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「っ痛−−」

痛みに正気を取り戻した俺は、どうしてだろうか、あの男に地面抑えこまれていた。うつ伏せの状態で上に乗られ、片手を後ろで拘束されて頭を押さえつけられている。血族は、人よりも力は強いし早く動けるはずなのに。

その証拠に、俺は今まで一度たりとも人間に押さえ込まれる事もなかった、それなのに、どうしてだろうか?何があったのか、それさえも覚えていない程、俺はその時意識を飛ばしていた。経験したことのない程の痛みで、頭がクラクラして、身体も十分に動かせない中、俺は必死で考えた。地面にはヒビが入っていて、口から吐き出された自分の血の臭いが、微かに香る。

「……そういうことか」

微かにつぶやいた男の声が、耳元にかかる。微かに悦を含んだような声だった。

「−−っ若、今のは……?」
「さっき、このガキの行動が早すぎて全く見えなかったんですが……」
「目が、赤く……」
「おい、てめぇら。この事は他言無用だ。オヤッさんには俺から報告しておくし、コイツの処遇も俺が決める−−少しでも漏らしゃぁ俺のとこにはいらねぇ野郎だろうと判断する−−いいな?」
『っはい!』
「散れ。全員だ」

脅し半ばに男たちを解散させた男は、周囲に誰もいなくなった事を確認すると、俺を拘束したまま、器用に俺の身体を反転させた。

「お前、血族だろう」
「!?」

そう言われた瞬間、俺は目を見開き男を凝視した。血族、という言葉を知っているのは、その道のハンターか、同類のみ。普通の人間に分かるはずがない。確率は、五分五分。敵か味方か。

「アンタ、何者、だ?」

不思議と空腹感もあっという間に吹っ飛び、俺は些か緊張しながら男に尋ねる。男は無表情で俺をジッと見つめていた。

「ハンター、とでも言っておこうか−−?」
「っ、」

ニヤリと笑った男の表情は、恐ろしいほどに歪んでいた。狂ったようにクツクツと笑って、俺の首を拘束している手をギリギリと締め付ける。この時、俺は初めてこの男に恐怖を感じた。死に対する恐怖はない。

むしろ、自分自身の存在の希薄さに恐怖を感じてきた。だからこそ、ヒトガタの生き物にこんな感情を抱くのは、久しぶりだった。人間とは思えない憎悪の感情に、身体が勝手に震える。

「何をそんなに怯えている?お前ら、死は怖くないんだろう?大丈夫、ものの一瞬で終わる−−」

そう話す男は、どこか恍惚とした表情で、俺の顎にこびり付く血を一口、舐めとった。
だがその次の瞬間、男は驚いたような表情になり、思わず、といった口調で言葉を吐き出した。その言葉に、俺は酷く驚愕することになる。

「……薄い」
「!?」
「お前、本当に血族か?人間のものとそう変わらない」
「何、言って−−!?」
「−−俺はハンターと呼ばれるモノだが、血は血族と変わらない。−−俺もお前と同類だ」

眉間に皺を寄せたまま俺を見つめる男は、酷く億劫そうに俺を見下ろしていた。






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