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第二話

 それからというもの、ディートリヒは魔法使いの男――イェルンと言うらしい――によって甲斐甲斐しく世話を焼かれる事になった。
 時に、わざと裸に剥かれ包帯を替えられたり、手で持てると言うのにスプーン片手にあーんを要求したり、身体のあちこちを濡れた手拭いで拭かれたりと、ディートリヒは羞恥で燃えカスになってしまうと錯覚する程には、お世話をされていた。

「性格が悪いと言われないか」

 何度目か分からないあーんの強要に、思い切り顔を顰めたディートリヒは、そうイェルンに問いかけた。

「まぁね!」

 嫌味のつもりで言ったはずだったのだが、イェルンは何倍もやり手だった。明るい輝かしい程の笑顔でそう言い放たれて、ディートリヒは更に眉間の皺を濃くした。出会ったあの日に見せた、貼り付けたような冷たい笑顔は一体何だったのかと。あの時は親近感すら覚えたし、監視だ何だのと脅されたような気もする。

 だのに、今のこの楽しそうな嫌な笑みは一体何なのか。ディートリヒは混乱していた。
 このようなイェルンの姿は、ディートリヒの最も苦手とする人種のものである。だからこそ余計に、ディートリヒはこの森から一刻も早く出て行きたくなる。

「俺は一体いつになったら解放して貰えるんだ」
「監視だから。そんな日はしばらくこないに決まってるでしょ。それに骨折はね、一番時間かかるんだ。くっつけるだけだったらすぐだよ? でも、ちゃんと根っこまで治すのはそう簡単では無いんだ。だから、最低ひと月は安静にね」

 純粋に疑問として問えば、案外真面目に返されてしまって言葉につまる。こうやって世話を焼かれること自体慣れていないのに、一から十まで丁寧に(一部意地悪も含まれるが)、面倒を見られてしまうと、ますます居心地が悪かった。
 まるで自分が子供の頃に戻ってしまったようで情けなかった。子供の頃の思い出なんて、良い事はひとつもなかったけれど。

 この状況に、まるで地に足が付いていないようなふわふわとした感覚を覚えてしまって、ディートリヒは全く落ち着かなかった。朝も夜も、世話をしにやってくるイェルンに、ディートリヒは戸惑いっ放しである。
 イェルンがまた何かやらかさないだろうか。早く怪我を治し、一刻も早くここから出て行かなければ。逸る心とは裏腹に、ディートリヒはすっかり困り果てていた。

 そして、そんなディートリヒの迷子の子供のような様子に、イェルンが実は内心でほくそ笑んでいるだなんて、彼は露にも思わないのである。


 そうして約ひと月程。ようやく自由に動けるようになったディートリヒはと言えば。早速イェルンに騙されていた。

「これならまぁ、日常生活くらいなら大丈夫かな。逃げたら部屋に監禁するからね」
「おい」
「動いても大丈夫だけど、激しい運動はダメだよ」
「まて、おい。今、妙な言葉が聞こえた気がしたんだが……」
「うん、監禁するって言った」
「…………」
「逃げなきゃ良いだけの話しね」
「何故そう、引き留める。こんな厄介者はとっとと放り出せば良いのに」
「他人にこの場所を知られるのが面倒だからだよ」
「自意識過剰」
「やっぱ最初っから部屋に監禁する――」
「悪かった。言う通りにするからとっとと納得して放り出してくれ」

 包帯やら当て布やらを外していく間、ここ最近で日常になりつつあった軽口を叩く。ディートリヒの予想通り、このイェルンという男は大分食わせ者であった。
 ディートリヒの方がそこそこ年上だというのに、その毒舌に容赦が無い。イェルン本人もその自覚はあるようだが。

