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今日も意地を張り合う


 一体何が原因でこんな事になったのだったか。ヘンドリックはふわふわとした心地になりながら首を傾げていた。

 目の前には立ちながら酒瓶をあおり、片手で煙草をふかしているフォルクマーがいる。しかも素っ裸で。二人共。
 ヘンドリックもまた、煙草を片手にベッドに腰掛けていた。そして、酒の酔いの回った頭で、ぼんやりと目の前にいるフォルクマーを眺めている。

「今日も負けねぇぜ?」

 ニヤリと笑った男の逞しさたるや。ヘンドリックは少しだけ怖気づきながら、ジリジリと近寄ってくる男を見上げた。


 事の起こりは数時間程前に遡る。
 ヘンドリックとフォルクマーは、同じランクの冒険者だった。ヘンドリックもフォルクマーも、その地では有名な豪傑の一人だ。彼らほど腕利きの冒険者は他に居なかったし、いつだって二人は高額な依頼を取り合いいがみ合っていた。欲しい依頼が被ったら、大抵は殴り合いの喧嘩になる。ヘンドリックが負ける時もあれば、フォルクマーが負ける時もある。
 彼らは誰が見ても好敵手だった。

 ただその日は、ちょっとばかし運が悪かったのだ。喧嘩の最中、ヘンドリックの拳の当たりどころが悪く、フォルクマーはまるで屠殺された動物か何かのように吹っ飛んでいってしまった。そんな事は普段もままあるのだが。その日はとことん、運がなかった。
 丁度、子供ほどの背丈の少女が通りかかったのだ。もちろん周囲は助けようとしたが、間に合わなかった。少女は、吹っ飛んだフォルクマーの下敷きになってしまったのだ。

 彼女は、その日登録を済ませたばかり、新米ほやほやの冒険者だった。そのようなひよっこが、筋肉隆々の熊のような冒険者の下敷きになったのだ。無事なわけがなかった。
 少女は怪我をした。泣きながら手当を受け、フォルクマーとヘンドリックの姿を見てはぶるぶると震えた。
 二人は、泣き続ける彼女と、それを何とか宥めるギルドの職員達を呆然と眺めた。そんな居た堪れない空気の中、彼らは冒険者ギルドの管理者の元へと呼ばれたのだ。

『お前たち二人、しばらく喧嘩は厳禁だ。――そうだな……これから一年間、パーティを組め。離れる事は禁止だ。破ったらお前達の資格剥奪な』

 二人は言いたい事をこらえ、ぐっ、と唸った。今回ばかりは、自分達が100%悪いのだ。これ以上何かあれば、冒険者という職に対する心象も悪くなる。何せ二人は、この地方でも指折りの冒険者には違いないのだから。どんなに相手を嫌っていても、彼らはギルドからの命令に従う他ない。
 ヘンドリックもフォルクマーも、無言のままその場で頷いた。ゆっくりと退出し、パーティ登録をさせられ、おまけに共に過ごせと命令を受けた。
 二人ともそれは抗議したが、しかし冒険者のパーティというのはそう言うものだ。同じ釜の飯を食い、同じところで眠り、そして協力して戦う。一心同体にならなければならない。

『あ? パーティ舐めんじゃねぇぞ? 冒険者パーティってのはそれこそ運命共同体みたいなもんだ。テメェらのような凸凹コンビ、四六時中一緒に居ねぇと良くはならねぇよ。全て共同にしろや。それが出来なきゃお前らクビな』

 そんな横暴な事を言われ、しかし反論も出来なかった二人は。そんなギルドマスターの権限により、同じ宿の同じ部屋の予約を取られてしまったのだ。

『ハッ、せいぜいナカヨクやれ』

 そう捨て台詞を吐いたギルドマスターは、納得のいかない顔で突っ立っていた二人を、ギルドの建物から追い出してしまったのだった。
 彼らの手元に残ったのは、一枚の紙と、二人それぞれの荷物だけだ。しばらく、追い出されたままの格好で呆然としていたが。どちらからともなくのそのそと動き出すと、二人は指定された宿へと向かった。
 無理矢理入れられた宿の受付嬢は二人の馴染みで、彼女は大層びっくりしたような顔で彼等を出迎えた。

