じわじわと毒のように
グレゴールは、ひとり悶々としながら居城の廊下を歩いていた。
先刻からずっと考えているのは、先ほど正式に婚姻を結んだアーベルの事である。
『あんな可愛い子が僕のものになるだなんて聞いたら、そりゃ嬉しいに決まってるだろうが
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顔を真っ赤に染めながらそう言った彼は、大層可愛らしかった。赤いウェーブがかった髪に翡翠のような目。歳の割に童顔な愛らしい顔立ちで、確かに皆が愛でたくなる気持ちも分かるような気がした。
元々顔立ちは好みだったのだ。アーベルも言っていた婚約時の絵姿は、グレゴールのものもまた執務室の引き出しに大事にしまわれている。それが男だと知らされた後もどうしてだか捨てられず、なんとなくそのままになっていた。実際に会ってからどうするかを決めればよい。そう言い聞かせて捨てられない自分を納得させていた。
それが実際に会ってみて。アーベルは絵姿の頃よりも更に好みの人間へと成長していた。性別は当然同性であるのだが、それを無視できてしまえそうな程には好ましい。
頭の方はどうやらからきしのようだが、一度決めた事は責任を持ってやり通すような芯の強さがある。図体も大きく軍人であるグレゴールに向かって、ああも啖呵を切れるその心意気。今まで出会ったどの人間の中でも一際異彩を放っていた。
グレゴールへと近付く人間達は皆、媚びを売るだけの連中ばかりだった。彼の容姿に惹かれて言い寄る者、強国の王子だと知って利用しようとする者、理由は様々にあれど、誰も彼もが信用に値しなかった。皆グレゴールという人間の中身には見向きもしない。ある程度仕方ない事ではあろうが、グレゴールが人間不信になるのは当然の流れだった。
そんな中、グレゴールへと与えられたこの婚約話。一体この人間はどのような人物なのだろう。彼女は自分を見てくれるだろうか。
そういう思いで、いっそあの絵姿をグレゴールは長年心の支えにすらしてきた。まぁ、男と婚約だなんて事態になっているだなんてを知った時には、驚きを通り越してもはや呆れさえしたが。想像以上に馬鹿げた理由に断る気力さえ失われた。そもそもが、断る気なんて最初からなかったのかもしれなかったが。
揶揄するような言葉を投げ付けたのは、単純に彼を試すためだった。アーベルが本当に、自分が想像していたような人間であるのか。結果はご覧の通りである。
あの人間を逃してはならないと思った。王族らしからぬその素直さが、グレゴールの何かを刺激した。
正式に婚姻を結んでさえしまえばこちらのものである。泣こうが喚こうが王族たる者、その責務からは逃れられない。後になってアーベルがそれを後悔しようがもう、遅いのである。あれは最初から最後まで自分のもの。他所へは出してやらない。残念ながらグレゴールは決めてしまったのである。
ただひとつ気掛かりがあるとすれば。アーベルが恋焦がれていたのは、己が嫌うかつての自分であるという所だった。
幼少の頃には女のようだと言われ、似合わないからとグレイスだなんて渾名さえ付けられた。人間不信に拍車をかけたのはこのせいもあったのかもしれない。
それが嫌で嫌で、グレゴールは反抗するように軍人となり、戦闘狂と呼ばれる程戦いに明け暮れた。お陰で今や、グレゴールを見てグレイスだなんて呼ぶ者は身内《王族》にも居ない。グレイスという渾名は、ほとんど忘れ去られているはずだった。
それがまさか、こんな所で尾を引いて居ようとは。
あの可愛らしいアーベルに、ああも言わしめた。恋の最大のライバルはどうやら過去の自分らしい。今の自分にその気持ちが向いていないのが、ただ口惜しくて仕方なかった。
『――絵姿と全然違うぞ! それではただの筋肉ダルマではないか
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あのストレートであろうアーベルの意識を、どうやったら男である自分に向かせる事ができるか。そんな無理難題に頭を捻りながら、グレゴールは自室へと足を踏み入れたのだった。
まずは新婚初夜である。
グレゴールにはしかしそれが、楽しみで仕方なかった。
無理を言って、アーベルとの結婚式やその他諸々の儀式などは身内だけでサクッと済ませた。会談がてら、その場で神父を呼び戸惑う両親族共を捻じ伏せて儀式を完了させてしまったのだ。
お披露目だなんてそんな勿体無い事はさせない。グレゴールは慎重に、かつ強引に押し進めたのである。
そうすればどちらが新婦でどちらが新郎だのという煩わしい諸々からも逃れられるし、男同士の結婚だ何だと揶揄する厄介な貴族連中の目も掻い潜れる。政治的な判断から大々的に周知されていなかった事もプラスに働いた。