 おまけにイェルンは正真正銘の魔法使いだという。それも、相当の使い手だ。魔法使いというのは確かに珍しかったが、ほとんどの者は僅かな力しか持たず、生活の知恵のような形で魔法を行使する者が多いという。
 しかし、その一方でイェルンはといえば。この小屋を、そしてこの付近の土地をまるごと覆い隠し、外部の者からは見られないように細工をしていると言うのだ。世の魔法使い達が聞いたら卒倒するだろうそれを、イェルンは片手間にたったひとりでこなしてしまう。彼がどれだけ常人離れしているか、解るというものだろう。
 それに気付いてしまったディートリヒは、さっさと諦めてしまった。こういう、圧倒的な力の前には、自分がいかに無力か、身をもって知っている。だからなにもしない。下手な事は考えない。上の者には反抗しない。
 ディートリヒはそう、刷り込まれている。

 目の前に出された衣服を身に付けながら、ディートリヒはイェルンに問うた。自分は何の為に再び囲われ利用される事になるのか。それくらいは知っておきたかった。
 いつもと同じで変わらない。より強い頭に首がすげ替わるだけ。頭を抑えつけられたディートリヒはただ、それにひれ伏すのみ。

「それで、お前は俺に何をして欲しいんだ?」
「うん? ――ああ、うん、イロイロとね。先ずは湯浴みしてきなよ。その後、このベッドのもの全部洗濯して、それからごはん」

 一般的には家事と呼ばれるだろう類いの命令(?)に、ディートリヒは何とも煮え切らない気分を覚える。
 けれどディートリヒは何の反論もせず、質問もせず、ただ言われるがままだった。“命令”された通りに久しぶりの湯浴みをし、洗濯を手伝い、そして寝室でなく食卓にて初めての食事をとる。
 その間、ディートリヒは文句を一言も言わず漏らさず。完全に“仕事”と同じ行動をとる。本人にこそその自覚はなかったが、イェルンには大層奇妙に映った事だろう。
 ただ”命令”に従い行使し、実行する者。まるで魔法使いの操る傀儡のようだった。

「何も聞かないの?」

 食卓でパンをちぎりながら、イェルンはディートリヒに問うた。彼はそれに一瞬だけ反応すると。ただ一言、応えるだけだった。

「聞かれたいのか」

 ディートリヒの方から視線が合わされる事はなかった。
 彼らの話はそれで終わった。主人の不快な事をしない、反抗しない、何も聞かない。破れば痛い目を見る。
 だから、一度染み付いてこびりついてしまったら中々落ちない――。

 それからもディートリヒは、イェルンに言われるがまま、様々な家事をこなした。
 普通の、全くもって疑いようの無いただの家事である。掃除、洗濯、薪割り、屋根の修理に料理。まごう事なき家事である。ディートリヒは文句も言わず、ただのそれらをこなすだけ。
 ただ一つ。
 問題があるとすれば。ディートリヒはまさに、己の“仕事”をするように家事をこなしてしまっているという点につきる。
 イェルンが時折不審気に見てしまう程、彼は全く何事も喋らなかったのだ。失敗で常人が上げるような悲鳴すら上がる事はなく、独り言を漏らす事もなく。気配すら朧げで無心で淡々と“仕事”をこなす。世の人々が口々に気味が悪い、と口を揃える程には異様な光景だ。
 心が無いみたい。
 ディートリヒの“仕事ぶり”はいつだってそう揶揄された。ベッドで治療を受けていた時の方が、よっぽどお喋りで人間らしい。
 この差は一体、何であろうか。


 その後、言われた通りにすべての要求をこなしたディートリヒは、食事後にイェルンの言葉に従い就寝の支度をした。あの、今まで世話になっていた寝室のベッドだ。起き上がった初日に、様々な“仕事”をこなしたディートリヒ。意識には上がらずとも、疲労は蓄積している。横になった途端、すぐにその瞼は下りてしまい。彼がすっかり眠りに付くまではもう、すぐのことだった。幸せだった記憶なんてありはしないディートリヒは、今日も夢の中で誰かを地獄に送るのだ。
 望むと望まざるとに関わらず。
 彼は最初からずっとそうだった。

 その日の真夜中だった。
 ディートリヒは人の気配で目を覚ました。誰かがすぐ傍らで動いている。ベッドのすぐ横だ。一体、何事だろうか。警戒したディートリヒは、気付かれぬよう目を瞑ったまま身構えていた。
 しかし、その次の瞬間だ。

