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04


「会いに行く」
「えっ!」
「はい!?」
「だ、誰にですか?」
「イズミに」
「あ、サイ様っ!お待ちください!」

何かが弾けたように唐突に宣言し、早足に王室から立ち去ろうとするサイに、重役達は慌ててサイを止めようとする。しかし、サイは今、魔王と呼ばれる程の魔力を持つ。誰も、サイを止められる者がいない。

イズミ不足だと文句を零すサイは、唐突に自分がイズミに会いに行けばよい事に気がついたのだ。自分を連れ出した2人の使役魔獣が、宮殿とこちらの城とを繋いだ事実を考えれば、その主人となったサイが出来ないはずがない。魔力も十分にある今、使用しない手はない。サイは、頭に浮かんだ呪文をさらりと唱えると、宮殿に貼られていた結界を破るために最大出力をもって空間を歪ませ始めた。驚愕に目を見開く者達が視界の端に映った。



* * *



「イズミ様、本気ですか?」
「もちろん。今行かないとサイの身が危ないでしょう?」
「……ですが、つながれた空間の先は、おそらく魔城です。魔族の本拠地です、みすみす行って殺されでもしたら元も子もありません!しばし熟考下さい!」
「僕、自分のものが盗られて黙っていられるような人間じゃないんです。サイは僕の親友で、一番大切な人。見捨てるなんて、僕のプライドが許さない」
「勇者、様……」

宮殿の重役たちは、困惑し、焦ったような面持ちでイズミの説得に試みる。しかし、イズミの決心は固く、その表情には若干の焦りも伺える。自分のせいで、ただ巻き込まれただけの親友が敵の魔族に攫われたのだ。黙ってはいられない。イズミは、不安げな皆を横目に、宮殿を去ろうと歩き出した。
その時。魔術師が叫び声を上げた。

「っ!イズミ様、気をつけてください!何者かが此処への侵入を……」
『!!?』

その言葉が言い終わる前に、宮殿内、イズミの真上に位置する辺りで、突然空間が紫の光を放ちながら爆ぜた。イズミはその気配をいち早く察知し、素早く横に避けた。何か大きな力が結界をこじ開けてこちら側にやって来るのを感じて、イズミは背に負った剣を抜き警戒を強めた。他の面々も、直面した事態に気付き始め、臨戦態勢をとる。爆ぜた後には直径3メートル程の紫色の球体がその場に残り、怪しい光を放ちながらゆっくりと地面に下降し始めた。緊張が、周囲に走る。

放出された光がだんだんと弱まり、球体が小さくなる。消え行く光を、全員が固唾を飲んで見守っていた。それはやがて中に人の影が見えるまでに薄くなり、3人の黒いシルエットが浮かび上がった。そしてソレを認識したその瞬間、イズミは思わず声を上げた。

「ん?」

完全にその姿を確認できたわけではないが、そのシルエットから発せられる雰囲気に、見知ったものを感じたのだ。いつも一緒にいた、その人の雰囲気だ。

「すごい魔力を感じます。おそらく、魔族内でも1、2を争う者でしょうね……奇襲にやってきたのでしょうか……」

懐かしいものを感じ始めていたイズミに対して、周囲は全く別のことを思っていたらしい。魔術師の言葉を耳にして、部屋全体が更に緊張するのに対し、イズミは驚愕に目を見開きながら完全に警戒を解き、そのシルエットが動くのを待った。あれはきっと彼に違いない、そう確信していた。

「−−これ、成功したのか?」

光が完全に消える直前、そんな声が聞こえた。そして、光が完全に見えなくなって、イズミは初めてその姿を確認することができた。

黒いローブに包まれた彼は不思議そうに周囲を見回していて、彼の腰にしがみついている2人の黒い長髪の男は、驚愕に目を見開いている。そして、その姿を確認した宮殿の者達も、ローブの彼が誰なのかを認識して、目を剥いた。なぜ彼がここに現れたのか、そんな皆の疑問が、手に取るように分かる。イズミは苦笑して、声を発した。滲み出る喜びは、隠しきれなかった。

「サイ、だよね?」
「!−−イズミ?」

イズミ声に反応するように目を見開いた姿を確認して、イズミは満面の笑を浮かべた。






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