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世界に向けて反抗期



昔から妙なものに好かれた。それは人のかたちをしたやつであったり、明らかに人とはサイズが違ったり、たまに透けているやつも見える。イタズラ好きなのも多くて、度々困らされた事もあった。普通の人には見えないものだから、何も見えないはずの所で驚くものだから、幼い頃は特に皆から不審がられた。

――つまり、俺が言いたいのは、俺が普通ではない、という事。別に誰かに同情してほしい訳でもないし、悲観している訳でもない。たまに普通に生まれたかったなあと思う事はあれど、羨む事はない。だって考えてもしょうがないんだから。無い物ねだりをして虚しくなるだけだ、だってこれは、ただの事実なんだから。


2年ほど前、俺は家を出て全寮制で学力的にも優秀だと言われているこの学校に入った。今流行りの中高一貫の私立で、全国的に見ても学力は上位に位置する生徒が多い。巷でも有名な将来性のある学校で、推薦入試等々で有名な大学に進学する生徒もかった。

ただ一つ、欠点があるとすれば男子校であるという点であろうか。女がいないのは残念に思う人間も多いけれど、別に閉鎖的ではないから彼女持ちの生徒も多い。男子校によくある話の同性愛者もいるけれど、それほど多くはない、けれど理解のある人は多く皆オープンだ。和気藹々とした、良い学校だとは思っている。

「和泉(イズミ)、これ。この前休んだ分のプリント」
「ああ、ありがとう」
「テストも近いから誰かにノート見せて貰えって。……最近休みが多いけど、体調大丈夫か?」
「あー、そんなに酷いわけじゃないんだ。大丈夫」
「そう?あんま無理すんなよ」

言いながら去る委員長は、一言で言えばお人好し。こんな、根暗な俺をちょこちょこ気にしたり、話しかけたり、ご苦労なことだと思う。関わったって良いことなんてないのに。

なんて、委員長の後ろ姿を見つつそんなことを思ってる間にも窓を見れば、何かがそこに張り付いている。逆光でよく見えないけれど、鳥のような翼が生えているのが、見える。一瞬でもそれを見てしまったのが悪かった。向こうも恐らく俺に気付いている。ガタガタと窓が揺れる。正直、まずい。このままだとガラスを割られる。経験から、知っている。

俺は大きく溜め息を吐くと目だけで教室をぐるっと見渡し、誰も自分を見ていない事を確認する。再び窓に目を向けて姿勢を正し、精神を集中、手を合わせ小声で祝詞を紡ぐ。小規模の退魔の波動を放てば、それは驚きどこかに飛んでいく。ホッとして、いつものように前を向くと、俺はいつも通りに授業を受けた。


自分が他人と違うものを見ていると理解したのは、小学校の頃だった。自分と同じ年頃の人間が、自分と同じものが見えていない。それに気づくのは簡単だった。初めの頃、クラスメイトからは不審がられて、皆俺を避けるようになった。そんなクラスが変わってから、俺はすぐに誤魔化す事を覚えた。人とそれの区別がつかない事もあったけれど、皆俺がオカシイ事はすぐに忘れていった。

中学に入って、俺はまとわりつくそれをどうにか出来ないかと、それに纏わる古い書物を読み漁るようになった。見つけた書物によれば、それらは妖怪の類い。修行をすれば、抵抗する力を身に付けられる。当事の俺は、解放される可能性にすがるのに、必死だった。

結果として、俺はある程度の抵抗力を身につけ、今に至っている。時々ボロが出るけれど、今のところごく平穏な毎日を送っている。ここまで普通に生活を送れている事が、まるで夢のようだ。どうかこのまま、何事もなく生活を送れる事を願うばかりだ。そう、思っていたのだが。変化というものは待ってはくれないらしい。


「最近2年に転入してきたヤツが変なんだって」
「は、何だそれ?」
「何か、――が……で――」

ざわざわと普段以上に騒がしい生徒達の話を聞けば、どうやら転入生がいるようだった。ただの転入生ごときに、ここまで騒ぐのも妙だ。耳をちょっと済ませば聞こえてくる、『変』、『視える』、『胡散臭い』、といった言葉。皆口にする単語は似たり寄ったり。

総じて、噂の転入生はどうやら『変』らしい。俺の興味など、ああそうなんだ、という程度だ。噂に流される事なく、俺はしばらくはいつも通りの日常を過ごした。

午前中の授業が終われば皆向かうところは同じだ。中には混雑を嫌い教室で持参したものを食べる者もいる。だが俺にはそんな事をする気力もないので、食堂へ向かう。噂が広まり騒がしい廊下をゆっくりと歩きながら食堂へ足を向ける。

相変わらず人気の高い食堂に溜め息が出るが、食券を買ってカウンターでトレーを受け取り、席を見つける。人の多い中でもひとり分のテーブル位はある。いただきます、小声で呟き箸をつける。今日のメニューは和食の定食。この煮物はこうだとか、味噌汁の出汁はああだとか、ひとりで耽っていると。

「ここ、いいですか?和泉雅晴(マサハル)先輩」

見知らぬ生徒に、声をかけられた。








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