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「頼むよ、話だけでもっ――!」
「だからお前なんかもう知らん言うてんねやろ、いい加減ウザイわぁ……」
「ちょっと会長……!」
「お前関係ないやろ。黙っとき」
「リュウちゃん!?」

言いながら、瀬谷はすがり付いて来ようとする彼――壱岐裕人(いき ひろと)を迷惑そうにあしらっていた。壱岐は、例の鷲宮忍という彼と共に転入してきた生徒で、瀬谷が散々会うのを拒んでいた男である。

放課後になって、転入生2人の寮部屋に訪れていたのだが。鷲宮が会いたいというのは口実で、用があったのは鷲宮ではなく、もう1人の壱岐の方だったのだ。それに薄々勘づいていた瀬谷だが簡単にはいそうですか、と言うわけにはいかない事情があった。


彼らのやり取りを見ていた天野副会長は、あまりにもな態度に彼の行動を諌めようとする。だが、珍しく拒絶する冷ややかな目に思わず硬直してしまう。

瀬谷は普段、穏やかで皆に分け隔てなく接していて(恋人にはもちろん甘い)、冷徹な態度などとる所は誰も見たことがない。それ故に、今の瀬谷の態度はどこか異常だった。

「外野は黙っとれ。……なんも知らん癖に口出しすんな」
「…………」
「っだからさ、俺は、リュウに謝りたくて……」
「謝罪なんかいらん、俺を思うんならもう顔見せんといて。お前の顔なんかもう見とうない。……許さへんよ、俺は……」

言うだけ言うと、瀬谷は足早に部屋を出ていってしまった。扉が閉まる音が、やけに大きく響く。固まる皆が動き出すまで、まだ時間がかかりそうだった。


立ち去る瀬谷の背を、市ヶ谷慧は心配そうに見る。いつも凛々しくて頼もしい背が、殊更小さく見えたのだ。まるで自分で自分を追い詰めているかのように、小さく小さく。一瞬見えた瀬谷の顔は、怒りではなく悲しみで溢れていた。あのまま放っておけば泣き出してしまいそうで――。

「あ、市ヶ谷くん?」
「ちょっと様子見てきます。心配で……」
「……うん、頼みますよ」
気付けば身体は動いていて、天野副会長の声に応えながら先を急いだ。いつもは、その頼もしい彼に抱き締められたいと思っていたが、今日は無性に瀬谷を抱き締めたくなった。




「大丈夫かな、会長……」
「市ヶ谷くんなら大丈夫ですよ。二人とも、お互いが大好きですから」
「まぁそうだねぇ……いいなぁ、こいびとって」

扉の向こうに消えてしまった二人の事をボンヤリと思いながら、会話を交わすのは、松谷会計と天野副会長だ。先ほどの緊張感はほぐれたようで、穏やかな声で話す。

「え……恋人?」
「あ、うん。会長のね。さっき出ていった可愛い子。ちょーらぶらぶ、見てるこっちが恥ずかしいくらいでさぁー、デフォルトは膝だっこ……俺たちいないから今は毎日生徒会室でいちゃいちゃしてて、入りづらいよー」
「そう、なんだ……」

羨ましそうに瀬谷と市ヶ谷の話を語る松谷の横、壱岐は何とも言えない表情で立っている。どこか納得のいかないような、そんな表情だった。






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