この後は、先日案内した城へとアーベルを囲ってしまえばもう、後戻りだってできなくなる。外へ出す必要もなくすつもりだ。ひっそりと速攻でカタを付けたグレゴールの策は完璧だった。
そうやって強引に進めたグレゴールを前に、目を見開いて戸惑うアーベルはやはりとても愛らしかった。
何かとんでもない事が起こってはいるが、公的な場で口を開けばその無能さが露呈する。そう思ってなのだろう、喋らないように口を噤んでプルプルと震える様は、グレゴールの何かを十分に満たしてくれた。訴えかけるような上目遣いのその目が堪らなかった。
性別などはもう関係ない。例え女好きだろうがなんだろうが、アーベルの目をこの自分に向けさせるまでは他所には出してやらない。その考えが体に馴染んでしまう程には、グレゴールの目は、すっかりアーベルに釘付けであるのだった。
「いやおい待て……なぜ、我らの部屋のベッドがひとつなのだ?」
グレゴールが待ちに待った初夜だった。
何かと理由をつけて言いくるめ、同じ部屋で寝るのをアーベルに認めさせた《強要した》後での事だった。
風呂で磨かれ寝間着に着替えたアーベル《愛らしい仔羊》が、戸惑うようにぼそりと言ったのである。
夫婦であるならば当然のことではあるのだが、生憎と男同士である二人にはその認識に齟齬があったようである。
「なぜって……夫婦ならば当然だろう?」
「夫婦って……何度も言うが、男同士なんだが……」
戸惑うアーベルが、小声で言いながらグレゴールを見上げた。その頬に赤みが指しているのは羞恥からだろうか。そうでないにしても、十分にそそるシチュエーションである。
これからじっくりと少しずつわからせていけばいい。グレゴールはそんな企みを胸にしながら、それがバレないよう慎重に取り繕っていた。
「男同士でも夫婦は夫婦だ」
「……」
納得はいっていないようだが、グレゴールが強く主張すればアーベルも自信がないものについては反抗しない。この数日で分かった事だった。頭が足りない事を自認しているせいだろう。言いくるめられているという自覚はもしかしたらあるのかもしれないが。
どうにもならない事に関しては黙って従う、そんなアーベルの素直さがますますグレゴールの何かを刺激する。
「大きなベッドだ。俺が同衾しても転げ落ちる心配はいらない」
そう、同衾である。グレゴールの待ちに待った同衾。
もちろんそのまま寝かせるつもりなんてグレゴールの方には毛頭ないのだが。警戒する仔猫を落ち着かせる為には、何もない、といった体を装わなければなるまい。
どうしてだか普段以上に高鳴る鼓動を自覚しながら、グレゴールはじっくりとアーベル《仔猫》が動くのを待った。
従軍して忍耐強くなった己自身《息子》を、この日ほど感謝した事はなかった。
「しっ、仕方ないな……別に我らの間に何かあるでもなし……」
口を尖らせて頬を染めたまま、アーベルは先にベッドへと入った。
本当に特大のベッドを用意したものだから、ちんまいアーベルが横になってもスペースは十分にある。グレゴールが横になって暴れたとしても問題はない。徹夜で作らせて持って来させた甲斐があった。
アーベルは本当に何もせずに眠るつもりだったらしい。敷かれていた上掛けとの間に身体を滑り込ませたかと思うと、その場にこてんと横になり、グレゴールに背を向けてしまった。無防備なその小さな背中に、胸の中から何かが込み上げてくるようだった。
ゆっくりとベッドに乗り上げると、グレゴールはアーベルを挟み込むようにベッドに両手をつき、いよいよ彼に向かって言ってやった。
「お前はまさかこのまま眠るつもりか?」
ピクリと反応した体が、ゆっくりとグレゴールの方を向く。そのエメラルドグリーンの瞳が、どこか潤んでいるようにさえ見えた。
「……そうに決まってるだろう、一体何なのだ?」
「このまま寝かせると思うか?」
「それはどういう……?」
「まさかお前、知らないのか……?」
「知らないって、何をだ?」
「男同士のセックスをだ」
どうにも反応の鈍いアーベルに、思わずそんな事を聞いてみれば、勢い良く言葉が返ってくる。
「し、失敬な! 僕にだってそのくらいの知識はある! ただな、僕とお前とはただの政略結婚で、勘違いの産物であるし……その、そこまでする必要は別に、ないのではないかと思ってだな。……別に僕が知らない訳ではないからな
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「ほう……? どうだかな」
やたらと早口で誤魔化そうという風にも見える。そんな様がどうにも可愛くて、グレゴールは揶揄うようにニヤリと笑って言ってみせた。すると、面白い位に思い通りの返事が返ってくる。
「な、なんだと……!」
「知らないなら教えてやろうと思ってたんだが」
「できる! 僕にだってできるからな
