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03


宮殿にあったきらびやかなものが何もなく、質素であるがどこか厳かな雰囲気を放つ広い空間。そんな広い部屋には、ステンドグラスのほのかな明かりが射し込み、中央にある、大きな玉座を照らしている。宮殿とは違った、神秘的な空間に、サイは居た。

「サイ様……、どうかそのような事を言わないで下さいっ……」
「お願いしますっ」

両隣からかけられる泣きそうな声に、玉座に足を組んで座るサイは不機嫌な顔で応じる。目の前ですがり付いてくる二人の美男子に、どんなに頼み込まれても、罪悪感を覚えても、サイは頑として譲らなかった。

「……嫌だ」
『そ、そんな……』
「俺はイズミの元に帰る」

困りきった様子でサイを見上げる涙目の二人を見ながら言い放ち、サイは不機嫌の余りに二人から顔を背けた。まるでだだっ子だな、そんな自分に呆れながらもサイはその姿勢を貫いていた。


なぜこのような事態になったのかのを説明するには、時を半日ほど遡る必要がある。宮殿の天井に突然開いた大きな穴。驚く宮殿の者達を尻目に、そこから伸びてきた刺青のある二本の腕が、イズミの手を掻い潜ってサイを穴に引き込んだのだ。

その時の事を、サイは全く記憶してはいないが、悪夢を見て、懐かしい声を聞いた事は辛うじて覚えていた。しかし、サイを穴に引きずり込んだ2人が、目を覚まさないサイを心配してサイをベッドに運び、その両脇にほぼ裸の格好で添い寝をした事情を知らなかったサイが、寝起きに絶叫した事は致し方がないだろう。その声に驚いた二人の男が、寝ぼけ眼に部屋の扉を吹っ飛ばしたようだ。

その後、扉を壊した二人を叱りながらやってきた重役らしき者達からサイは事情を聞き、混乱を収めるに至った。重役の話はこうだ。

まず、サイが親友のイズミと共に飛ばされてきたこの世界には、人族と魔族がいる。そして彼らは、考え方の違いから幾年も争いをしてきたという。両者の力は五分五分で、長年に渡り膠着状態にある。繰り返し小競り合いを重ねながら互いに力を消耗しては回復、の繰り返し。

しかし最近、人族側に動きがあった。占術士の占いに則り、異世界から救世主を呼び寄せたのだ。その噂は秘密裏に魔族側にも伝えられた。結果として、魔族はそれに危機感を覚え、攻撃の手を強め、戦況は泥沼化していた。

だがそんな時だった。魔族の占術で、救世主の護衛をさせられている憐れな少年が、長年空席であった魔王の座につくべき者だという朗報が入ったのだ。それには一同が嬉々とし、早速人族の手に囚われているサイを救い出した、というのが彼らの言い分だ。

そんな説明に目を白黒させるサイにも構わず、彼らは早速、魔王の儀を執り行い、封印されていた力を解放させた。そして、魔王と認められたサイに、彼らは請うた。
『救世主を倒し、人族に制裁を』
と。だがもちろん、人族の救世主は親友のイズミであり、彼らの言う人族には多少なりとも世話になった。サイが、彼らの願いを聞き入れるはずもなくて、冒頭の台詞に至るわけだ。

サイはすっかり機嫌を損ねていた。イズミの元に戻らないと、サイはただひたすらイズミのことを思った。






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