「何だい、あんたらいっつもいがみ合ってるから仲悪いんだとばかり思ってたんだがねぇ……」
「おばちゃん、それ正解! ギルドマスターの命令さね。俺ら今後一年間、パーティ組めって」
「あらー、……でも、それもいいんじゃないかい? 二人で一緒にやってれば喧嘩もなくなるでしょ!」
「……おばちゃんまで」

 泣き言をもらすフォルクマーにチッと舌打ちを打ちながら、ヘンドリックはさっさと部屋の鍵を引ったくると、さっさと部屋の中へと入ってしまった。
 だからヘンドリックは、おばちゃんとフォルクマーが何を話していたかなんて知る由もないし、特別待遇とやらで部屋に酒と料理が運ばれてきた時だって疑いもしなかった。
 そんな中、二人での食事が始まればやはり、喧嘩が始まる。

「違ぇ、アレは俺がお前を吹き飛ばしたんだ、俺の勝ちに決まってんだろうが、クソ野郎」
「ああ!? お前があそこで吹っ飛ばすからこうなったんだろ?」
「そもそもだ、前回の依頼で――!」

 こんなのはいつもの事。日常茶飯事だった。そんな口喧嘩に発展したところで、ふと、フォルクマーが呟いたのだ。酒も入っていたから、随分と酔っ払って判断力も鈍かったのだろう。ヘンドリックはそう思うことにした。

「クソっ、殴り合いもできないならどうやって決着付けるんだ」
「ぶっ飛んだテメェのせいでバレたら資格剥奪だもんな」
「チッ……まぁ、そうなっちまったんだから仕方ないだろ。おい、酒の飲み比べでどうだ?」
「……俺ァ、酒はそんな飲めねぇ。負けるのが分かってる勝負なんて受けねぇぞ」
「あ? お前がか?」
「……」
「そりゃ、酒場であんまり見ないはずだ……ああー……カードゲームは?」
「んなもん、道具がねぇよ」
「……じゃあ、どうしろって……あ!」

 フォルクマーは、何かいいことでも思いついた、とばかりに表情を明るくした。ヘンドリックはそれを、不快そうに見つめる。いつもの事だ。
 しかし、この日は少しばかり違っていた。続けて飛び出たフォルクマーの言葉に、ヘンドリックは驚愕する事になるのだ。

「おいヘンドリック、こういうのはどうだ? どっちが早くイかせられるか」
「…………は?」
「だから、射精。先にイッた方が負けだ」

 開いた口が塞がらなかった。恐る恐る聞き返すも、彼の返事は変わらなかった。それどころか、手で軽く輪っかを作りながらその手を上下させる。明らかにそれだと分かる下ネタだった。
 その後たっぷりと間を置いた後で。ヘンドリックはようやく言葉を絞り出した。

「……何で、テメェとそんな事しなきゃいけねぇんだよ」
「優れたテクを持ってた方が女を満足させられるだろう? それで勝敗を決めよう」

 まるで名案だ、とばかりに顔を綻ばせるフォルクマーにヘンドリックは絶句した。
 酒だ、きっと酒のせいに違いない。ヘンドリックはそう決めつけた。

「いやおい、待て、……お前正気か? 飲み過ぎなんじゃねぇのか?」

 その場で笑顔のまま立ち上がったフォルクマーを見上げながら、ヘンドリックは情けない声で言った。
 フォルクマーの顔に浮かぶのは、いつもの爽やかで漢らしい笑みだ。彫りの深い、それでいてどこか爽やかな雰囲気を与える彼の容姿は、普段は穏やかな彼の人柄と相まって、女性陣からの人気が高い事をヘンドリックは知っている。
 一方、容姿こそ悪くはないのだが、粗暴な態度や言動から近付き難い印象を与えるヘンドリックとは雲泥の差だった。フォルクマーが羨ましいと思ったのも一度や二度ではない。
 だからこそ、こんなことを提案してくるフォルクマーが信じられなかった。女性からのアピールを見たのも一度や二度ではない。しょっ中、彼はそういう付き合いを求められている。ヘンドリックはそれを知っていた。だからこそ、こんな提案をしてくる彼が信じられなかったのだ。

