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05


「お願いします!」
「どうか、」
「宮殿に」
「魔城に」
「「お戻りください!」」

ほったて小屋のような、小さな小屋には、人族と魔族のお偉方がこぞって集い、家のまえに膝をついては懇願している。しかし、その小屋の住人は全く動じず、応答しようともしなかった。

「……イズミ、今日の飯、何作ったんだ?」
「−−え、あ、うん、今日はこっちで教わったスープとパン、あとクロワっていうこっちの飲み物だよ」

小さな小屋の、大きいとは言えないテーブルに、芳しい食事が並び、サイとイズミは順々に座る。外から室内にまで響いてくる懇願には全く耳を貸さず、二人は豪華とは言えない食事を挨拶を交わしてからつつく。部屋で動き回っていた真っ黒な2頭の動物も、与えられた食事に文句も言わずに頬張っていた。だが、よほど気に障ったのか、その内の1頭が思わずと言った口調でサイに話しかけた。

『サイ、外が煩いのですが、いかが致しましょう』

黒い大型の犬に蝙蝠のような羽が生えたソレは、知的な表情でまっすぐにサイを見上げた。それに対して、サイは呆れたように外を見やりながら答えた。

「……暫く反省させときゃいいんだ」
「そうだねぇ……」
「放っておけ。後で防音にしておこう」
『御意』

黒いその魔獣は、真剣な表情で一度お辞儀をすると、もう1頭と同じように食事を再開させた。イズミはサイに同意しながら、遠くを見つめるように過去のあの出来事を思い出していた。



* * *



サイの頑張りにより、宮殿の中で再会を果たしたサイとイズミは、喜びに互いを抱きしめあった。そしてその時、イズミは『もう絶対に離さない』とサイの前で誓ったのだ。もちろん、サイもイズミの側を離れるなど言語道断、一生側に居ると満面の笑みで答えた。

しかし、ソレを目にした人族の面々は魔王の奇襲、勇者の危機だと決定づけ、即刻二人を引き離そうとサイへの攻撃を始めた。止めるイズミの声も耳に入らず、力の限り攻撃をしてくる面々に、魔王へと変身を遂げたサイでも受け流すのには少々無理があった。イズミやサイに付き従う魔獣2人の助けを借り、どうにかして宮殿の外へと逃げ出した二人の目の前には、大群で宮殿を目指す魔族の面々があった。

そんな魔族たちも、サイとイズミの願い虚しく、魔王様をお助けするのだ!といきり立ち、宮殿の城門を挟んで魔族対人族、一触即発の事態になってしまった。それを見たサイは、話を聞こうともしない両者に憤り、文字通り、怒りを“爆発”させてしまった。

サイとイズミ、2人の魔獣を除き、城門ごと周囲は吹き飛び、数百メートル離れた宮殿でさえもが半壊した。そして、吹き飛んだ反動で沈黙していた両者に向かって、サイは叫んだのだ。
『その醜い争いをヤメろ!ヤメねェ限り俺は戻らねぇぞ!』
『あ、ついでに俺もサイ大好きだからサイと一緒じゃないと死んじゃうから!』
どさくさに紛れてサイの腰を抱き寄せたイズミは、便乗するように叫ぶ。そして、二人は唖然とする両者をものともせず、いちゃつきながら獣型へと変化した魔獣に乗り、何処かへと飛んでいってしまった。

そして、二人は人族と魔族が共に暮らす大都市の外れに、小さな小屋を構え、地道に働きながら暮らし始めた。旧魔王のサイは得た強大な魔力を活かして、旧勇者のイズミは抜きん出た持ち前の頭脳を活かし、犯罪者を捕まえることを中心とした萬屋を経営し始めた。出だしは上々で、都市の人々からも信用されるようになってきたのだ。

そしてその日も、二人は賞金として受け取った金貨と、それを利用して購入した食料を手に、小屋へと戻った。だがその日は、勝手が違った。どこから嗅ぎつけたのか、魔族と人族のトップが数人、玄関で土下座をしながら出迎えたのだ。小屋の鍵は壊されていた。二人の帰りを待っていた番犬替わりの魔獣2頭は、犬さながらにしょぼくれながら鎖につながれていた。
『お願いします!』
そう言って必死に頼み込んでくる彼らに、イズミとサイは一喝した。
『そいつらを放せ!犬じゃねぇんだから!』
『勝手に不法侵入しないでよ!』
再び彼らを怒らせてしまった両者は、小屋の外に追い出され、かつ入れないように結界を張られてしまったのだ。そして、そのまま数日が過ぎ、未だに彼らは許されず、小さな家に毎日通っているのだ。


「ね、サイ、明日やっと暇ができたからさ、皆でどっか行かない?確か数マイル先にこっちの海が見える所があるらしいよ」

食事を終え、家の中でのんびりと茶を飲んでいた時。イズミがサイに近寄りながらニコニコと提案した。

「ああ、いいんじゃないか?イズミが行きたいなら行こう」
「僕はどっちでもいいよ。サイは?」
「……俺もどっちでも。−−せっかくだ、行くか?」
「ん」

二人は、幸せに充ち溢れた表情でそう言葉を交わす。そして、イズミはごく自然な動作でサイの額に唇を落とした。

「あ〜、連中放っておいてもうこのままずっと一緒に暮らしたいねぇ」
「……やろうと思えばイケる」
「あはは。ま、取り敢えず今はいっか。平和だし、ね。サイ、こっち来て」
「あん?」
「ここ、座って」

不意に、膝に座るように要求してきたイズミを見て、一瞬サイは固まるが、満面の笑を浮かべたイズミに敵うはずもなく、

「…………今じゃなきゃだめか?」

そんな文句を吐きながらも、綺麗なイズミの笑顔にヤラれて、サイはしぶしぶその言葉に従う。しかし、向かい合わせに座って、イズミの首に腕を巻き付けると不思議と羞恥も忘れて、幸せにまどろんでしまう。サイがその肩に顔を乗せて力を抜くと、イズミがギュッとその身体を抱き込んだ。

「今日はのんびりね」
「ん」
「幸せ」


そうやって、二人が抱き合って、文句を言われない念願の暮らしを満喫している中で。

「あっ!勇者め魔王様に接吻をしおった……!魔王様から離れや!くそう、結界さえなければ……」
「はんっ、この結界は魔王が作ったんだろ!とっとと勇者様を解放しろ!ああ、お美しい勇者様、魔王の魔力に囚われたに決まってる……何と可哀想に……でなければあんな者と−−」
「何だと……!もっぺん言うてみろ!幼稚な人族風情が!」
「望む所だ魔族め!決闘だ、どちらが高尚なのかを思い知らせてやる!」

諌める部下たちを振り払い、罵り合いながらの幼稚な殴り合いを始めたそれぞれのトップは、サイとイズミに『外野煩い!』と一喝されるまでそこで取っ組み合い、その先1ヶ月、二人に許してもらえなかったそうだ。

諍いが消え、途端に平和になった、どこかの国お話−−。


END






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