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自惚れた刹那が貴様の敗北


生徒会室には、生徒会長を始めとした役員たちが揃っていた。彼等は、各自の書類を終わらせるべく黙々と作業を続ける。瀬谷龍太郎(セヤ リュウタロウ)も、その中のひとりだ。彼は、この学園で生徒会を纏める生徒会長の役を任されている。時折重要書類さえ回ってくる環境の中、瀬谷を核に、彼等は努めて職務を全うすべく働いている。

「瀬谷会長、少し確認しておきたい事があるので、この後少し時間をもらえますか?」
「……天野(アマノ)か。ええよ。ただ、少し……30分くらい待ってもらえん?」
「分かりました。じゃあ終わったら声をかけてください」

にこり、と軽く笑いながら会長席から遠ざかる彼は、副会長の役を努める天野だ。頭の切れる美丈夫で、瀬谷も信頼を置く良きパートナーだ。時折、腹黒い一面を覗かせるけれど、瀬谷とは一番長い付き合いでもある。そんな天野と入れ違いに、瀬谷に声をかける人物がいた。基本、部外者の入室を受け付けない生徒会室にいるのだから、彼もまた生徒会の一員だ。

「かいちょー、これ、終わったから後で見といて」
「あいよ、お疲れさん」

割り当てられた仕事が一段落したのだろうか、言いながら機嫌よく書類を差し出す松谷(マツタニ)は、生徒会で会計を担う。会長の補佐的役割を担う副会長とは違い、予算等に関係する書類は全て彼に回るため、会計年度の始めと終わりには、会長と並ぶ程の激務が待っているとも言われている。故に、2人いるうちの1人を、優先的に会計補佐として手伝わせる事が出来る。

そんな、年始の激務を終え上機嫌で備え付けの簡易キッチンに向かった松谷の後ろ、会計補佐の席では、力尽きた補佐がテーブルに突っ伏しピクリとも動かない。そんな様子をチラリと目で確認して、

「返事がない。ただの屍のようだ」

ニヤニヤしながらそんなセリフを呟いた、もう一人の生徒会補佐は、かけたメガネを片手で素早く直しながら、クックッと笑う。だが、彼の手は止まっていない。PCに向かい、高速で文字を打ち込んでいる。

そんな様子を偶然目撃してしまった天野副会長は、それにビクッとしながらも平静を装った。そして、この若干気持ち悪いと評判の彼、実はタイピングのスピードが生徒会一早い。そのせいで、彼にはいつも山程の手書き書類が渡され、部外秘以外の書類作成をほぼ全て担当している。

人数は少数ながら、彼等はそれぞれ仕事に没頭したり休憩したりと、時間を過ごす。
だがそんな時、出掛けていたもう一人がこの部屋へと戻ってきた。彼は、生徒会で書記を担当する。

「お疲れはん、望月(モチヅキ)」
「……いえ」

労りの言葉をかける瀬谷に、ただ一言を返す。生徒会書記の望月が寡黙なのはいつもの事で、瀬谷は特に気にする事なく話を先へと進めた。

「理事長、何やって?」

瀬谷は、書類を手放さずにチラリと望月に視線をやった。

「理事長が、今年は外部生が2人と。3日後に2人共に入寮予定、だそうです。その内の1人が理事長の身内らしく、理事長室まで案内を頼みたいと……」
「……なんちゅー横暴な……公私混同やろ、しょーもないもん押し付けやがって。望月、お前断らんかったんか?こんなん生徒会の仕事ちゃうやろ。仕事のない教師でもやっといたらええやないの」

望月の言葉に、瀬谷は思わず手を止め、怪訝に見上げた。その言葉は、刺々しい。

「……お断りはしたのですが、聞き入れてくれませんでした。『身内に、何かあったら責任をとれるのか』、『理事長室に向かうならば、生徒会役員の方が効率もよい』と押しきられました。……すみません」
「……あの阿呆め……ええわ、分かった。あの人の押しが強いのは知っとる」

望月の報告に、大きく溜め息を吐きながら、瀬谷は額を片手で押さえる。そのまま手をヒラヒラ動かし言葉を紡ぐ。咎めるような色は消えていた。

「めんどいわぁ。誰、行く?俺はまだ切羽詰まっとるから遠慮したいんやけど……誰か、行っ――」
「それが、……理事長が瀬谷会長に、頼みたいと……」
「…………あ゛あ゛?何考えとんねんあんにゃろ……」
「一番信頼の置ける人物がいいと、」
「……ええわもう、そんなん無視や無視。餓鬼のワガママに構っとる暇ない。誰か、空いとるんおるか?」

瀬谷は、呆れた様子で言い捨てると、室内の全員に聞こえるように言う。瞬間、話を聞いていた皆――メンバー全員が、瀬谷を見ながら固まった。それぞれ、その役を受け入れかねていた。

「……皆、忙しいでしょうから、俺が行きます」

しんとした中、声が響いた。小さな声だったが、静かな部屋にはよく響いた。

「望月が?お前、3日後は天野と会議入ってるやろ。間に合うんか?」
「予定では、午前中の30分程度らしいので、間に合います。資料も、前日までには用意できます」
「……無理はすんな。迷惑は皆にかかるんやから、そこんとこ、忘れたらあかんよ」
「はい」

瀬谷の話に神妙に頷いた望月は、すぐに席へと戻ると自分の仕事をし始めた。何や嫌な予感、瀬谷は詰めていた息を吐き出すと、頭を降ってその考えを振り切った。生徒会室は、再び静まった。






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