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骨の髄まで愛してあげる、(アトラス)



「は?お前、誰ーー?」

 ポカンと首を傾げながら言った目の前のピンク色がかった茶色の長髪の男に、エドヴァルドはついつい目を見開き固まってしまう。エドヴァルドも随分と魔王城に居た為、彼が元勇者である事はとっくに知れ渡っているものだと思っていたのだ。まさか未だに彼の顔を見て、誰だか判断がつかない者がいるとは、と。
 ここ最近の習慣で、侍女のベルと共に行動していない事も災いした。周囲にはその男にエドヴァルドについて説明できる程の者が誰も居らず、おろおろするばかりで助け舟を出す事が出来なかったのだ。つまりは目の前の男はそのような身分である、という事。

「ああ、いや、俺はーーーー」

 それを察したエドヴァルドは、しかしそこではてどうしようかと困り果ててしまう。まさか自分が処刑されたと噂の元勇者で、魔王を助けて魔王に身体を与えられて復活し、魔王の相棒としてその執務やら何やらを手伝っている、なんて、知らない人間にとっては胡散臭くて実にエドヴァルドに都合の良い話なのである。
 エドヴァルドはそのような真実を話して良いものか、そして話したところで信じてもらえるのか、迷ってしまったのだ。
 そんな様子のエドヴァルドに、男は訝しげな視線を向ける。

「新人ーー?にしてはちっさくて貧弱そうだけど……何、何でアンタ城のこんなとこまで来れてんのー?」
「あ、いや、まぁ新人である事には違いないけれども……貧弱……、いや、俺、今はアレクシス、サマの執務を手伝っているところで。エドヴァルドといいます」
「へ?魔王様の?」
「はい。ーー貴方のお名前をお伺いしても?」
「フルーレティ。魔王様の為に他国を引っ掻き回して来て、今帰ってきた所」
「ああ、貴方が……お話は伺ってます」

 ニコリ、とエドヴァルドが微笑むと、フルーレティも同様の笑みを返してきた。なんて事はない、処世術だ。互いに腹を探りながらも表情におくびにも出さず。そのまま二人は、会話をしながら魔王アレクシスの執務室へと向かう事になったのである。
 恐らくは、フルーレティの方もエドヴァルドの言葉を信じ切れていないが故、その行動を見張るといった意味合いも強いのだろうとエドヴァルドも思ったりはしたが、案外話し易い人柄であった事もあり、フルーレティとエドヴァルドは道中途切れる事なく、和やかに言葉を交わしていたのだった。


「ん?何だ、珍しい組み合わせだ」

 そんな二人が揃って執務室を訪れた時、アレクシスはそんな声を上げた。

「いや、そこで彼に誰かと聞かれて。知らないようだったから」
「ああ、成る程……フルーレティにはあの時すぐに外へ出てもらったからなーー」

 そのような仕事上の受け応えは、魔王としてのものであった。アレクシスの表情には一切の変化が見られないがしかし、どうしたって二人のその雰囲気というのは分かる者には分かってしまう。

「アレクシス、これ、アスタロトとイェレからだ。あと、頼まれていたのがコレとコレでーーーー」
「ああ、ありがとう」

 その様子を机から少し離れた場所から眺めていたフルーレティは、その距離の近さや表情の柔らかさに一瞬ギョッとしたように動きを止める。しかし流石は魔王側近の一人であって、そんな表情はすぐに引っ込められた。
 そうしてしばらく、二人の様子を眺め、迷うような仕草を見せた後で、彼は口を開いた。

「……魔王様、私は一度、席外しましょうか?」

 その声に、二人が同時に振り返る。

「ん?何故だ?」
「いや、何というか……お邪魔しては悪いかと」
「あ、その、いや、俺の方はもう済んだんだから、お構いなく。……アレクシス、この後また」
「ああ。また、頼む」
「フルーレティ、先に失礼するよ。また、お話できると嬉しい」
「あ、うん、はい」

