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何の真似だ、そう叫ぶなんて到底無理、そう思った時には既に炭になりかけていた。

「ほら皆様!この副隊長に比べたらこんなちんちくりん、目じゃないでしょう!?目を覚まして下さい!今ならまだ間に合います!」

何が起こったのか、それさえも理解する間もなく、相葉音緒は、正に皆の注目する舞台上へと無理矢理引っ張り上げられてしまった。目を白黒させる相葉の目の前には、もじゃもじゃに構う生徒会を始めとする美形面の面々がいる。相葉は、死にそう、なんて気楽人生の終わりを悟り、盛大にひきつった笑みを見せた。

「……この人、誰?」

皆が息を呑んで状況を見守るという微妙な空気の中、話しかける勇者がいた。彼こそは、現在話題性抜群の憎まれ役こと、もじゃもじゃだ。

「蓮(レン)?」

ああ、もじゃもじゃは蓮という名前らしい、と相葉は現実逃避気味に思った。副会長の呟きによって判明したその名前。相葉は、全くその名前を呼ぶ気などなかったが。

そして、隊長によって引きずり上げられたこの舞台が今、視線という暴力で相葉を殴り殺そうとしている。あっという間に当事者にされてしまった相葉は、もじゃもじゃこと蓮の姿をぼんやりと捉えた。ぼんやりとしているせいなのか、その姿が段々と近付いてくる錯覚が見えるような気がして、相葉は目を軽く擦った。

だがその間にも、錯覚だと思っていた近付くもじゃもじゃの姿は、自分の目の前にまで迫っている。何この拷問、そう思った相葉の手は、何故かもじゃもじゃによって取られていた。遠目から見てチビに見えたもじゃもじゃ、実は相葉よりは高い身長を持っていた。相葉は、逃避気味にくそうこの野郎、と内心罵っていた。

「ちょっと何して―…!」
「あんた、名前何て言うんスか?学年は?ってかホントに会長の親衛隊なんスか?」

周囲がハッとしてブーイングを食らわし、副会長が止めんとする中、もじゃもじゃは相葉が引く程顔を近付けて、早口で捲し立てた。顔をひきつらせる相葉は、大変な努力をして、もじゃもじゃを直視せぬよう努めて冷静に答えた。見ているだけで蕁麻疹が出そうだった。

「……そ、デスヨ。副隊長の相葉、音緒、2年……」
「あれ、なんだタメじゃん。でも副隊長って事は、結構凄いんだな……美人だし」
「…………ありがと、ございます」

いきなり何を言うのか、困惑する相葉を目の前にもじゃもじゃは口元に笑みを浮かべている。うわあキモい、と顔を強張らせてしまう。だが、そんな相葉の雰囲気を察したのか、突然もじゃもじゃは相葉の手を離すと一歩下がった。何だ、と訝る相葉に、もじゃもじゃは驚くべき行動に出た。

「おっと悪ぃな、今の自分の姿忘れてた……これじゃあナンパなんか出来やしねぇ。なぁ、これだったら、――どう?自分で言うのもなんだけど、結構恰好良くねぇ?」

言うが早いか、もじゃもじゃは被っていたトレードマークのもじゃもじゃと、古くさいメガネを取っ払う。そして、目を見開き呆ける相葉に、長めの黒髪をかきあげながら再び接近した。その姿は、今をときめく某音楽事務所の売れっ子のようだった。もじゃ――蓮は、驚きで動けない皆を尻目に、相葉の顎をそっと持ち上げる。

「俺のコイビトになってよ」

その内容は余りにも突然で衝撃的。相葉は、彼のきらびやかな姿や告げた言葉の意味に声を失い、ただただその顔を見つめるだけだった。

しかし、相葉のその行動は完全に間違いだった。何も反応を返さず、自分の顔を見つめる相葉に、蓮は何とも言えない感情が沸き上がる。そのままでいるには我慢がきかず、蓮はそのまま自然な動作で相葉の唇を素早く奪――おうとした。しかし、間髪入れずに遮る手に、阻まれた。その手の主は、

「テメ……コイツは俺が先に目ぇつけてたんだよ。横入れすんじゃねぇ、ゲスが」
「随分、酷い言い方じゃねぇ?……このクソ会長が」

余計な文字が付いているが、彼の言うように、会長である。彼は、未だ呆ける相葉の口を覆い、蓮を睨み付けていた。






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