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「あ、そうだ。僕は本日をもって今の会長様の親衛隊を抜けまーす」

思う存分あの人に抱きついた後で。僕は皆の注目する前で、そう宣言した。みっともなくあんぐりと口を開きながら驚愕する皆が滑稽で、僕はニヤリと笑ってしまう。僕の有能さを分ってない連中は、精々困れば良い……。

「それから、近々この近藤晴樹(コンドウ ハルキ)様が会長になられまーす」
「は!?」
「そして今の会長様以外、生徒会は全員リコールされまーす」
「はぁぁあぁあー!?」

この場にいる皆が絶叫し、食堂中に響き渡る。うるさいが残念、これが事実なのだ。生徒達の間抜けなツラが笑えて少しだけスッキリとした気分になる。まだまだドッキリが続く事を押し隠しながら、僕は次の展開を心待ちにする。抱き着く晴樹様が、くつりと嫌な笑みを浮かべる。悪戯小僧のようなその笑みすら格好良くて、僕はふわふわとした気分になりながら、いきり立つその人を視界の隅に捉えた。

「ふざけないで!そんな事できるワケ……」
「実は出来ちゃうんだなぁこれが」

そうやって、あの副会長が大声を上げて否定をする。まるで小馬鹿にしたような彼の声音は、その人の性質すら現しているような印象さえ受けるがしかし。副会長の言葉を諌めるような静かな声が、彼のすぐ側から飛んできた。その声を聞いた刹那、大きく目を見開く副会長の姿は滑稽だった。見なくてもわかる。その声の主こそが僕の協力者であり、あの人ーー晴樹様の右腕。生徒会の役員達がその事を知るはずもなく。瞬間、彼らは一様に目を見開いた。

「な、んで、ヒナタ、」

彼ーー転入生である市原ヒナタ、その人だ。今、彼は立ち上がり、被っていたねこを剥ぎ取り純粋とは程遠い邪悪な嘲笑を浮かべている。すぐ側でそれを聞いた副会長は、その事実が受け止められないのか、ただ呆然と彼を見るだけだった。他の役員達も、会長含めて似たような反応だった。

「理事長命令で、数日以内にそうなるよ。俺さ、近藤様の部下で、そこのお姫様の目付役でね」
「……お姫様じゃねぇし姫野だし、このトリアタマっ!」
「そんな……だましてた、の?」
「……騙すも何も、俺もここまで使えない連中だったなんて思ってなかった。適当に下僕見繕って引き入れるつもりだったんだよ。最初はな?けどよぉ、会長以外俺につきっきりで?仕事ほっぽって?授業もサボり?死ぬ気で仕事終わらせて俺んとこ来りゃ良かったのによ、そこの会長みたいに、さ……?」

思わず口を挟んでしまったが……、彼は鼻で笑いながら連中をバカにすると、ユックリと会長に近寄って行く。誰もが口を開く事が出来ず、ただ彼を見つめている。こういう空気を作るのが、この男は本当に上手い。

「会長、アンタあの人の下についてみないか?」
「……何の、話を……」
「悪い話じゃないぜ?アンタの家の事を考えたら、コッチについた方が不安要素を確実に排除できる」
「!」
「アンタの母親共々、喜んで近藤に迎える。連中には手を出させない、捻り潰してやる」
「…………考えさせてくれ」

会長は、困惑した様子で彼の言葉に答えている。会長も、中々大変な人生を歩んできたようだし、決め兼ねているのだろう。

そんな時だ。僕は、急激に変化した彼の怪しげな雰囲気を察する。ああこいつ、堕とす気だ。そう認識した瞬間、僕は頭に血が昇って思わず、その場から駆け出した。会長を見つけたのは僕が先なのに、アイツは僕の手柄をモノにしようとしている。折角、晴樹様に褒めてもらおうと思っていたのに。……横取りだなんて、そんな事許せるはずがない。この手柄は僕のものだ!

彼はといえば、座っている会長にしなだれかかり、その驚く顔に手をかけている。至近距離で見つめながら妖しい雰囲気を撒き散らしてモノにしようとしている。隠密行動は何のその、色仕掛けだってこなす彼の右に出る者はいない。悔しいが、僕にそこまでの技量はない。だからこそ、これは絶好のチャンスなのだ、今回くらいこれを僕の手柄として彼に喜んでもらいたい。

「……ま、拒否されても引き入れるけどな?それにさ……アンタにならさ、俺ナニされてもーー」
「ちょっと!この男、僕が先に見つけたんだけどっ、この僕から手柄を横取りするなんて良い度胸してんじゃん!?」

だから僕は、飛び掛かるように彼の首を締めた。キツくキツく、僕の渾身の力を込めて。僕のそんななまっちょろい攻撃なんか効くはずもないけれど、ちょっとだけ不服そうにしながら、彼の腕は案外アッサリ会長から離れた。ヘッドロックは外さない。ギリギリと締め上げる。