 そう言うと、エドヴァルドはそそくさと部屋を出て行ってしまう。残されたフルーレティは、出て行くその背中を追い、そして次いで魔王アレクシスを見た。
 アレクシスはと言えば、決してフルーレティと目を合わせようとはしない。

「……魔王様、ちょっと色々お話よろしいっすかね。あとついでに報告も」
「…………フルーレティ、お前の言いたい事は分かっている。まずは報告から聞こう」

 そのような形で始まった二人の会談は始めの内、非常に淡々と行われた。

「ーーと、言う訳で、最早彼の国に与する者共も、他国に干渉していられる暇も無くなるでしょう。時期、二国間では戦争が起こる事は確実かと」
「良くやってくれた。これで時間を稼げる」
「有り難き幸せでございます。ーーんで魔王様、報告は終わりなんで、さっさと吐いて下さい」
「何なんだ、急に……お前、そんなに突っ込んで聞いてくるような奴だったか?」
「いや、だって目の前であんなん見せられたら気にならない方がおかしいですって」
「…………そんなに分かりやすいか?」
「まぁ、他は知らないっすけど、俺はそういうの仕事柄特に気になっちゃうタチなんで」
「そうか……」
「それで?アレ、何者なんです?あの仕事一筋な魔王様を骨抜きにしちゃうエドヴァルドって」
「………………元、勇者だ」

 アレクシスがボソッと口にした瞬間、フルーレティは一瞬ポカンと口を開けて固まった。その後すぐに出てきたのは、すっかり取り繕う事を忘れたフルーレティの素の声だった。

「は?」
「あの、勇者エドヴァルドだ。彼は処刑され、その力が私の復活の礎となり、後に私が魔人として身体を与えたのだ」
「…………は!?何すかそれ、御伽噺みたいな……え、何、それで魔王様と元勇者エドヴァルドがくっついて乳繰り合ってるって?」
「言い方……」
「や、そこは大事っしょ。魔王様のパートナーとなりゃ色々期待されるんすから」
「まぁ……な」
「んで?どこまでいったんすか」
「…………」
「スるとこまではシてるんかな?でも魔人の事情とか、孕ませたいってとこ、話してないっすかね?」
「お前……」
「魔王様、そういうとこ絶対奥手そうっすもんねぇ……あんま待ってたら不安になって愛想尽かされて逃げられちまいますよ」
「!」
「だって、奴ら人間の男って元々孕めませんもん。まだそういうとこ、人間の感覚残ってるんじゃないすか?早めに教えといた方がいいっすよ」
「!?」
「人間の男同士ってすぐ破局しがちらしいっす。どっちかが女と婚姻させられちまってそのままとか、女に盗られるとか……因みにエドヴァルドサンと仲の良い女とかいます?」
「ッ!」
「居るんだ……あちゃー」
「待て、待て……いやいやいやいや、彼女は侍女であるしイェレに猛アタックして……彼女が世話焼きなだけでーー」
「それ、ヤバいっすね。優しく世話されたらコロっといっちゃいますよ。元々は人間の男っすから」
「!?」

 そのような事を言われたアレクシスは、この世の終わりとばかりに愕然とした表情を浮かべている。そして、そんな様子を見ていたフルーレティはといえば、若干楽しそうに、更なるアドバイスを告げた。

「んじゃ、そうなる前に俺が一肌脱ぐっすかねぇ。色々やりますけど、本気で怒んないで下さいよ?魔王様の為っすから」
「怒るって……お前、一体何をする気だ」
「え、だから魔王様がそいつを孕ませる準備を……」
「は?」
「は、じゃないっすよ。教えとかないと進まないし、勘違いで破局されてもコトっすから。アンタそういうとこ鈍そうっすもん」

