Main | ナノ

1


とある学園のとある一室。ミニマム生徒ばかりが集まり、会議が行われていた。その名も、『会長親衛隊害虫駆除作戦会議』。学園に突如湧いて出たゴ○ブリ(Gとしよう)野郎が、我らがスター(笑)の生徒会役員たちを誑かし好き勝手やっていて。恋は盲目をまさに体現させている生徒会連中のせいで校内が荒れている。そんな現状を悲観して今回、諸悪の根源であるGを駆除しよう、というのがこの会議の主旨である。そして僕は、それの一員として参加している。ただし、僕の場合、他の隊員とは違って参加の目的は別にあったりするのだが。

「ッ隊長、もう我慢出来ません!奴に制裁の許可を!」
「ちょっと待って!皆、会長様の楽しそうな顔見たでしょう?僕は、……会長様のためならここは我慢すべきだと思う……っこの、僕が、あんなチンチクリンに会長様の隣をとられて、悔しくないとでも思ってるの!?」
「隊長……」
「そんなに会長様を……」
「おねがい皆、制裁だけはやめて、皆が罰を受けるのは見たくない……会長様の望むような道を進もう」
「……分かりました、隊長がそこまで言うのなら、もう少し我慢してみます」

ほろほろ、互いに慰め合い、悔しそうに激情に堪える姿には感無量。だが、感情的に振る舞う彼らの前、僕は完全に冷め切っている。だってーーよっしゃ丸め込むの軽ぃ、クズ共のせいで処罰食らうなんで馬鹿か阿呆のどちらかでしょ、どんだけ考え無しなんだよ、っていうか正直あの顔だけ節操無し男前のどこが良いんだか、まずそこから理解不能、自分の台詞がキモすぎて吐きそうでまるで貰いゲローーだなんて思っているのが僕なんだから。

と、このように、会長に向ける愛のかけらすらないこの僕は、この学園の会長親衛隊の隊員、しかも隊長なるものをやっている。もちろん、僕がこの地位にいるのは会長様のお側にいたいから!なんていう虫唾が走るような理由ではなくて。全ては僕の愛しいあの人のため。嗚呼僕ってなんて健気なんだろう!ーーと、そう現実逃避をしてしまいたい程、僕は連中のやろうとしている事に興味がない。

唯一興味があるとすれば、そんな隊員連中から妬みをかう、転校生のヤリっぷり。よくもまあ、あんなにも顔のいい連中ばかりを釣れるよなぁ、なんて感心さえしてしまう程の美形ホイホイ恋愛Gホイホイ。そのせいで僕がこんな不快な思いをしてまで隊員達を宥めなければならない事態に陥ってはいるのだけれど……まぁそこは、僕の目的の進行に一役買ってるからいいとする。

こうして、皆の言い分を適当にかわし、もっともらしいことを取り敢えず言っていれば、いつの間にか終了の時間がやってくる。互いに挨拶を交わし、教室から出て行く姿を笑顔で見送る。ああやっと開放される!だなんて待ちきれずに気分は高揚する。しかし、只では終わらせてくれないのがここの学園の人間。人が少なくなれば、わざとらしく教室に居残る奴らが、チラチラと僕に物騒な視線を向けてくるのが嫌でも目に入る。いつも僕を目の敵にして、事あるごとに突っかかってくる連中。僕が彼等より美人で、会長から絶大な信頼を置かれている親衛隊隊長であるから。こんな完璧な僕をきっと、妬んでるのだ。そしてあわよくば、僕の地位をと狙っている。

地位も信用も、会長に一番近い僕。あいつらはこんな僕の位置が羨ましくて妬ましくて仕方ないのだ。会長に、彼らのようなそういう意味での興味は全くないのだが……連中の気持ちが分からなくもない。どんなに思えど、その手に彼を掴む事はない、絶対に。哀れで可哀想な人達。僕が憐憫を込め、彼らに視線を返すと、一瞬悔しそうな表情を浮かべて教室から出ていった。妬み憎しみがもたらすのは、虚しさと破滅だけ、彼らはそれを分かっているのか……本当に、可哀想。

「隊長、彼らは……」
「僕が何とかするから、心配しないで。彼らに僕の気持ちをわかってもらうよ」

哀れには思うけれど、僕に危害を加えてくるようでは、僕も動かないわけにはいかない。彼らが何かを企てているのは明白で、何かが起こりそうな嫌な予感が僕を駆り立てる。僕を気遣う隊員を安心させるように言葉はかける。隊員は、暫くすると他の生徒のようにこの場から去っていった。

別段、何かをしようとは思ってはいないが、降りかかる火の粉を前に、何もしないという選択肢はない。僕は仕方がない、と観念したような気分でとある人物を携帯で呼び出した。嫌で嫌でしょうがないが、他にすべき手立ても見つからない。コールを取った相手は相変わらずムカつく口調。それでも僕は耐えて耐えて、話し合いをするために僕の部屋でおちあう手筈となったのだった。



「というわけだからよろしく。僕も一応警戒するけど、起こった問題は一切感知しない」
「なんだそんなこと、言われなくても大丈夫だよ、もう手も打ってあるし……ってか俺の事心配してくれたのー?やっさしーぃ姫様!」
「分かってんなら電話で言えば済んだじゃん!!なんでわざわざ無駄な時間割いてまでアンタと会わなきゃならないんだよ!」
「あははは、姫様元気ー!」
「うるさい!姫様言うな気色悪い」
「えー?だってほら、俺だってボスに報告しなきゃアレだろ?ご主人様がいなくて寂しいーって元気そうにキャンキャン鳴いてましたーってさ?」
「クッソ殴りたい」
「あれー、可愛いお顔でそんな言葉遣いボスに知られたらどうなっちゃうんだっけー?」
「……………」

そう言ってケラケラ笑う彼は、僕をからかっているのだ。いつもの事。彼は何を考えているのか分からないし、絶対にヘマはしない。だからなのか、僕はこの男が苦手だ。口でも頭の回転でもこの男には叶わないし、何をしていても、この男のお陰で僕が自由に動ける事が、とてつもなく悔しい。恐らく、一生かかっても敵わない。僕がどれだけあの人の一番であっても、この男への確固たる信頼ーーこの男に任せれば絶対に成功するーーには、絶対に敵わない。これは、僕の確信。

だから、僕はこの男が苦手だ(嫌いだ)。




こういった調子で数十分の話し合いを終えたのち、僕達はすぐさま別れた。僕の部屋は特別に一人部屋だが、万が一に、という事もありえる。誰かに見られたら面倒で、僕にかかる僅かな疑惑すら混乱と破滅をもたらす。そういう事態だけは避けたかった。

「あーあ、早く来てくれないかなぁ……」

バタリと玄関が閉まった途端、僕は思わず呟いた。早く時が過ぎれば良い。珍しくアンニュイな気分だ。最近は特に、親衛隊内のゴタゴタであの人に会えていない上、不祥事の対応に追われ、思ってもいない謝罪を告げ、風紀や生徒会役員たちから忠告と罵倒を受けて。我慢強い僕にもさすがに限界が来ていた。

あの人にギュッと抱きしめられたい、抱きしめたい、そしてその後は……。そんな妄想ににやけながらその日はシャワーを浴びて、即座に布団に入った。けれど、どんなに疲れていてもあの人への電話は絶対に忘れない。僕は、電話越しにあの人の声を聞き、幸せに浸りながら眠る。
ちょうど午前2時を回ったところだった。






list
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -