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01


「……暇」

そう言って、無表情に唇を尖らせるのは、サイという名の青年だ。彼は、巨大な王国の、巨大で見事な宮殿の一室にいる。その部屋は、軽く20畳を超える広さがあり、5人がけの大きなソファが中央のガラステーブルを挟んで2つ設置されている。サイは、片方のソファの一番端に足を組んで座っているが、その隣には誰も座っていない。
なぜか。
それは、目の前に居るサイの親友に原因があった。その親友の周りには、部屋にいる全員、この国のお偉方がこぞって集まっていた。

「イズミ様、是非私どもに異次元の国のお話を聞かせて下さい」

そう言うのは魔導師。彼以外に、騎士団長、司祭、騎馬隊隊長、王直属の重臣がここぞとばかりに集っている。戦いに備えて、今日は皆暇を与えられているのだ。だから、皆が集っている。

「ちょ、ちょっと待って……俺、そんなに話できない……」

美人、と言える美しい顔を困ったように眉尻を下げた。そんな彼、イズミは、この国の運命を左右する勇者だという。しかし、サイにとってはその事実はどうでも良かった。イズミはイズミ。ただ、イズミが幸せならばそれでいいと。イズミが決めた事に、自分は口をださないと。

眉尻を下げるイズミの姿は、どこか様になっている。サイは、ぼんやりとその様子を見ていた。そんな光景を見ていると、気づかぬ内にうとうとし始める。最近の夢見が悪く、寝不足なせいもあって、段々と、瞼が下がっていった。

「サイー、助けて……って、あれ?眠いの?」
「……ん、」

どこか夢心地に、親友ことイズミの透き通った声を聞きながら、サイはソファに寄りかかったまま、意識を飛ばした。



 * * *



「ふふ、サイ可愛い」

ニコニコと、幸せそうな表情をしながらイズミは寝てしまったサイの隣に腰を下ろし、力の抜けた頭を引き寄せた。普段は大人びて、誰にも頼ろうとはしない確固たる態度も、今はナリを潜めている。年相応の、幼さを滲ませる寝顔だ。

いつもイズミの傍にいて、イズミを影で助けてくれるサイが、イズミは大好きだった。それがライクなのかラブなのか、今はまだ解らない。しかし、イズミはどんな時もサイと一緒にいると決めたのだ。例え自分がいる事でサイが蔑ろにされていても、サイは気にするなと、それでもいいと言ってくれた。

だがもちろん、イズミはサイが蔑ろにされる姿など見たくない。自分のために傷付く姿など、絶対に見たくない、絶対にそうはさせないと、心に決めている。だから皆の代わりに、イズミはサイにベッタリなのだ。決して一人にならないように、決して寂しくないように。

「……イズミ様、貴方はなぜその方に構うのです?その方は、ただの人です。貴方はこれからの戦いに備えなければなりません、よく、お考え下さい」
「……分かってる。でも、俺にも譲れないものがあるから」

彼らがサイを良く思っていない事には気付いているしイズミとサイを引き離そうとしている事にも、薄々勘づいている。サイ以外の皆も、強くて親切で優しくて、好きだ。だからこそ、もどかしい。
顔を強張らせながら、肩に寄りかかるサイの髪をすく。手触りの良い、ネコ毛。手にとるとスルリと滑り落ちる。少し寂しさを感じながら、イズミは強い意志を持って言葉を紡いだ。

「皆、守る」

陳腐な台詞だ、そんな思いを抱えながらイズミはサイの髪に口付けを贈った。






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