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それから。
結局、相葉は思う存分転入生の居座古座に巻き込まれ、あの一瞬で時の人となってしまった。あんな大勢の目の前で会長やら蓋を開けたら美少年だった転入生やらに迫られたせいで、相葉はその翌日から大いに注目を集めるようになってしまった。

朝、登校しようと思えばなぜか部屋の前には転入生こと蓮とやらが待ち構えているし、
寮を出ればなぜか自然を装った会長が待ち構えているし、
ようやく彼らから解放され教室に入ればクラスメイトからの尋問、
昼休みになった途端には相葉を嫌う連中のお小言を聞かされ、
よし下校だと思えば再び蓮と会長が待ち構え、
そのままずるずると生徒会室へと連れていかれ、
その生徒会室では蓮と会長が啀み合い、
蓮に好意を寄せる生徒会の一人からは嫌味を言われる始末。

もう何かどうでも良くなってきた、そう思いながらソファーに深く座り、嫌味を右から左へと聞き流していれば、相葉は疲労でウトウトとし始める。気がつけば、相葉はいつもなら決して見せない寝顔を皆に晒しながら、眠ってしまった。



 * * *



「……寝てるし」

呟くのは、今の今まで相葉に向かって嫌味をつらつら吐き続けていた生徒会副会長である。もちろん、相葉に向かって嫌味を吐くのにはそれなりの理由があるからだが、いくら好きになれないと云えども、ここまで邪気のない顔を見せられれば怒りを覚えるのもバカバカしくなる。彼は思い切り溜息を吐くと、未だ言い合いを続ける会長と蓮、その人を見た。

相葉を嫌う大きな原因は、彼の蓮に対する恋心のせいだ。偶然出会い、その真っ直ぐさと黒い塊(かつら)の中に隠された彼の美しさに惹かれた。

だが、そんな彼の思いを伝える間もなく、蓮はこの、目の前に居る相葉に恋人になれと迫っている。久々の恋だというのに、どうにも遣る瀬無かった。だから、本人に気付かれぬよう、みっともなく彼に文句を言っていたのだ。これが、精一杯の悪あがきだった。

彼は、会長と蓮はコイツのどこがそんなにいいんだか、そう思いながら相葉の寝顔をじっくりと観察した。顔はたしかに綺麗で美しい。噂によれば、正確も物静かで柔らかく、会長親衛隊として健気で一途だとも聞く。

しかしそれならば、自分も当て嵌まるじゃないかと彼は自負する。皆に選ばれるほど顔はいいし、周りの生徒にもできるだけ穏やかに接してきた、何より蓮に一途だ。自分でなくこの相葉とやらに気が向く要素がどこにあるんだろうか、彼は口を尖らせながら思った。この人間にあって自分にない要素は、何だ。彼はどうにかしてそれを解明しようと、相葉の隣へと席を移した。

「天使の寝顔ねぇ……」

顔を間近で見て、彼は思わず呟いた。確かに、普段から綺麗な彼の顔は、眠った時も幼さが増して一層可愛らしくは見える。だが、と彼は思う。どうしても、この可愛らしい相葉とやらを否定したいらしい。内心、次から次へと文句を垂らしながら、彼はイタズラを思いつく。自分が話している最中に眠りこけた罰だ、と自分の人差し指をその綺麗な顔めがけて差し出した。

相葉とやらの顔に指を突き刺せば、その柔らかさに驚いて一度手を離す。しかし、相葉は何の反応も見せることなくすやすやと何事もないように眠り続けている。睡眠を妨害するつもりで仕掛けたイタズラだ。それが何の効果を発揮することなく終わってしまえば悔しいばかり。彼は口を尖らせ再び指を相葉の顔に向けた。今度は鼻を狙ってやる。そう意気込み、鼻の頭を下から持ち上げて呟いた。

「子豚」
「んーー……」

鼻に感じる違和感を感じたのだろう、眉間に皺を寄せ顔を振った相葉を見て、彼はニヤリとした。多少満足はした様子だったが、今度は相葉の口元への刺激を試みようと、その指で口元に触れようとした。しかしその時。不意に唇を舐めた相葉の舌が、彼の指に触れた。湿った感触にドキリとして手を引っ込めれば、手には微かな感触が残った。

「んんーー、」

ドキドキとしながら、少し身じろぐ相葉の様子を見守る。ここに来て、彼は相葉の一挙一動に目を奪われていた。その姿から目が離せない、手に残る生々しい感触が未だに抜けない。彼は、煩い自分の心臓の音に動揺しながら、ただひたすらに彼を見続けた。






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