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「ならやってみろ。できないなら俺がやる」
「うぐっ……」
本当に知らないのならその身体に覚え込ませるだけだし、知っているのならば上手く誘導して自分から動くように差し向けるつもりだった。ゆくゆくは自分から強請るほどにまで溺れさせてやりたいが。今はまだ、グレゴールという人間が無害である事を示すような段階である。
だからこそ少しずつ、毒のようにグレゴールという存在を染み込ませていく必要があった。
そういう打算でもってグレゴールは、アーベルの自主的なヤる気を引き出させようとしているのである。
嫌だろうとは分かっていながら、わざとアーベルに刺さる言葉を選んでやる。そうすれば彼は、グレゴールの思うように動かざるを得ない。自分ができない人間であると自覚しそして、祖国を愛するアーベルだからこそ。
「俺も本来男とはヤらない主義なんだがな……溜まるモノは溜まる。夫婦となったなら当然、それをどうにかするのはお前の役目だ」
「役目……」
「そうだ。……できるのか? お前に」
両方の口角を上げながら、アーベルに向かって挑戦的な視線を向ける。
彼の口から望んだ答えが出てくるのは、それから間も無くの事だった。
「……やる。役目だとお前がそう言うのなら、ちゃんと、する」
その瞬間、グレゴールは内心でほくそ笑んだ。
ぐっと唇を真一文字に結び、アーベルはグレゴールの胸を押し返しながら起き上がった。その顔には非常に複雑そうな表情を浮かべている。それが、強がっている少女のようにも見えて、その何とも言えない光景にグレゴールの胸が躍った。
「服、脱がすぞ」
「好きにやれ」
「う、うむ……」
そう言うと、アーベルはグレゴールの下衣へと手をかけた。一体ナニをしてくれるのか。そう思うと、興奮も一入《ひとしお》だった。
ゴクリと生唾を呑み込みながら、アーベルがゆっくりとグレゴールのものへと触れる。先程までのやり取りで緩く反応していたそれを、アーベルの手が焦ったくなるほど優しい手つきで擦った。
慣れていないのが丸わかりで、あまりイイとは言えないようなものだった。しかし、逆に言えばその初心さ加減にはクるものがあって。グレゴールはしばらく、その相反する心地に身を委ねていた。
だが、しばらくの後で。とうとう我慢しきれなくなったグレゴールは、頑張るアーベルに向かって言った。
「おい……アーベル、そんなんじゃ足りないぞ」
「うぐっ……だ、だが、こうすれば気持ちいいだろ?」
「焦れったい。このままだといつまで経っても終わらないぞ」
その悩ましげな様子は見ものだったが、グレゴールも我慢の限界が近かった。このまま押し倒して無理やり致してしまってもいいのだが、それでは今後の計画に支障が出る。さてどうしようかと、しばらくそうやって思案していると。アーベルがそこで、とんでもない事をし出したのである。
「う、うむ……では、僕が頑張ってお前を気持ち良く――」
アーベルは言いながら何と、その手をグレゴールの尻の方へと滑らせたのである。
「ちょっ、お前待て、まさか……」
盛大に驚き、慌ててその手を掴んで引き剥がす。すると、キョトンとしたアーベルの表情がグレゴールの目に飛び込んできた。
「俺に、挿れる気だったのか……?」
信じられないものを見るような目でアーベルを見れば、彼からは不思議そうな返事が返ってきた。
「そうだが……何なのだ?」
「いや待て、普通に考えてそれはないだろうが」
「な、何故だ!」
「何故だも何も……体格差から考えても、俺がお前に挿れるに決まってるだろう」
「何をっ、……僕だって男だ! 受け入れる側なんてやった事がないから無理だ!」
どう考えてもグレゴールからすればアーベルが受け側なのだが。アーベルは頑なに認めようとはしなかった。
「そりゃあ、初めは誰だってやったことはないに決まってるだろう」
「だ、だが、僕は挿れる方をやりたい!」
「それは俺も譲れん」
「ぐぬぬぅ……僕だって……」
彼もまた男であるし、そう言いたくなる気持ちも分からなくはないのだが。グレゴールを抱こうと意気込むアーベルに、またしても何とも言えない気分が湧き上がってくる。こんな、筋肉ダルマだと言い放った男に対してそういう事をしようと思えるだなんて。
役目を果たそうとする彼の義務感に感心するのと同時に、胸の中がずきりと傷むような気がした。その義務感に自分はつけ込んでいる。そういう思いはどうしても抜けなかった。
それはそうと。グレゴールだって譲る気などなかった。何せ、こういう状況へと持ってきたのはそもそも、グレゴールがアーベルを抱く為なのだから。何とか上手く言いくるめてそちらへと誘導せねばならない。ずる賢いとすら称される頭をフル回転させ、グレゴールは考えた。
