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「おいレン」

そう呼ぶ声に、俺はようやく意識を現実に向けた。もちろん、気配で誰かが俺に向かって近づいてくるのは分かっていたが、それが誰かなんてすぐに気づいたから、意識を飛ばしているフリをしていた。それは、お節介焼きなただの“人間”--。

「……何」
「お前、この前もまた危ない橋を渡っただろう」

眠たそうにする素振りを忘れる事なく、俺は彼のいつもの常套文句を聞き流しながら、いつものように密かに思った。何て哀れなんだろうと。コイツが言っているのは、多分コソコソとヤーさん関係の情報を盗み聞きしていた事がバレてしつこく追い回された時の事だ。あの連中は危険なのは分かっている。

けれど、そのスリルが快感で、しかも金にもなるから止められないのだ。自分から進んで危険に向かっていく俺の心配を、何の疑いもなしにしてくるコイツの精神が、ひどく哀れだ。それと、そろそろいい加減に鬱陶しくなってきた。俺の身の心配をするなど余計なお世話なのだ。俺は、スリルが好きなのだし、ちょっとくらいの怪我じゃあ俺は死なない。すぐに再生する。

この街をうろつくのも潮時なのだろうかと思う。最近、妙に俺を遠巻きにする連中も増えてきて、我武者羅に俺に向かってくる類の人間が減ってしまったし、何か勘づいているらしい人間もいる。俺が普通じゃないって。そういう人間が増えると、ヘマもできないしスリルどころではない。人間に拘束された血族達の末路を知っているからこそ、俺はいろんな街を数年置きに点々としている。

時々、日本という国の外に出ることもあるけれど、人間といっしょに長時間狭い空間に閉じ込められるのには耐えられない。においと騒音に、耐えられない。だから、俺は日本国内各地を点々としている。

「はぁ……そんなの何度も聞いた。ほっとけって」
「けど…………」
「煩い」
「…………」

哀れに思う反面、たまにコイツの考えていることが分からなくて、人間が恐ろしく感じる時がある。無表情で俺を見つめたり、何か言いたそうに、けれど何も言わずに見ている時もある。正直、気味が悪い。しかも、そういう行動をするのが、この男が最初ではない事が、俺を更に不安にさせる。何度も感じてきた視線なのだ。

しかし、ソレが何を意味するのかが分からない。理解できないものは、怖い。だから俺は、この男を時折恐ろしく感じる。

「なぁレン」
「ん?」
「お前、さ、…………いや、何でもない」
「何だよ」

完全に潮時だと、この時俺は確信した。
明日の夜、この街を去ろうと思った。






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