 酒を片手にジリジリと近寄ってくるフォルクマーに、ヘンドリックはすっかり怖気付いてしまった。普通の殴り合いの喧嘩の方が何倍もいい。
 椅子をひっくり返しながら後退し、ヘンドリックはジッとフォルクマーを見つめた。

「おい……本気かよ」
「じゃあどうやって決着つけるってんだ? これ以外に案があれば出してみろよヘンドリック」
「それは……」
「ほら、代案も出ないだろ? 喧嘩ができないんだし、これで決まりだ。シラフじゃやってらんないだろ、飲め、そして脱げ! 祭りだ! あっはははは!」
「おいテメェ、マジで酒で頭おかしッ、ぶっ――!」

 とうとうベッド近くまで追い詰められてしまったヘンドリックは、口の中に酒瓶を突っ込まれながら、ベッドの上に座らされてしまう。慌ててヘンドリックごと酒瓶を押し除けるが、いくらか飲み込んでしまった。
 想像以上に度数の強い酒に、喉と胃がカッと熱くなる。ヘンドリックは思わず口元を覆って顔を顰めるが、フォルクマーは全く悪びれもせず、今し方ヘンドリックの口に突っ込んでいたその酒瓶をグイとあおっていたのだった。

「ああー、これ、美味いだろ。俺の気に入りだ。お前も飲め」
「だから、俺は飲めねぇって言ったろ。テメェで勝手にやってろ。……クソ、強ぇなこれ」
「ん? 飲まないのか? ……んじゃあ、早速ヤろうぜ」 
「っおい待て! 俺はヤるって言ってない――おい!」

 随分と機嫌がいいのか、ケラケラと笑いながらヘンドリックの服を剥ぎ取ろうとしてくるフォルクマーに、ヘンドリックは抵抗する。だが、フォルクマーは無駄にそういった経験が豊富な上、今はヘンドリックも簡易な部屋着に着替えている。抵抗も無意味だった。
 引く様子は全く見られない。こうなっては、フォルクマーは絶対に引かない。経験上、ヘンドリックも思い知らされていることだった。

「分かった! ヤってやるからその手を離せや! テメェにされる位なら自分で脱ぐわ!」
「あ? ヤる気になった?」
「……テメェが言うから仕方なくだ!」
「そうか」

 焦ったヘンドリックがそんなことを口走ると、フォルクマーはにっこりと笑いながら大人しくなった。そんな好敵手の様子を見て奇妙な気分になりながら、ヘンドリックは脱がされかけていた自分の服に手をかけたのだった。

 見られている。ヘンドリックにはそう感じられて仕方なかった。自分の肉体がそれなりに悪くない自覚はあったが、それにしてもジロジロと見られすぎている気がした。
 酒のせいで自分の感覚がおかしくなっているのか、それともフォルクマーこそがおかしくなっているのか。彼にはわからなかった。

 そうして最後に残った下着を脱ぐ際、少しだけ躊躇した。酒でフワフワとした心地の中に残った理性が、冷静になれと訴えてくるのだ。こんな喧嘩、馬鹿げていると。受ける必要はないと。
 かと言って、今更やらないなんて言えば、それではまるで負け犬のようで彼のプライドも許さない。もう、後戻りはできないのだ。

 それでふと、ヘンドリックはフォルクマーの方を見た。彼もまた、同じように下着に手をかけているところだった。躊躇もなく、一気にそれを脱ぎ去ってしまう。フォルクマーには恥ずかしさのかけらもないようで、自分と並ぶ程の肉体美を見せつけてくる。まるで裸体の彫刻像のよう。
 一瞬、その肉体に見惚れそうになったが、フォルクマーが振り返ったことで我に返ったヘンドリックは、その視線を慌てて引き剥がした。

