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事が起きたのは、あれから一週間も経たない内だった。食堂の皆がいる前で、僕は生徒会連中の目の前まで引っ張り出され、公開処刑とも言える叱責を受けていた。内心ゲロゲロだ。

ここ数日の隊員の過激な行動を抑えるのに奔走しながら、普段の隊員管理を行って風紀に言われた書類を作る。僕は正直寝不足で、あの人への電話の時間も削られてしまって、とてもとても不機嫌だった。

「ーーどうしてくれる?アンタら親衛隊のせいで、こいつは襲われかけた」
「しかも、それが隊長の指示だっていうじゃん?」
「オイオイ……俺はそんな気にしてないし、実際は被害なんて……」
「でもさ、こいつら親衛隊は、僕らの忠告を受けたって今まで改めようとしなかったんだ」
「そ、うかもしれないけど……」

下らない言葉は右から左へと抜けて行く。かの“転入生”も何やらグチャグチャ言っているけれども知るか。猿ごときが僕にそんな口を聞いていいと思ってんのか?あ?早く終わんねえかな、親衛隊の連中、皆死なないかな。この僕に罪をなすりつけるとか、学校中全裸引き摺りの刑に値する。

半ば上の空で彼らの叱責に堪えていると、俯いていた僕は突然胸倉を掴まれた。首が締まってようやく、ハッキリと目の前の状況を認識する。と、ここで気づいたのが、会長様と僕との超接近状態。互いの息が当たる程近いのだが、会長様は凄むように僕を睨み付けている。

そうして何をするかと思えば、僕の事を非難するかのような罵倒を浴びせてきたのだ。唸るような声でまるで脅すかのよう。近すぎる轟音に内容がさっぱり理解できないのだが、側ではチワワが恐ろしさでぷるぷる震えてるのが見えた。僕も彼らの真似をして震えてみせた。……チワワに見えるだろうか。

そんな風にふざけながら、凄み方はまあまあだ、という客観的評価を会長様々に下してみる。だが一点、僕はどうしても気になってしまう事があった。会長様から憤怒の情がイマイチ伝わってこないのだ。本気で頭にきていれば、我を忘れそうな怒りと理性の対立に、表情は酷く野性的に見えるはずなのに。とても物足りない。他の美形達と比べでも、醜さが足りない。そう、まるで、この男は僕のようなのだ。

ああやはり、この男はあの方の隷となるべき人材なのかもしれない……僕は内心歓喜に打ち震え、ようやく見つけたと上がりそうになる口角を必死で押し留めた。バレては元も子も無い。そうだ、これこそ、あの人にピッタリの下僕を見繕う事こそが、僕があの方よりも先にこの学園へやってきた理由。一瞬の間に自分の世界へ逝ってしまった僕を、現実へ呼び戻したのは、その会長の訝しげな怒鳴り声だった。

「おい、聞いてんのか?ああ?」
「あ、はいっ申し訳ありません……」
「お前、俺の親衛隊隊長なんだろ?これがお前の指示だろうがあるまいが、お前の責任である事には変わりない」
「…………」

会長様々の酷く理性的な物言いに、僕は何を言われても悦の入った感情しか感じなくなってしまった。僕の求めていた下僕、あの人の元で働くに相応しい下僕。僕の下で調教され、どんな言う事も聞くようになった下僕。僕はもう、興奮を抑えるのに必死になっていた。時折、訝しげに僕を探る会長様の視線に焦りはしたが、ちょっと震えりゃ怖がってるのか、とすぐ騙される。僕は、今後のプランを練り上げながら、怯えているように見せる演技を続けてみせた。

「実行犯に処分を下すのは風紀だが……お前の責任問題に関しては俺らが処分を下す。明日の朝、生徒会室に来い」
「……はい、かしこまりました」

言いたい事を言い終えると同時に、会長様はバッと服を放す。少しだけよろけてしまうが、今の僕を助ける者はいないし、気分が高揚している今の僕は、あまり他人に近寄ってほしくはない気分だった。会長達は、転校生やその他を引き連れ自分たちのテリトリーへと、戻っていった。

興奮さめやまぬ気分を落ち着かせるように、ふうっと息を吐くと、僕は彼等に背を向けた。食堂に来たのに何も食べる事ができなかったが、今はもうそういう気分ではなかった。ヒソヒソと噂を交わす生徒達は、相変わらずここの生徒に違いなかった。今や僕の運命は決したとばかりに、普段のように僕に寄ってくる連中はいなかった。賢い選択である。だがハズレだ。僕は一度見限った人間は、二度と見ない事にしている。だから、ハズレ。全てがわかった時、後悔するのは彼等自身なのだ。






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