「邪魔しないでよー」
「僕が先に見つけたんだからこの男は僕のだよ。手ぇ出すんじゃないよトリ野郎」
「えっ……」

と、そこで彼は急に動きを止めた。珍しく、その表情には驚きが見える。いつもいつも食えない笑みで僕を見下ろしてくるいけすかない彼が。口を半開きにして僕を見てくる。僕ははて、と不審者でもみるかのような不快さで、いつもとは違う彼を見た。

「な、ナニ、姫さんこの男そんなに気に入っちゃったの?晴樹サマ以外なんにも要らなーいとか言ってたのに……」
「そんな事言ってないしィっ!どっちにしろ晴樹様は1番だからイイの!」
「…………ふーん?」

彼の諦めが早いのにはホッとしたが、会長からの視線が痛い。思わずため息がでそうになった。

「……所で姫さん、ソロソロ放してくれない?早くしないとオシオキサレチャウヨ」
「は?」
「ほらほら、独占欲の強ーい王様がお姫様を攫いにくるよ」
「…………」

言葉の意味を理解して、僕はサッと素早く彼から離れた。彼の言うとおり、僕の王様は、嫉妬深くて、一度機嫌を損ねると……かなりねちっこいのだ。

すぐ後ろに彼の気配を感じて、勢い良く振り返る。そして僕はちょっぴり後悔をした。皆が見てる前で、ヤバい程の何かをしそうだったから。

「奈月(ナツキ)……」
「は、晴樹様、今のはちがくって……!」

ガラにもなく、彼の顔を見上げながらオロオロしてしまう。別に、彼のいうオシオキは怖くない。むしろどんとこい!なのだが。ーー勘違いをされるのだけはゴメンだった。彼は本当に、僕の全てなのだ……捨てられたら、僕は死んでしまう。

「おこった?」
「……いや?」

否定されると、それも寂しく感じてしまうが、僕はどうにも彼の顔を見る事が出来なくて俯いてしまった。反応が怖い。そして、彼の足が、ゆっくりと僕に近づいてくる。

そうやって俯いていた僕は知らなかった。晴樹様が、会長も市原も引いてしまう程の欲を孕んだ目で僕を捉えて、ひどく獰猛な顔で僕の事を捉えていたなんて。そしてその後、僕がしばらく学校行きを拒む程のオシオキが待っているなんてーーこの時の僕はまだ、知らなかった。





結局の所。
学校は晴樹様が望んだ通りになった。晴樹様は会長に、元会長が副会長になり、僕も市原も生徒会に入って学校を運営した。最早理事会も手中にある。

そして、僕と晴樹様の予想外のオシオキを見た元会長サマーー今は副会長だがーーは最近、僕といるとどこかぎこちない。まぁ、僕は親衛隊だったとは言え、他の隊員のように肉体関係を持つ事は無かったからきっと、僕の魅力にやられちゃったんだろうと思う。ーー謙遜?この僕の美しさに、そんな言葉は必要ないのだ。ほぼ間違いなくあれのせいだろう、もう本当の意味で元会長サマは僕の下僕となりつつある。この先、本気で従順な僕の下僕になったら、少しご褒美をあげようかな。僕は将来を考えて一人で楽しくなった。

ただ、あのオシオキがちょっぴりクセになりそう、だなんて思ったのは内緒だ。

「姫さん何か嬉しそう」
「ふふん、当たり前じゃん、晴樹様とずっと一緒にいられるんだもん」
「へー……この前の公開プレイも激しかったしね」

この男、いつか泣かしたる、そう決意しながら僕は減らない口の彼を思い切りぶん殴った。


END




どうもお目汚し失礼いたしました。随分昔のものですので、今以上に拙い見辛いわけわからん。学園中心に書いていた時代も私にはありました…そのうち、また副会長受けなんか書く事もあるやも


猫被り親衛隊長ってイイよね、
会長に意識されちゃう女王様ってイイよね
っていう話

この後会長と姫と王様の関係はきっと面白い事になる
下僕にご褒美上げて、王様にオシオキされて、その流れにハマっちゃえばいい
両手に花の王様と3Pとかもえるよ

主人公
姫野奈月
通称お姫様。晴樹様ラブなねこ。ちょっとMかもしれない。元会長はお気に入りのオモチャ

王様
近藤晴樹
主人公ラブなどっかの大企業跡取り。学園に来たのは、学園を乗っ取って使える下僕を集めるため。ご褒美は惜しまない


市原ヒナタ
腹黒い近藤の右腕。姫野をからかうのが楽しくてしょうがない

(元)会長
どっかの企業の跡取り候補だが、母親が愛人云々で苦労人
食堂の一件以来、姫野に案外好かれてると知って、しかも公開プレイ目の前で見せられてちょっとドキドキしてる。順調に下僕の道を歩んでいる

その他生徒会=空気


ここまでお読みいただきありがとうございました!




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