 眉根を寄せながら困ったように、フルーレティは言った。それに対して、アレクシスは少しだけ不満そうだ。

「……私も傷付かない訳じゃないんだからな……」
「だって事実っしょ」
「…………」
「まぁ兎も角、俺がチューくらいはしちゃうかもしれねぇですけど、ぜんっぜん他意はありませんからそこんとこヨロシクっす」
「おい……」
「ヤる前から怒らんで下さいよ。魔王様の為なんですから」
「努力はする……」
「ほんと、コッチの方も仕事と同じくしっかりしやっちゃってくださいね、お膳立てはしますんで」
「…………」
「はいそこ落ち込まなーい!んじゃ早速俺これからちゃちゃっとやってくんで、魔王様もなるべく話は進めちゃってくださいねー」
「わか、った……」

 そのような形で会談は終了し、早速フルーレティは行動に移る。彼はいわば諜報活動や工作活動を行うプロである。噂話や事実を得る事に関しては、彼の右に出る者は居ない。というのも、彼に許されたその独自の能力が、それを可能にしているのである。
 フルーレティは、城の廊下を歩きながらふと、一瞬目を瞑った。そのままほんの二歩分程歩いている間に、彼の姿はあっという間に城の侍女のものへと変化した。ピンクがかった茶色の長髪は真っ黒な色へと変化し、侍女服の黒いドレスを着た、背の高い女性に。再び目を開いた時には、仕草ですら、男らしいのものから女らしいものへと変わった。
 彼女はそのまま、侍女らしいキビキビとした態度で城中を歩いた。途中、頼まれごとや仕事を任される事もあったが、彼女は侍女として完璧にそれらをこなしていった。噂話を集めながら、時折部屋へと侵入しながら。
 完璧なフルーレティの擬態に、誰もが気付けないのだ。一部の能力の高い魔人を除いて。

「あ?……お前、フルーレティか?」
「うげっ」

 アスタロト公爵の前を通り過ぎた時だ。それは一瞬で見破られた。
 すぐさまに逃げようとフルーレティは駆け出すが、そこに関してはアスタロトの方が上手である。すぐに逃げ道を塞がれ、空いている部屋に連れ込まれてしまう。
 部屋の扉が閉まる頃には、フルーレティは元の姿へと戻っていた。

「なーにするんすか公爵サマぁー……」
「お前こそ、今度は何を企んでおるのだ」
「いやぁ、俺は魔王様の為に一肌脱ごうとしていた訳っす。邪魔しないでくださいよぉ」
「何?」
「何って……あの魔王様っすよ、エドヴァルドサンにあれ以上手ぇ出せる訳無いじゃないっすか。飽きられる前に子供でも作って縛っちゃった方が良く無いっすか?」
「お前……」
「いやさぁ、俺って色んな国の色んな事情見てるもんで、王族の愛とか恋とかの悲劇、結構見てんすよね。なんで、魔王様と元人間のソレって、すれ違いとかあって早々におジャンになりそうで怖くって」
「…………」
「俺も魔王様には上手くいって欲しいっていうか。あの元人間も色々噂聞くに、イイ人っぽいですし、俺が一肌抜いでやろーかと思ってたんすよ。んで、とりま情報収集って感じで。エドヴァルドサンの性癖とか分からねぇかなぁと、聞き回ってました」

 シレッとそんな事を言ってのけるフルーレティに、アスタロトは渋い顔を崩さない。フルーレティによって色々と迷惑を掛けられてきた過去を思い出して居るのか、釘を刺す事は忘れない。その後始末を引き受けざるを得ないのは、いつもアスタロトなのだから。

「戻って早々、ご苦労な事だ。余り、引っ掻き回してくれるなよ。アレはアレで上手くやって居るんだ……」
「そっすねー、だからとっとと孕ませれば勝ちって事っす」
「……嫌な予感しかせんわ」
「乞うご期待っす。エドヴァルドサン、多分Mっ気あるんでイケイケで押してけば折れそうな気ぃするんすよね」

 そうやって二ヘラッと笑ったフルーレティは、不意打ちの情報に固まるアスタロトの目の前で元の侍女へと姿を変えると、そそくさと部屋から出て行ってしまったのだった。アスタロトはその場で大きく溜息を吐くと、しばらくの間項垂れていたのだった。





* * *




 それからしばらく。エドヴァルドとフルーレティは良く話すような仲へと発展していった。フルーレティも、他国へ潜入を行い情報操作を行うような男であり、元々コミュニケーション能力は特段秀でている。エドヴァルドの方も、生来からの人たらしの性質で、フルーレティから本当の意味で信用されるのもすぐであった。
 だがひとつ、エドヴァルドが知らない事がある。なぜ、フルーレティがそんなにもエドヴァルドと頻繁にばったりと廊下で出会すのかを。なぜ、エドヴァルドとの仲をフルーレティがそんなにも縮めようとしているのかを。
 フルーレティは、非常に優秀な諜報員であり、工作員でもあるのだ。

「ーーあっはは、ソレソレ!俺マジあん時は焦ったんだから」
「そんな事が……まぁ、君も話聞いてると俺並みに無謀な事やってるから気を付けないと」

 そんな二人の仲の良い姿を見る事も、ここ最近では珍しくない光景となっていた。
 そしていつもならば、二人はエドヴァルドの部屋の前で別れる事になるのだが。この日は少しばかり違っていた。

「そうそう、エドヴァルドに話したい事あんだけど、部屋入って良い?あんま他所には知られたくなくってさぁ」
「ん?珍しいな。良いよ、入って」

 そういう形でとうとう、フルーレティはエドヴァルドとの内緒話をする舞台を整えたのだ。強硬手段も辞さず、確実に相手をオトす工作員フルーレティの手腕が、ここで如何なく発揮される事になるのである。

「話って、何だい?」

 何の疑いもなくフルーレティを招き入れたエドヴァルドは、自室に入った事もあり随分とリラックスしている様子だ。首元のボタンを外し、寛げさせている。
 フルーレティはそんなエドヴァルドに、ゆっくりと近付いていく。

「いやさぁ、多分城の人皆んな気になってると思うんだけど……ぶっちゃけ、魔王様とはどこまでイってんの?」
「!」

 問われたエドヴァルドは驚き、頭上のフルーレティの顔を見上げた。魔人は総じて身体が大きく、人間の平均身長程しかないエドヴァルドにとっては、比較的小柄なフルーレティですら見上げる程なのだ。
 そんなフルーレティが、いつものヘラリとした表情とは全く違う、真剣な表情で詰め寄ってきている事が分かって、エドヴァルドは自然と後退ってしまった。

「な、何だよ急に……別に、俺とアレクシスは……」
「いやいや、それじゃ困るから。俺らの王様の将来に、俺らの命も掛かってんの。ーーんで、何処までイった?腹の奥に注いでもらった?」
「ーーッ!」

 そんな事を、顔色も変えず明け透けに言ってのけるフルーレティに、エドヴァルドは動揺する。顔が火照っているのが本人にも分かるほどで、エドヴァルドは羞恥に眉根を寄せた。だがそれでも、フルーレティの表情は変化する事なく、真剣そのものだった。
 ジリジリと後退するエドヴァルドを、フルーレティはじわじわと追い詰めていく。部屋の奥、寝室まではまだ少し距離があった。

「な、ななーーッ」
「その調子だときっと、魔王様まだ話してないっすよねぇ……」
「ッなに、を?」
「なにってーー魔人はねぇ、人間と違って、雌雄同体に出来るんすよ。まぁ、オトコでもオンナでも、孕ませる事も孕む事も出来るっていうね。アンタはもう魔人でしょ?魔王様のオンナ」

 そんな調子でじわじわと追い詰めていきながら、フルーレティは4本の指でエドヴァルドの下腹部に服の上から触れてくる。それから逃げるように後退していたエドヴァルドはとうとう、壁際へと追い詰められてしまう。
 腹をその指でぐいと優しく押し込んでくるフルーレティの腕を退けようと思わず手に取るが、ビクともしない。力の差なのか、動揺で力が入っていないのか、エドヴァルドにはよく分からなかった。
 けれどもそれが、とんでもなく卑猥な行為のようにエドヴァルドには思えてしまって、自然と息が上がった。
 見上げたフルーレティの口許に妖艶な笑みが浮かんでいて、けれどもそれは嫌な感じではなくて、エドヴァルドは混乱の中にありながらそれに見惚れてしまう。
 フルーレティのその能力に、エドヴァルドはまんまと引っかかってしまったのだ。続けて耳元へ顔を寄せられて、フルーレティの吐息を肌で感じた。

