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3


「……え……、それが、処罰ですか?」
「そうだ。わかったらとっととコレを担任に渡してこい」

会長の言葉に唖然とした僕は、向けられた書類を反射的に掴んだ。内容は、『特別欠席届け』だ。生徒会の印が押してある。会長に急かされ生徒会室を出て、職員室に向かう途中でようやく、僕は何が起こったかを理解するのだった。

事の仔細はこうだ。 昨日、会長に言われた通り、処分の通知を受け取る為に僕は生徒会室に朝っぱらから向かった訳なのだが。
『お前、二週間俺の補佐な。一応その間は停学っていうガセネタ流してるし平気だろ』
一人きりの生徒会室で、朝から仕事に勤しんでいた会長が下した処分がそれだった。ポカンとする僕に、会長は大量にある書類の二分の一を指差し、『あれ全部』とのたまった。てっきり、親衛隊長解任、或いは親衛隊除隊かと身構えていた僕は、当然呆気にとられる。

そうやって、訳も分からず言葉すら出ない僕に、会長様々は問答無用、無理矢理欠席証明を渡し部屋を追い出した会長に、ある種才能を感じる。やられたと思うが、従う以外に選択肢はない。責任云々で隊長を降ろされるのは、今は得策でなかった。

そうして僕は、仕方なく言われた通りに書類を担任に渡し、生徒会室に戻り、促されるまま書類達に手をつけ始めたのだ。そうやって、何も言わずデスクに座った僕に、
『頭のイイ奴は好きだぜ』
だなんてキザったらしく声をかけてくる会長には一瞬殺意を覚えた。

しかし一方で、転校生に絡むでもなく、こうやって一人で書類を処理していた姿に少しだけ心打たれるものがある。他の役員達の姿が見えない事から察するに、会長サマは一人で仕事をこなしていたのだ。感心する反面、彼の処理スキルに殺意を覚える。食堂でしか転入生に絡まないせいで、目撃情報も少なく最近の会長の動向が掴めないと思っていたら、こう云うことだったのだ。

何となく、一杯食わされたような気になる。 結局の所、僕は会長様々に利用されているのだ。学校の運営を一人で行うという、能力の提示に。もしかしたら、この成果は全て会長のものとなっているかもしれない。だがそれでも、転入生の件以来今まで一人で生徒会を回していたのだとしたら…… ちらりと会長を盗み見、気分の高揚を覚える。やはり、この男しかいない。自らの欲望にも負けず、大人すら怯むような運営をこなし。あの人の下僕ーー否、寧ろ右腕にすら成れるかもしれない。

とんでもない拾いもの。今の状況も忘れ、一人静かに笑った。 それからというもの、日々この男の観察をしつつ書類と格闘する。格闘、と言ってもこの僕には軽いものばかりなのだが、あくまでも“親衛隊”として、そういう処理に不慣れだという体を装わなければならなかった。バレるにはまだ少し早い。だから、時々サボり会長様直々にお叱りを受けながら、謹慎期間を過ごした。

時々、ストレスに暴れ出しそうになりながら過ごし、こんな状況に終わりを告げたのは、僕の知らぬ間に動いていたらしい、あの人だった。

「どうもこんちは、おサルさん達!」

突如として食堂に乱入してきた懐かしいあの人は相変わらず格好良く、声高々に挨拶をしていた。雄々しく立派な彼は、この学校の制服まで着ていて隣には見覚えのある彼が控えていて。やっぱりあの人は何を着ても似合う……、じゃなくって。今まで、あの人のために頑張って頑張って頑張り抜いて来たのに、僕には知らせず突如として現れた。驚きと嬉しさを覚えた反面、いじらしくも思う。どうして僕には何も言ってくれなかったのと……。

協力者である例のあいつの指示で、今日は絶対に食堂に来いと言われていた。メールで絶対命令と脅されて、その一方で詳細など一切教えてはくれなかった。それが不思議でたまらなかったのだが……今分かった。あの人がそうするように言ったんだ。本当に、いじらしい。

僕はもう、最近の疲れやら遣る瀬無さやらで限界にきていて。彼がようやくやって来たのだと理解した瞬間、立ち上がって駆け出していた。椅子を引っくり返し、沢山の生徒がそれを見ていたが気にする程の事ではない。僕は今、一人ぼっちだ。

足早に駆け寄りあの人に抱きつく瞬間、彼は満面の笑みを浮かべる。その笑顔が、僕は死ぬ程好きだ。格好良くて逞しくて、凛々しくて。

「ばか、僕に言ってから来てよ」
「それじゃつまんないだろ、俺が。これからはずっと一緒に居られるんだ、演出はしなきゃな」
「あーあ、もっと早く来てくれれば良かったのに」
「……俺もそう思ってる。最近、俺以外に随分と懐いてるらしいじゃないか」
「そう、だっけ……?ああ、もしかしなくても妬いてくれたの?」
「……凄く、な」

ポカーンとしてる周囲なんて目じゃない。時折キスを交わしながら、僕らは久々の逢瀬を堪能した。彼は時折恐ろしい笑みを浮かべて、ほんの少し恐怖を感じたりもしたが、会えた嬉しさ以上のものはなかった。






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