばぁ……ーーッチ、」
「ッ!ケホッ、」
「何コイツ。本気でつまんないんだけど」

対面して話しかけても、何も返さない彼に痺れを切らしたのか、押さえつけられている彼の腹を思いっきり蹴り飛ばした。小柄であっても男は男、食らった彼は咳き込んだ。ソレを見て、首謀者はさらに機嫌を損ねていく。

「もういい。終わりにしよう。本気でやっていいよ。けど僕は先に戻ってるから」
「ははっ、了解。残念だったなぁ、平凡野郎ーー」

その声を合図に、男たちは彼への攻撃を再開した。先程の、ネコが獲物をいたぶるようなお遊びではなく、今度は本当に彼に苦痛を与えるように、容赦がない。彼は、歯を食いしばり、ここ最近では一番の痛みに耐え抜くーー。














そうして幾ばくかの時間が流れ、彼は連中から漸く開放された。さすがの彼の身体もボロボロで、しばらくは痛みにその場から離れることが出来なかった。校舎裏という薄暗い場所で、近くに生えている木々の一本にもたれ掛かり、目を瞑りながらゆっくりと息を吐く。息をするたびに腹が痛んだ。ぼんやりとしながら、彼は思いを馳せる。

早く、この生活から抜けだして、あの家に戻りたいと、彼は切に願い懐かしい彼の人の顔を思い出していた。だが彼がこの学校へやって来たのにはそれなりの理由がある。故に、彼をここへ追いやったその男の“命令”に彼は背く事ができないでいる。

せめて、此処へ来る前に彼があの人に会えていたなら、彼にとっては良かったのかも知れない。しかし、そんな猶予も彼には与えられなかった。きっと、それがその男の狙いだったのかもしれない、彼が二度とあの人の元へ戻る事が出来ぬよう、仕組んだつもりだったのかもしれない。彼はそこまで考えると大きく深呼吸をし、自分の部屋へと戻ろうと軋む身体を動かした。自分の部屋に戻るのも苦痛だなんて、彼には弱音を吐ける人間さえここには居なかった。それでも彼には、従わざるを得なかった。

「奏斗(カナト)!お帰り、今日は大丈夫だったか?早く入れよ、皆待ってる」
「……ああ」

キーで鍵を開け、自室に足を踏み入れた彼を迎え入れたのは、彼の同室者であり、彼を不幸のどん底にまで貶めた張本人だった。名を、早乙女 晴也(ソウトメ ハルヤ)という。早乙女の言う皆とは、早乙女を慕い盲目なまでに好意を寄せる連中の事ーー。早乙女も連中も、本当の意味で彼を理解すらしていなかった。

彼が足を踏み入れると、2つある大きなソファーは彼らに占領され、彼の座るスペースなど無い。一刻も早く痛む身体を休めたかった彼には、立たされたままの状態は負担になるばかりだった。だから奏斗は、挨拶もそこそこに自室へ戻ろうと向きを変えたのだ。
だがしかし、それすらも叶わずに阻まれた。捕まれた左腕が、痛みを訴える。

「待てって、皆奏斗とこの前の続き話したいんだって。部屋に戻んの待ってよ」
「そう、ハルの言う通りなんだ。ーーすぐ終わるからさ、コッチに来るといいよ」

ああ来たと、彼は半ば呆れ気味に、それでも無表情に振り返ると、ソコには笑みを貼り付けて彼を威嚇する副会長の姿があった。その後ろには、彼を無言で威嚇する生徒会長、会計2人、書記の面々がある。彼がそれを認識するが早いか、早乙女に腕を引っ張られて、彼は引きずられるようにソファーの前に連れてこられた。そうしてそのまま、ちょっと話があるからと、書記に連れられ早乙女が個部屋に篭ったのを見計らうと。彼らは本性を現す。

「桐生奏斗(キリュウ カナト)ーー」

微かに息を詰めると、それがクスリと嗤った。






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