 一体自分は何をしているのだろうか。すっかり酔いの回ったふわふわとした心地の中、ヘンドリックは服の中に仕込まれていた煙草を取り出すと、素っ裸のまま火をつけた。
 行為の前の一服。女の前では決してしないそれを、自分に気合を入れるためだけに吸う。肺の中を白い煙が犯す感覚を味わいながら、ヘンドリックはしばらくの間そうしていた。

「おい、そろそろヤるぞ。ボーッとしてたら決着つかないまま朝になっちまう」

 そう言いながら、自分の煙草をテーブルの上にある灰皿へと押しつけたフォルクマーは、ずいずいとヘンドリックの元へと近寄ってきた。

「待て、これを一本吸い切ってから――」

 分かりやすい時間稼ぎだった。ヘンドリックは諦めも悪く、この時間を引き伸ばそうと、近づいてくるフォルクマーを阻む為に腕を伸ばす。けれど、そんなものはハナから無駄だった。

「何言ってんだ、早く決着付けるんだよ。 今日も負けねぇぜ?」

 そう言ってヘンドリックから煙草を奪い取ったフォルクマーは、酒によるものだろうか、その男らしい精悍な顔を少しばかり上気させながらイヤらしい顔付きでニヤリと笑った。火の付いた煙草を唾液で消し潰し、ついでとばかりにその手で握り潰す。
 ヘンドリックはらしくもなく、すっかりビビってしまっていた。普段と何一つ変わらないはずなのに、今日のフォルクマーはどこか普段とは違った迫力がある。そう思えてならなかった。

「んむっ」

 ベッドに腰掛けていたヘンドリックに覆いかぶさるほどの勢いで、フォルクマーは突然口付けてきた。後ろ首を手で押さえつけられ、逃げることも叶わない。
 そして、続け様に口の中へと入ってきたその舌に驚いて、ヘンドリックはハッと息を呑んだ。
 まさか本格的に口付けされるだなんて思いもしていなかったヘンドリックは、慌てて引き離そうとフォルクマーの体に手をやる。しかし、その拍子にバランスを崩してしまったヘンドリックは、そのまま後ろのベッドへと倒れ込んでしまった。お陰で口付けからは逃れることができたが、これでは背水の陣、逃げ場がなくなってしまった。

「っおい、テメェ、何でキスまですんだよ」

 ついつい、そんな文句がヘンドリックの口から飛び出る。あわよくば正気に戻り、また別の提案をしてはくれまいかと、そんな下心もあったのだが。

「あ? 何でって……女をイかせるのにキスは常套じゃないか」
「いや、……まあ、そうだけどよぉ」

 当然だとばかりに一蹴される。経験が豊富そうなこの男に言われると反論もできず。ヘンドリックの言葉尻は弱くなった。そして、続けて言われたフォルクマーの言葉に、負けたくないヘンドリックはついつい反応してしまうのだ。

「ああん? 何だお前、ビビッてるのか? ヘンドリックの癖に」
「ビビッてねぇ!」
「そんならちゃんとヤれよな。ほら、舌出せ。前も触るから逃げんじゃねぇぞ」
「お、おお……」
「そんで俺のも触れ。片方だけがやってたら勝負になんないだろ」

 そんなことを言われながら再び口付けられる。差し込まれる舌をおずおずと受け入れながら、ヘンドリックはその起立へと手を伸ばした。
 当然ながら他人の勃起しかけたブツを触るのなんて初めての経験で、ヘンドリックは恐る恐るだった。柔く芯を持った自分と同じものが手に触れる。不思議な感覚だった。
 互いの手の中でゆるゆると兆し始めたそれは、彼らの体格に見合った立派なもので。どちらも甲乙つけがたい。