「ここ、分かる?腹の奥の方にさ、まだ先があんの。ココまで犯して貰って、奥の奥に、魔王様の種子をぶち撒けて貰うの。それ、まだでしょ?ねぇ、エドヴァルド?」
「はッ、ぁ」
「想像した?」

 ココ、と口で言いながらいやらしい手つきで揉み込むように撫でる。その内にエドヴァルドは、本当にアレクシスが腹の中に入ってきているかのような錯覚を覚えてしまう。

「ナカの奥、ぐちゃぐちゃに掻き回して貰ってね、何度も何度も出してもらいなよ。そうすればきっと孕む」
「ッぅ……」
「孕んだらもう、魔王様と死ぬまで一生、一緒に居るしか無いねぇ。次期魔王サマの親として、ずーっと魔王様と一緒」
「一、生……」

 フルーレティの手によって撫で付けられている腹のナカが、何故だか酷く疼いた。もう頭ではアレクシスの事以外、考えてはいられない。自分の事などどうでも良い。アレクシスの為ならば、何にだってなってやる。
 エドヴァルドは息を荒げながら、ただただ想った。

「うん、一生ね。ーー嫌?」
「ッ……あ、い、ーー」
「ん?」
「嫌なわけ、ない……。ずっと共に居れるなら、アレクシスの……為に、なるなら、」
「うふふ、良い子だね。……その言葉が聞きたかった。じゃ、ご褒美」
「は、」

 言いながら、目の前のフルーレティが忽ち別人へと変化していく。真っ黒い艶やかな長髪、切長の目から、血のように紅いルビーのような色を覗かせる、同じ男でも見惚れてしまう美貌を持つその人は。
 エドヴァルドは、その場で目を大きく見開いた。

「ア、レクシス……」
「そ、魔王様の御姿だよ。俺はねぇ、一度触れれば誰にでも化けられる。あともう一つが……、そっちはまだ秘密かな。自分で確かめてねぇ?」
「ッ、……」

 アレクシスになったフルーレティは、そのまま動く事も出来ないエドヴァルドへと、そっと口付けた。流れ込んでくる魔力はアレクシスのものとは違って、けれど目に入るのはアレクシスと瓜二つの優しげな笑みを象った目で。エドヴァルドは益々混乱する。

「は、ぁ……んんッ」

 別人であるはずなのに、別人に見えない。口の中を散々掻き回されて、吸われて、魔力を注ぎ込まれて、胎を外から刺激されて。エドヴァルドはもう、何が何だか分からなくなってきてしまった。気持ちが良すぎて、頭がぼうっとする。
 そして段々と目の前の人がアレクシスなのだと思えてきてしまって、どうしてだか、無性にアレクシスが欲しくて堪らなくなった。
 そして無意識に、エドヴァルドは目の前のその人の股間に手を伸ばし、そして、服の上から揉み込むようになぞった。

 それはいつもの二人の合図で、そうするとアレクシスは嬉しそうに笑ってエドヴァルドに望んだものをくれる。
 だからこの時も、頭がドロドロに溶けてしまったエドヴァルドは、強請ったのだ。早くナカに挿れてくれと。愛してくれと。


「え……うあっ、ちょ、まッぷーー!」

 しかし忘れてはいけない。今、エドヴァルドの目の前に居るのは、フルーレティなのだ。彼は、エドヴァルドのそんな行動に狼狽てしまって、らしくもなく焦りを見せる。
 慌てて口を離そうとするも、認識の覚束無いエドヴァルドにしがみ付かれて再度口付けられる。まさかこんなに積極的に求められるとは、フルーレティにも予想外だった。