「寝た?」

 そっと耳に入ってきた覚えのある声に、ディートリヒは一気に弛緩した。きっと、彼には寝たふりもすぐにバレてしまう。そう思って素直に目を開き顔をやれば、暗闇の中でイェルンがベッドの横から彼の顔を覗き込んでいるのが見えた。
 このような真夜中に何事か。ディートリヒは頭の中だけで疑問に思った。

「起きた」

 そう、主人に対して言葉を返すと、イェルンは声を出す事なく吐息だけで笑って言った。

「ディートリヒ、相手して」
「なんの――んむっ」

 思わず、何の相手だと聞き返そうとしたディートリヒの口を、イェルンの口が塞いだ。
 これには流石のディートリヒも目を剥いた。相手ってそういう事か、と。
 ああいった組織に身を置く事になって随分と久しかったが、この歳になってまでディートリヒにそれを求める者はほとんどいなかった。だからこそ、イェルンのような若く美しい男が、ディートリヒに対してそんなシタゴコロを持つだなんて考えもしなかった。
 この男、実は随分と趣味が悪いのでは。頭の中では随分と動揺しながら、ディートリヒはしかしその要求に応えていった。

 入り込んできたイェルンのよく動く舌は、好き勝手にディートリヒの口内を掻き回した。時折舌を食まれ、それに僅かに反応してしまうと、度々同じ事をされた。いつの間にやら後頭部に回された手は、彼の逃げ道を塞いでいる。やけに手慣れている。それが、イェルンに対する率直な感想だった。

 舌同士をぬるぬると擦り合わせると気持ちがいい。上顎を刺激させると気持ちがいい。舌を食まれるのさえ、気持ちの良さに変わる。ディートリヒはほぼ無心で、いっそ自分から追い求めていった。
 誰だったか、既に顔すら覚えていない人らに教え込まれた知識は、今尚ディートリヒの中でジクジクと疼き続けている。どうせ逃げられないのなら自分もキモチヨクなれた方がマシでしょ? そんなムカつく笑顔を思い出してしまって、ディートリヒは少しだけ気分を悪くした。

「はぁ……」

 どちらからともなく口が離れる。ずっと舌を合わせていたせいで違いに息が荒かった。微かに上気した顔すらも美しい目の前の男に、ディートリヒはしばし見惚れる。
 彼が相手をした中で、これ程完璧な容姿をしている者は居なかった。偶に遭遇した美男子や美女ですら、ここまでではなかった。お綺麗所の王侯貴族ですら、ここまで美しい造形の者は見た覚えがなかった。そんな男の造形に、ディートリヒはいっそ感動すら覚えた。
 何もないディートリヒの中にも、美しいものに対する感動のこころくらいは残されていたらしい。自分の事ながら感心する。見るのも感動するのも、誰にも邪魔されない、誰にも知られることの無いディートリヒだけのもの。それが分かっただけで、彼は満足していた。
 そんな時だった。呆けていたディートリヒに向かって、目の前から声が降ってくる。

「アンタ、何考えてるの――?」

 ぼうっとするディートリヒを咎めるかのようなそれ。だがいつだってどこでだって、ディートリヒが応えるのは同じ台詞だ。イェルンにも、何度も言った。

「何も」

 ディートリヒが今までと同じようにそう応えると、イェルンは微かに眉根を寄せた。一体自分の何が気に食わないのか。ディートリヒは少しだけ疑問に思ってから、すぐにその疑問は捨てた。彼には関係のないものだ。どうせすぐに必要なくなる。
 ディートリヒはとことん、思考を放棄していた。

 そのような事しか応えないのを諦めたのか、イェルンは少しだけ口を尖らせると、またすぐに口付けに没頭するのだった。
 再び口を合わせながら、ここでイェルンはディートリヒの上へと乗り上げてきた。ここ数日の間で分かっていた事ではあったが、イェルンはディートリヒよりも上背があった。
 体格で言えば鍛えている分、ディートリヒの方がガッチリとしていて大きく見えがちだが、単純な身長だけでいえばイェルンの方が大きいのだ。上に乗り上げられ、動きを封じられてしまえば大抵の人間は抵抗出来ない。ディートリヒのような人間が、その程度で抵抗出来なくなるかどうかは別として。ディートリヒはこの時、そう簡単に逃げられないような体勢で、イェルンに組み敷かれているのだった。

