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足りない

天は二物を与えない、どこかのだれかが言った言葉だったような気がするが、正直その意味なんてどうでもいい。その言葉の意味することなんて、たったひとつなのだから。誰だって、心の中で分かっている、自分は無力だと。

「人間」の中でも突出したものを持っている人間だけが力を持つ。それに溢れた“普通”の「人間」は、ほとんどが二物どころか一物さえも持つこともなく朽ちていく。生物の理の中で足掻くなんてただのバカだ、と俺は思う。もちろん、俺もまた漏れ無くその“普通”に、むしろ“普通”以下に入ってしまっているのだから、今更足掻く気などない。


むかしむかしのおおむかし、どこかのバカな人間が、吸血鬼は「聖水」に弱いだとか、「銀」が苦手だとか、心臓に「杭」を刺さなければ死なないだとか、「吸血」された人間は吸血鬼になってしまうだとか、色々とでっち上げてくれた。おかげで、当時の俺の先祖達が散々酷い目に合ったらしい。

俺から言わせれば、吸血鬼は「聖水」が苦手なわけでも、「銀」が苦手なワケでも、「吸血」されたら吸血鬼になるわけでもない。ただひとつ、合っているといえば、太陽に当たり続けると死んでしまう、っていう事だけだ。まぁ、今のご時世そんな吸血鬼など、今の世の中そうそう居ない。血族達は皆血が薄れ、太陽など少しやけどを負う程度になったし、吸血など頻繁にせずとも生きられるようになってきた。
この、俺のように。

昔から変わりのないことと言えば、普通の血族は皆人間と慣れ合うのを嫌い、文明を嫌い、夜の世界を生業として生きている事だ。もちろん、この俺も御多分に漏れず、そんな生活を送っている。夜の街をふらふらと歩きながら、適当に相手を探して商売をする。俺の商売では、情報を扱っている。

吸血鬼の血というのは、厄介のようでいて素晴らしい。この俺ですら暗順応は最高水準だし、暗闇では目も鼻も利く。身体能力は人間の数倍はあるし、寿命など長いなんてものではない。スリルさえ求めなければ8世紀分は生きられる。

やろうと思えば壁をよじ登ったり、ビルから飛び降りたりもできる。とことん便利な体だ。だが、そう長く生きるヤツなんていないのが現実。吸血鬼はなぜか、スリルや戦いを好む。わざわざ人間の戦争に加わりに行ったり、命がけの勝負をしたりと命を捨てるようなのが美徳とされている。イカれているにも程がある。

まあ、俺も好き好んで危険地帯に足を踏み入れるのだから大して変わらない気もするのだが。こんなふうに、俺は馬鹿みたいに自分の人生を自由奔放に生きている。






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