 だがそれ以上に予想外だったのは、フルーレティの能力のかかり具合だった。自分の能力で欲情させた所までは良かったものの、相手は元はと言えあの勇者エドヴァルド。
 欲情させ、催眠の一種で相手の動きを封じるフルーレティの能力が、中途半端に効いてしまったらしい。エドヴァルドは欲情はさせられたものの動きが全く鈍っていない。その上、フルーレティを魔王アレクシス本人だと本気で誤認してしまっているらしくって。

 エドヴァルドの手が、偽アレクシスの性器に絡み付いてくる。これにはさしものフルーレティも少なからず感じてしまう。こんな風に相手に身体を触らせるなんて、フルーレティは認めた事はなかったし、ましてや相手は男だ。そんな経験など皆無だ。
 オトコの良い所なんて知り尽くしていて、明らかに女に触られるよりも、ヨかった。
 けれどもこのままヤッてしまったら魔王アレクシスに殺されるのは確実であるし、そもそもフルーレティにも好みがある。エドヴァルドは好みからは外れているのだが……このままいくと、何やら新たな扉を開いてしまいそうで、フルーレティはとてもとても動揺した。

 それでも何とか、魔法やら何やらを重ね掛けしながらエドヴァルドを引き剥がし、フルーレティは息も絶え絶えにその部屋から逃れたのだった。
 その場で己の分身を鎮めるのに苦労しただとか、げっそりとしながらも魔王アレクシスにエドヴァルドが大変だと知らせた時なんかは、鬼の形相で凄まれただとか、踏んだり蹴ったりなフルーレティ。もう二度と彼等の間をとりもつ事はしまい、と心に固く誓ったのだという。





* * *





 エドヴァルドがハッと気付いた時には、彼は自分の部屋のベッドに寝かされていた。何故だか頭がクラクラとして、身体が熱い。先程まで誰かと大切な話をしていた気がして、けれど気を抜けばぼんやりとしてしまう頭は碌に働いてくれない。
 だがそんな時にも、エドヴァルドはアレクシスの事を思い浮かべてしまう。いつ、何処に居ても、この所エドヴァルドはアレクシスの事を考えてしまう。
 今の自分が生きているのは、アレクシスがそう望んだからなのだ。一度死んだ己に再び生を与えたアレクシスが、エドヴァルドと共に有り、そして共に幸せになる事を願った。だからこそエドヴァルドは今も生き、アレクシスの隣に居る。
 そんな男が望むのならば、エドヴァルドは喜んでこの身を差し出せるし、二人の間に子供を望むのならば、その礎となる事に戸惑いもしない。それを、アレクシスが理解しているのかどうか。

 今はどうしてだか、エドヴァルドはアレクシスが欲しくて欲しくて堪らなかった。
 そんな事を考えていたせいなのか、それからすぐ、当人の魔王アレクシスが、慌てた様子で部屋に現れたのだった。

「おい、エドヴァルドッ大丈夫か!?何をされた!」

 相変わらずエドヴァルドの事となると、自分で決めたルールすら軽々と破ってしまうアレクシスに、エドヴァルドは微笑んだ。眉尻を下げ、心配そうにベッドに乗り上げて見つめて尋ねてくるアレクシスが、愛おしくて仕方がなかった。

「アレクシス……」
「何だ!?大丈夫なのか?」
「何も、ない……アレクシス」
「ああ、何だ?何でも言ってみろ」

 心配そうに言ったアレクシスの頬に、手を寄せて、愛おしそうに、エドヴァルドは言った。

「君は、俺との子供が、欲しいのかい?」
「!!」
「魔人になった今なら可能だと聞いた気がする……もし、アレクシスが望むなら、俺もーー」

 そこから先、エドヴァルドは言わなかった。けれどそれだけで、アレクシスにはちゃんと伝わっていて、彼は言葉を失う。アレクシスにも色々と思う所があったのだろう、しばしその場に沈黙が落ちる。そうして再びアレクシスが口を開いた時。それは堪えようの無い程に、燃え上がるのだ。