 口付けに気を取られ、ディートリヒはイェルンの手が裾から入り込み直接肌に触れていた事にしばらく気が付けなかった。何か違和感が、と思ったその時にはもう、腹から胸にかけてシャツを捲り上げられてしまっていた。真っ暗な中、月明かりでぼんやりとした輪郭が浮かび上がる。
 鍛え抜かれたディートリヒのやや白い肉体が惜しげもなく晒されている。それがあちこち傷だらけなのは、ここ最近の襲撃によるものだ。崖から落ちたからといってつくような自然な傷では無い。普段は隠されているそれが今、イェルンだけに晒されている。
 それを見て、彼が今何を思っているのか。ディートリヒには到底想像できないことだった。抵抗することもなく、ただその意図に沿うように、ディートリヒは行動する。

 イェルンの手が、その傷跡に沿って優しく滑る。その感触に震え、ディートリヒはビクリと反応した。治ったばかりの真新しい傷なんかは特に皮膚が薄く、他の場所に比べて感じ易いと言われている。性感帯になってしまう事もあると。
 それくらい、ディートリヒも知識としては知っていたが、実際に体験するようなことは無かった。前と後ろだけで、大抵のセックスはどうにかなっていたから。

 慣れない事に、ディートリヒは弱い。イェルンがそれに気付くのは、それから間も無くの事だった。

「っそれ、触るのは……」

 触られる度にビクビクとしながら、ディートリヒはとうとう我慢出来ず、イェルンにそう訴える事になった。止めてと言わんばかりに手首を掴んで静止させながら。
 いくら聞いても、“何もない”としか応えなかったディートリヒの綻び。イェルンがそればかりを責め立てるようになるのは、それからすぐの事だった。

「だめー」

 イェルンは不機嫌から一転、とても嬉しそうに、そして意地悪そうに微笑むと。さっさとディートリヒの手を引き剥がして再びその愛撫を再開した。
 これにはディートリヒも辛抱堪らなかった。触られる度にぞわぞわとして、背筋を悪寒のようなものが駆け抜ける。時折、堪え切れない溜息が口から溢れ出た。

「ん、……はッ、」

 戸惑いながらも息を漏らすディートリヒを見て、イェルンは満足そうに目を細める。そして同時に、ディートリヒにその身をピタリと寄せて脚を絡めた。とうとう綻びを見せたディートリヒを、逃さぬように。
 時折、イェルンはその胸の飾りを刺激した。優しく捏ねたりそっと潰したり、周囲の輪郭をぐるりとなぞってみたり。その度にその肌が粟立ち息が乱れた。特に捏ねられるのが良かったようで。
 普段は表情の薄いディートリヒも、この時ばかりは顔を取り繕う暇がなかった。頬を微かに上気させ、情け無く下がった眉尻は、そのまましばらく元に戻る事はないように思えた。
 無造作な白髪の下、キツめの印象を与えがちな切れ長の目から雫に濡れた薄い紫が覗く。


 実のところイェルンは、その目の色を気に入っていたりするのだ。家に入れたのにはまた他の理由もあったのだが、彼は密かに、何処かの古い魔法使いのように取り出して手元に飾って置きたいと思っていたりもする。ディートリヒはきっと、そんな想像をされているなんて思っても居ないだろう。そんな事を暴露して、今更怖がられるのはイェルンも御免だったが。明かりに照らされたその色を、ずっと見ていたい。そう思う位には、イェルンは気に入っていた。

 何度も繰り返し口付けて、ようやく満足したらしいイェルンが口を離した頃には、2人とも息が上がってしまっていた。溢れ出た唾液がてらてらと口を濡らして、イェルンもディートリヒも興奮を覚えている。それも、いつも以上にだ。
 何故かなんて分からない。後腐れないからかも知れないし、此処を出てしまえば二度と会わないかもしれない。けれど2人は互いに、この行為をやめられないところまできてしまっていた。

