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003


理事長室に侵入し、目的のものを頂戴した俺たちは、それからちょうど一週間後の今日、行動を起こすことに決めていた。問題になっていた生徒会長の処遇だったが、結局、一週間がたつまで誰にもこのことを話さないと誓わせ、生徒会室でヤツを解放した。もちろん、こいつが何かを話さないように監視をつけたが、ヤツは何を思ったのかなんの行動も起こさなかった。頭は悪くない。きっと何か思うところがあったのだろう。

時折、変装している俺を観察している時がある。 最初の二日間、俺は変装がバレたのではないかと気が気でなかった。しかし、向こうは何かアクションを起こしてくるでもなく、ただチラチラと視線をやるだけ。まあ任務が終われば俺は適当な理由をつけてここからいなくなるのだからあまり気に病む必要も無いんだけれど。

こうして、俺たちは理事長側に変な動きはないか監視を続けながら、俺に見向きもしないで平凡にデレデレしている連中を目の端に捉えて、無事に一週間後を迎えた。俺はその日の前日、生徒会長であるヤツとコンタクトを取った。もちろん、もじゃもじゃの姿ではなく、仕事中の俺の姿で。仕事中、俺達は出来るだけ派手な格好で臨む。派手な印象を与えておけば、格好に目が行き、潜入時に目立たない格好でいると案外同一人物だとバレないで済むのだ。念のためと、皆変装マスクやカラーコンタクトをつけるようにしてはいるが。

そんなこんなで、俺はちょっぴり派手な素面をサングラスで隠し、ヤツに会いに出向いた。夜遅く、ヤツが確実に1人になる時間を狙って。

「よう、久し振りだな、生徒会長、一ノ宮宗輔(イチノミヤ ソウスケ)」
「!?」
「おっと、ヘタに動くなよ。動けば明日の昼まで眠って貰う事になる」
「っ、アンタ、何しにきた……」

音もなく背後から近づき、首筋にスタンガンを近付け、バチバチと云う音を聞かせて言い放つ。声では警戒しているようだが、俺の本気を察したのか、すぐに動きを止めている。賢い賢い。

「そうだ。物分りがイイヤツは好きだぜ」
「…………」
「さて、とっとと終わらせよう。要求を飲め。明日の朝、お前名義で全校集会を開け。理事長にも来るように伝えておけ。お前の言葉にはアレも逆らいにくい、……簡単だろう?」

耳元でそう呟けば、会長はビクリと肩を震わす。自分よりもデカイやつを手駒に取るのは気分がいい。おれはからかうようにこいつの首筋をすすっと撫で上げた。

「よ、うきゅうは、それだけか」
「ああそうだ。理事長に、今ここで連絡しろ。今は理事長室にいる。アレがいなきゃ集会が台無しだ」
「……分かった」

何分素直なコイツに物足りなさを感じながら、俺は電話をかけるコイツを後ろからマジマジと見遣る。極上の美青年、と言えばいいだろうか。俺は、コイツと面と向かって話すのが苦手だ。纏うオーラといい、顔といい、完璧過ぎる姿にコンプレックスを刺激される。ふうっ、と溜息を吐けば、電話が終了したようで、ガチャリと受話器の下ろされる音が聞こえた。俺は気を入れ直しながら再び声をかける。

「よし。それじゃぁ明日、集会を開くのを忘れるなよ。俺らが仕切らせて貰う」

言い終わるのと同時にその首からスタンガンを遠ざけ、素早く踵を返してそのまま立ち去ろうとしたが、早口に言う会長の声が聞こえ、俺は思わず足を止めてしまった。振り返ることはしない。

「待て!ひとつだけ、教えてくれ」
「……ものによる」
「あんたら、何をする気だ?」
「……いきなり核心かよ……詳しくは言えねぇが、この学園にとってタメになることだ。メリットはお前らにも大いにあると思っとけ」

さっさと応えて部屋を出ようと足に力をいれた瞬間。後ろでヤツみ動く気配を感じた。待ってなんかやらねぇぞ、俺は得意げに走る、のだが。腕を、取られた。

「捕まえた!」
「なっ!?」

……いやいや、本来あってはいけない!いくら俺が走りが苦手だからって一般人なんかに……や、こいつは一般人なんかじゃないのか?いやいやいや、兎に角精鋭チームを纏める存在の俺が捕まるワケには……!

「っのやろっ!」
「っつ、アンタでも焦るんだな」
「!」

こんな風に捕まるような経験(しかもガキにだ!)など無かった俺は、柄にもなくちょっぴり焦ってしまった。この顔も目が眩むから苦手で……そのせいで、自分でも間抜けだと思えるような失態を犯してしまう。直線的な攻撃は、相手に読まれやすくて隙も生まれやすい。しまった、と思った時には手遅れだった。

攻撃は相手の懐に入った。だが、急所には当たらず大した威力もなく、結局俺は足を払われて情けなく手を床につけてしまった。

だが、俺は意地でもこのままでは終われない。残る足で相手の鳩尾目掛け蹴りを食らわす。しかし、それは予測済みだったらしく俺の手を掴んでいない手に受け止められた。それでも諦めがつかない俺は、歯を食いしばり、片腕と片足で2人分の体重を支えるという無理な体制のまま、足でギリギリとヤツの身体を押しやる。ーーだが、俺には力が足りなかったらしい。俺は呆気なく、地面に背をついた。腹の上には生徒会長サマ。途轍もなく嬉しそうな顔をしてやがる。

「ちっ」

俺は極力相手を見ないように、顔を背けながらその反応をうかがった。






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