そしてとうとう、グレゴールはひとつ妙案を思い付く。最高に馬鹿らしくて、そして今の自分達に最も相応しい方法を。
「おいアーベル、こういうのはどうだ? 互いのブツを掻き合って、先に出した方が負け」
「んなっ……」
「気持ちいいだろうと思うものなら相手に何をしてもいい。――こんな場には相応しい勝負だと思わないか?」
平然としながらグレゴールは言った。
どちらにも平等に勝機はあると見せかけ、グレゴールがリードを奪える方法だ。これにアーベルが乗りさえすれば、この勝負はグレゴールが確実に取れる。そういう類いの提案だった。
「何だ? 俺に挿れるだのと言っておきながら自信がないのか?」
ダメ押しとばかりにそう言えば、アーベルの頬がひくりと痙攣するのが見えた。可憐な見た目以上に負けず嫌いで男らしい面を持つアーベルならば、絶対にここでノッてくるはず。そういう確信を得ながら、グレゴールは余裕の表情でアーベルの返事を待つのである。
「っ、そこまで言うなら分かった、やってやろうではないか
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そう啖呵を切ったアーベルに、グレゴールは内心でほくそ笑むのだった。
◇◆◇
ぐちゅぐちゅといやらしい水音と共に、荒い息遣いが部屋に響いていた。
互いのものを掻き合いながら身体を密着させ、相手の至る所を愛撫しながら先にイかせようとする。
先にイッた方が負け。そういう勝負の最中なのだから当然、思い付く限りのいやらしい事をしようとするものであるのだが。実のところ勝負は平等ではないのだ。
従軍していた事もあり、グレゴールは既に女性の身体の味を知っている。男性と致した事はなかったが、基本的に性感帯と呼ばれるものが同じようなところにあるのも、そしてどこを触ればイイのかも、グレゴールは若輩ながら心得ているのである。
そして当然、箱入り息子らしいアーベルが未経験なのは言わずもがな。さすがに基本的な褥教育は受けているようであるが、グレゴールのそれと比べると、まるでお話にならないようなものだったのである。
つまり、アーベルはこれを受けてしまった時点でもう、負けはほとんど決まっていたのである。
グレゴールは目の前にあったアーベルの唇を奪い、舌で中を蹂躙し、いやらしい音を立てながら吸い上げて翻弄した。そうするだけで面白い位に震える目の前の身体に、興奮を煽られていく。けれど、拙いアーベルの愛撫では中々イけそうな気配はなく、そろそろこの勝敗が決しそうなところにまでもう来てしまっていた。
「んうっ……あ、ふぅっ――!」
「ん……アーベル、手が止まってるぞ」
「んんっ、あ……おま、えが……んあぁーっ
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口付けとものへの愛撫の合間に語り掛ければ、面白い位素直な反応が返ってくる。震えながらも応えようとしているアーベルの先端にわざと軽く爪を立てれば、悲鳴と同時に目の前の身体が大きく揺れた。
最早グレゴールへの愛撫なんて碌にできてすらいないのに、しぶとく握っているその手が愛おしい。ああ早く、この愛らしい彼が全部自分のものになればいいのに。そういう内心を押し殺しながら、グレゴールは仕上げとばかりにその手の動きを強めた。
「ああっ! 待っ、て、だめだ……出て、――ッ
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「そういう勝負だからな。……待たないぞ……早くイってしまえ。お前を食わせろ」
耳元でボソリとそう言ってその耳に柔く噛み付く。すると、アーベルはそこでとうとう耐え切れなくなったのか。
「あっ、んああ――っ
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嬌声を上げ、仰け反りながら絶頂した。震えながら何度かに渡って吐き出し、その強い快楽に浸っている。とろんとした表情でだらしなく口端から涎を垂らしながら、無防備にもその身をグレゴールに預けてしまっている。
その姿は余りにも煽情的で、グレゴールは堪え切れずに目の前の唇へと齧り付いた。未だにひくひくと震えるその身体をいっそ抱き寄せ、柔くその舌にも噛み付いた。
きっと彼のこんな様を見たのは自分が初めてなのだろうと思うと、得も言われぬ嬉しさが込み上げてくる。そして同時に、このアーベルを自分に縛り付けてくれたこの婚約にも感謝した。彼は自分の元へ来るために生まれてきたのである。バカになった頭ではそんな考えすら浮かぶ。
勝利の余韻に浸るように、グレゴールはアーベルの唇を好きなだけ貪るのだった。
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