 次にイェルンは、ディートリヒの胸に口を寄せ、同時に軟く兆していたディートリヒのものを服の上からなぞった。途端、分かりやすく彼の身体が震え息が乱れる。いざ感じている事に羞恥心でも抱いたのか、ディートリヒは何故だか、イェルンから顔を背けるように横を向いた。

「んっ、……ふ、うぅ、」

 時折、抑え切れなかった声が漏れ出る。ディートリヒは横を向いたまま片腕で顔を隠し、自身を襲う快楽の波を受け流していた。
 ディートリヒはこの時混乱していた。こんな、挿れても挿れられてもいないのに、ただの触れ合いの延長のはずなのに。服の上からだというのに、痺れるような快感があった。身体が意志とは裏腹にひくつくのを抑えられない。

「あッ、はぁ……!」

 ずっと服の上からだった刺激がとうとう直接触られる所までくると、ディートリヒはビクッと身体を震わせ声を上げた。イェルンの愛撫にすっかり感じ入っていて、全身が性感帯になってしまったかのようにどこを触られても良かった。育ちきった先端を弄られると大袈裟に身体を跳ねさせて益々どろどろになったし、乳首も吸われると身体の震えは一段と大きくなった。

 ようやく乳首から口を離したかと思うと、イェルンはどろどろに溶けきった彼を見て舌舐めずりしながら、さっさと彼の下肢を剥いていった。そのまま左の脚を折り曲げ、ディートリヒ自身の先走りで既に濡れそぼっているそこに、指を一本ずつ中に挿入していった。既に力は抜け切っていて、ずっぷりと指が呑み込まれていく。指先を折り曲げながらくにくにと動かしていく。まずは、周りを解すように肉壁を掻き分けていく。

「んんっ……!」

 二本、三本、とゆっくり増やしながら滑りを伴ったそれが、壁を擦っていく。それが時折前立腺を掠めると、一際大きく身体が震え声が漏れた。それが必至に押し殺したような声で、その事実がますますイェルンを煽っていく。

「ん、……っふぁ、あ、ぅ、ンッ、んんぅーーッ!」

 イェルンがすっかり立ち上がったディートリヒのものを掻き上げながら何度か前立腺を擦ると、ディートリヒはくぐもった声を上げ、精液を吹き上げながら果てた。間も無くずるりと抜け出て行った指にすら感じ入って、快感の余韻にビクビクと身体が震えた。目元を両腕で隠しながら、上がった息を整えるように口を微かに開いている。その口端からは溢れ出た唾液が垂れてテラテラと微かに光っていた。扇情的なその様に、イェルンが舌舐めずりしている。

 次にイェルンは、彼の胸辺りまで散った精液をディートリヒの身体に塗り広げていった。ぬるぬるとした感覚に、ディートリヒは背筋を震わせる。次にイェルンは、ディートリヒの顔を隠す腕を掴み顔から外させながら、剥き出しになっている耳へ顔を近づけた。すっかり弛緩している身体では、抵抗などできなかった。両腕をベッドに縫い付ける体勢で、ディートリヒの耳元で押し殺したような声が聞こえる。普段の彼からは想像できない、酷く甘い、囁くような猫撫で声だった。

「ねぇ、気持ち良い?ディートリヒ?」
「ッ!ーーは、」

 その声音にすら感じてしまって、ディートリヒは背筋を微かに震わす。喋る度、吐息が耳に吹きかかってゾクゾクとする。イェルンは構わずに続けた。

「僕もヤバいくらい、気持ち良くってさ。ほら、こうするだけでめちゃくちゃ良いよね」

 いつの間にか下肢の服を脱ぎ去っていたイェルンが、ディートリヒのそれに己のものを重ね、更に身体を密着させる。そのまま、身体を擦り付けるようにゆっくりと腰を揺らした。

「っ、ふ、……!」
「はぁー……、ヌルヌルしてて気持ち良いね。さっさと突っ込んで擦ってイくのも良いけどさ、こういうのも、良いよね。イけそうでイけないの。ねぇ、ディートリヒはどこまで我慢できる?」

 それはそれはいやらしい顔で、イェルンは微笑んだのだった。





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