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「――あっ、ぶねぇ……」
皐月は、緊張のあまり強張った身体から力を抜くと、胸の中に居る震える小動物に目をやった。それでも、沙夜は皐月の胸元から顔を上げようとしなかった。
「…………べつによかったのに」
「言ってろばーか。……っつーかお前何で震えるんだよ」
「……不良はしらないひと」
「はあ?何言ってんだよ」
「母さん、しらないひとにさわるとおこる」
「……今、ここに居ねぇんだから分かる訳ねぇだろ」
「ちがう、母さんは何でもわかっちゃう」
「そんな人間はいねぇ」
「ちがう!かくしてもぜんぶしられる……!そうすると母さんがいらないって――!」
最高潮に達した震えと共に、沙夜は激昂したように声を張り上げる。握られていた皐月の制服が皺を作る。
「…………」
「俊介がね、母さんとおなじ目をするんだ、いらないって、いうときの母さんと、おなじなんだ――!要らないなら俺はいらない、いらないっ!」
「さや……っ、」
泣いているのだろうか。時折嗚咽混じりに叫ばれる吐露に、皐月は声を失い俊介は衝撃を受けた。無意識ながら、沙夜を厭う俊介の気持ちが現れていたのを、沙夜は敏感に感じ取っていたのだ。
一通り叫び終えた沙夜は、はあはあと息を整える。震えは自然と止まっている。皐月は、落ち着かせるように沙夜の背をぽんぽんと優しく叩く。なんだかんだ言って、情が移ってしまっていた。皐月は大きく溜め息を吐いた。
そんな時、皐月は気付いた。
「…………ん?」
「……ぐ」
「寝てるし……んだコイツ……」
はぁ、とため息を吐くと、皐月は沙夜を抱えてフェンスをよじ登った。軽く地面に着地して、放心しているらしい神栖俊介の傍を通り過ぎる。その場に居た教師には、寮の部屋に運ぶ事を告げた。
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