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2人の転入生が無事に入校し、しばらくたってからの事だった。瀬谷はその知らせに思わず大声を上げた。

「はあ?」
「……どうしても、だそうです」
「何で俺がそないなことせなあかんの……暇やないっての」
「そこを何とか、ね?」
「…………」
「俺を助けると思って。忍……鷲宮クンに会って、少しだけ話をするだけですから」

眉間にしわを寄せる瀬谷は、それを知らせに来た天野副会長を恨めし気に見つめる。目の前の天野は、困ったように笑いながらも引く気は全く無い様子だった。

「……そんなにええとこ見せたいんか、あの鷲宮とかいうやつに?」
「……まぁ、それなりには」

誤魔化すように笑う天野はいかにも白々しい。瀬谷は考えるように目を瞑った。

鷲宮、というのは片方の転入生の名前だ。鷲宮忍(ワシノミヤ シノブ)。理事長の親類の彼はこの数日間で、色々な人間を恋愛的な意味で落としている、それも有名な人間ばかりである。生徒会内でも、3人程引っかかってしまった。他にも、美形と噂の生徒ばかりが4人、総勢7人が時間を見つけては鷲宮の気を引こうと躍起になっている。おかげで校内が騒がしい。問題こそ少ないが、これからどのような事態が起きるのか不透明だった。

生徒会内でも、鷲宮の追っかけやら野次馬やら、サボり癖が流行って仕事が停滞気味だ。幸いにも、量は少ないため、直ぐに片付けられるのだが。それでも、瀬谷は今後に不安を感じている。だから、部屋にいつ来るか分からない皆の代わりにと、少しずつだが仕事を減らしている。

そんな瀬谷の現在の仕事仲間は、自分の親衛隊隊長兼、大切なコイビト。普段仕事でなかなか会う時間を増やせないがため、この機会を利用しない手はない。誰もいない生徒会室に二人きり、存分にイチャイチャができる。実際、今も天野の話をきく瀬谷の膝の上には隊長の姿がある。彼、市ヶ谷慧(イチガヤ ケイ)は、大人しく瀬谷の膝に収まっている。天野は、それに大して気にしてはいないようだった。

「龍ちゃん……?」
「ん?」
「会いたい、って言ってるだけなんでしょう?会ってあげたら?」

瀬谷が目を瞑り、どうするか考えている時、突然市ヶ谷が声をかけた。目を開けて答えれば、見上げる可愛らしい顔が見える。そんな彼にしばし見惚れたが、次に聞こえた言葉に口を引き結んだ。

「……せやけどねぇ……ちょっと、まずいのよ」
「……マズイの?」
「うん、まずいのよ」

苦々しく呟いた瀬谷に、市ヶ谷は心配そうに見上げた。そして、思いついた新たな提案をする。

「じゃあ僕も一瞬に行く」
「え?」
「だって、龍ちゃん心配だし、……それに、僕も噂の彼、ちゃんと見てみたいかったの」
「うーん……」
「ねぇ、だめ?」

パッチリとした目を、悲しげに潤ませながら、市ヶ谷は瀬谷を見る。その表情に、うっと詰まりながら瀬谷はさらに考える。その様子を観察をしていた天野は、もう一押し、と言葉を繋げた。

「あ、じゃあ市ヶ谷くん一緒に鷲宮くんを見に行きましょうか?案内しますよ。会長が行かないのなら彼に言い訳を考えなければなりません。一緒に鷲宮くんを説得しましょう?瀬谷会長のために」
「!?」
「、そうですね……龍ちゃんのためなら手伝います!」
「な、何言うとんの……そないな事俺が許さんよ!」

副会長の言葉に、なぜか1人で鷲宮に会いに行きそうな市ヶ谷を見て、瀬谷は焦る。自分は行きたくないのだが、愛しの彼にそんな事ももちろんさせたくはないのだ。

だが、そんな瀬谷の葛藤も、次に続く言葉にハートを撃ち抜かれて終わる。

「でも……龍ちゃん、これでしばらくまとわりつかれたら嫌でしょ?それに……僕も龍ちゃんと市ヶ谷くん会わせたくない、龍ちゃん取られるのはヤダ」
「!け、慧っ」
「おーっと、お熱いね」

思わず市ヶ谷を抱き締めれば、天野からの茶々が飛ぶ。だが、瀬谷はそんなことは全く気にしてはいなかった。

「慧にそないな事させん!俺も行くわっ」

思わず言い放った瀬谷の横で、天野はしてやったり、とニヤリと笑う。さらに、抱きつかれた市ヶ谷は、瀬谷の胸の中で気付かれぬようにニヤリと笑った。

さりげなく、会長に近付くなと鷲宮に忠告するつもりだなんて、市ヶ谷の思惑に瀬谷が気付く事はない。結局、彼等は混乱を避けるために夕食後、鷲宮の部屋に訪れる事になった。






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