 自分の掌の中でむくむくと育っていくフォルクマーのものを感じ取りながら、ヘンドリックの頭は段々とおかしくなっていった。何せ、その愛撫が気持ち良すぎたのだ。
 相手は目を合わせれば殴り合うような相手だというのに。それが余計に興奮した。
 最早隠しようもない。ヘンドリックはその気持ちの良い行為に夢中になっていった。
 


◇ ◇ ◇



「うああっ、ま、待て! おいそりゃ、んっ、卑怯じゃねぇか!」

 ベッドに横向けに寝転がりながら、ヘンドリックは悲鳴を上げた。最早少しばかり涙目になりながら、やらかしてくれた当人に文句を言う。
 だが当然、その犯人たるフォルクマーは勝手知ったる顔だ。涼しい顔をして同じく寝転がりながら、ヘンドリックの股間に手を添えている。

「んあ? これは勝負だろ、喧嘩と同じだ。何でもアリに決まってんだろ。何ならお前もやってみろよ」

 言いながら、再び目の前にあったヘンドリックの起立を、ぱっくりと口に咥え込んだフォルクマーは全く容赦しなかった。
 じゅるじゅると啜り上げながら奥まで咥え込む。何なら喉の奥の方で締め付け、その下の袋をぐにぐにと揉み込んでくる。
 これにはヘンドリックも堪えきれなかった。

「んぐっ、う……ああっ!」

 目の前にあるフォルクマーの起立に手を添えながらも、自分に与えられる刺激に耐え切れずにビクビクと悶えてしまう。こんなのは知らないし、フォルクマーなんかにヤられるだなんて思ってもいなかった。
 続けて尻まで揉まれ出してしまって、ヘンドリックはもう、訳が分からなくなっていた。
 一際強く吸われた後で。快楽にビクビクとしているヘンドリックのものから口を離したフォルクマーが言う。揶揄うような、或いはまるで誘うかのような声音だった。

「ん……ヘンドリック、お前、すっげぇ敏感。よくこんなんで女抱けんな……ほら、ここもヒクヒクしてんじゃん」

 言いながら尻を揉み、そのあわいにまで手を伸ばしてきたフォルクマーに、ヘンドリックは声を張り上げる。しかし、すっかり快楽に浸されてしまった体ではどうにも迫力を欠いていた。
 真っ赤になってゾクゾクと背筋を震わせながら、ヘンドリックは必死に言い放つ。

「っ! うる、っせぇ! この変態野郎っ」
「男なんて皆こんなもんだ。悔しかったらお前もやってみろよ。……見ててやるから」
「っ」

 そう言ってピタリと尻を揉む手を止めたフォルクマーは、宣言通りにジッとヘンドリックを見つめた。本気で見ているつもりらしい。その視線を感じながら、ヘンドリックは目の前にあるフォルクマーのブツを見る。
 すっかり固く反り返ったそれは、自分のものと同じで少し違って、見ていると妙な威圧感を感じる。ヘンドリックはすっかりビビっていた。けれどそんなこと、フォルクマーには知られたくもない。

 だからこそ勇気を出して、何ともないフリをして、ヘンドリックはそれを、口の中に迎え入れたのだ。初めて咥えた同性のそれは、大きくて固くて、ひどく雄々しく感じられた。緊張からか、頭の芯が痺れるような感覚を覚えた。
 ハッと息を呑む声が、微かに聞こえたような気がした。

 先程フォルクマーがそうしたように、見様見真似で奥まで咥えてみる。苦しくて涙が出そうになったけれど、フォルクマーにできて自分にできないはずがない。
 ヘンドリックはすっかりバカになった頭で、必死にフォルクマーの雄を、真似をしながらしごき続けたのだった。

 だが、そんな状況は長く続かなかった。何せ突然、フォルクマーが再び動き出したからだ。

「んん!? うあっ……!」

 フォルクマーは、先程と同じようにヘンドリックのものを口に咥えたかと思うと。尻を揉みながら、その尻の奥にまで手を伸ばしたのだ。口でその起立を啜りながらぐにぐにと入口を揉み込む。
 不思議と滑りを伴っているその手は、段々と入口の奥の奥の方にまで到達する。そうして、前の刺激にいっぱいいっぱいになってしまっているヘンドリックのそこへ。フォルクマーの指がぬるりと侵入する。

「ん! んぐ、テメ、なにして……!」

 流石に違和感を感じたヘンドリックは、喘ぎながらもそれから逃げ出そうとする。けれども、そこは凄腕冒険者のフォルクマーだ。

「おいっ、そこは反則だっ――あああっ!?」

 ヘンドリックのものを一際強く啜り上げたかと思うと、驚くべき事に、ヘンドリックのイイ所をたちまち探り当ててしまったのだ。

「は……? なん、今テメェ何し――んんんっ! あ、やめ、そこはっ……!」

 フォルクマーは、ヘンドリックがそうやって抗議の声を上げようとするたび、そこを捏ねくり回してその抵抗を封じた。何度も何度も同じ事を繰り返していると、いよいよヘンドリックの体から力が抜けていってしまう。
 その顔は快楽でとろんと蕩け、淫らに誘っているかのようにも見えた。フォルクマーのものを咥えている事もできず、その股間に顔を寄せ涎を垂らして喘いでいる。普段の彼からは想像もつかない程に淫らなその姿に、フォルクマーはほくそ笑んでいた。

 最初から、フォルクマーはずっとこの機会を窺っていたのだ。
 八方美人な自分とは違い、一匹狼のように強く美しく佇むこの男を手に入れたくて仕方がなかった。手に入れる為ならば何でも良かった。パーティを組むのだって、友人として傍に居るのだって何でも良かった。
 けれども。想像以上に意固地で頑固なこの男は、フォルクマーの仲良くなろうという目論みを悉く粉砕していったのだ。
 困り果てたフォルクマーは、辛うじて繋がった好敵手という立場を甘んじて受け止めていた。
 そんな中で、ギルドマスターのお陰で訪れたこの好機。フォルクマーは逃すつもりはなかった。親友にも仲間にもなれなかったのなら、もっと深い、恋人にでもなってやろう。
 どこかズレた思考で、フォルクマーはそんな事を思ったのである。

「あ、ああっ、うああっ!」
「ヘンドリック……ああ、ようやく……おい、口開けろ、舌、出して。もっと気持ちイイ事教えてやる」
「ふっ、う、んんっ」

 リードされることに全く慣れていない彼にほくそ笑みながら、フォルクマーはヘンドリックの後孔に3本目の指を突き入れた。


◇ ◇ ◇


「おばちゃん! 昨日は頼んでたもの持って来てくれて助かったよ、ありがとな」
「あらフォルクマー、どういたしまして! でもアンタ、急に“香油”が欲しいだなんてどうしたんだい? 食事も部屋でって言うし……具合でも悪いのかと心配したよ?」
「あっははは、大丈夫だよおばちゃん。具合なんて悪くないし。むしろ具合良くないのはあっちだしね」
「うん?」
「いやいや、こっちの話。今日は一日、ヘンドリックと語り尽くそうと思うんだ。部屋でゆっくりするから、誰も通さないでね?」
「そうかい? アンタら二人が、珍しいねぇ。喧嘩しないで仲良くやるんだよ!」
「うん、大丈夫! これからはちゃんとするから」

 それからというもの、時折道端で肩を組む二人の姿や、酒場で共にジョッキをあおる二人の姿が見られたという。
 人々は、ようやく落ち着いた二人の姿を見ては顔を綻ばせ、平和なギルドの誕生を喜んだ。
 そして、二人の部屋では――。


「ほんとおかしいよな。俺とお前がこんな事してるなんて、誰も想像しない」
「んぐ、……ふぅ、ん、んんっ」
「ああ……イイぜ、ヘンドリック。今日はどっちが乗る――?」
「どっちでも。強いて言うなら挿れて欲しい」
「…………」
「嘘だバカ。テメェで考えろや」

 今日もまた、意地の張り合いが続くのである。








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