「当たり前、だろう。欲しくて欲しくて堪らないーーッ!」
「良かった。ーーーーなぁ、アレクシス…………ちょうだい?」

 そこからはもう、二人とも何もかも忘れて、互いを愛し合う事しか考えられなくなっていた。


「あ、あぁぁッーー!」
「はぁーーッ、エドヴァルド、エド……、」
「ん、ーーッふ、アレックッ、もっと、おく……」

 ぐちゅぐちゅと何度も何度も性器を打ちつけながら、時に抱き合い互いの名前を呼び、口付けを交わす。その時既にエドヴァルドは何度か吐精してしまっていて、それが互いの身体をぬらぬらと濡らしている。
 アレクシスの性器が犯しているエドヴァルドのナカは、アレクシス自身の先走りやら、エドヴァルドの吐き出した精液やらでどろどろに溶けている。ソコはアレクシスの性器に吸い付くようにうねっていて、まるでアレクシスの種子を物欲しそうにしゃぶっているかのようだった。それすらもアレクシスの興奮を煽り、先走りと微かに漏れ出した精液でナカを一層ぐちゃぐちゃに濡らしていく。
 もうこの世には二人しか居ないと錯覚する程、アレクシスとエドヴァルドは溶け合っていた。
 既に闇夜も深く、窓から覗く月明かりだけが暗闇の中で二人の身体を照らす。

「あ、ああーーッ、ん、奥、はやく、奥ッ」
「まだ、だ……ッふ、う……傷付けたく、無い。エドは小さいから、そこまで挿れるのはきっと、大変だ」
「いや、だ、早くーー、ここ、足りなッ」

 どうやら、フルーレティの煽りが効きすぎたようで、エドヴァルドはしきりに奥への挿入を欲しがった。それ程ドロドロに意識が犯されてしまっていて、エドヴァルドは腹を手で押さえながら何度もアレクシスに懇願する。
 最初は理性を何とか保ちながら宥めていたアレクシスだったが、手を変え誘い方を変え、淫らに腰を揺らし、時にアレクシスの性器を奥に押し付けながらそんな事を言うものだから。何度目かにとうとう耐え切れず、アレクシスもプッツリと冷静な部分が弾け飛んでしまう。
 興奮の余り、自然と口許に嗜虐的な笑みが浮かぶ。

「そ、うか……、なら、奥の奥まで、犯してやろう」
「ッーーぅ!」

 逃げられないようにエドヴァルドの腰をガッチリと両手で掴み持ち上げて、アレクシスは上から叩き付けるようにゆっくりと腰を押し付ける。一気に深くなる挿入に、エドヴァルドは仰け反り悲鳴にも近い声を上げた。苦しい筈なのに、それでもその顔には恍惚とした笑みが浮かぶ。

「ぐ、ーーッぅあ、ッく」
「はっ、……ココ、な?ココまで、この、奥にッ、私が入る」
「は、ぁ…………ん、挿入って、くーーッ!」

 腹の奥、行き止まりの壁を何度もじわじわと捏ね、ゆっくりと、しかし確実にその奥への挿入を果たそうと強く押し付ける。
 そうして、アレクシスがとうとう、壁のその奥へ、侵入を果たす。ぐぷんっと、アレクシスの性器が明確な意思を持って、エドヴァルドの奥を、犯す。

「ヒッーーーーッぁ!!」
「ふッーーん、はは、エド、エドヴァルドッーーもう、私のだ。一生、何処へも行かせないし、帰らせないッ」
「あぁ、は、ああッーー!んッ、」

 その衝撃に吐精も無しに絶頂を迎えてしまったエドヴァルドは、ガクガクと震え、アレクシスにしがみ付く事しか出来ない。必死に何度も大口を開けて息を吸い込むが、長い余韻に真っ白になった頭ではもう、言葉を紡ぐ事すら難しいらしい。開けっ放しになった口から溢れる唾液が顎へと伝いてらてらと光る。
 そんなエドヴァルドを落ち着けるように動きを止めたアレクシスは、垂れた唾液を舐め上げながらその唇を己のもので塞ぐ。そのまましばらく宥めるように口の中を犯してから、アレクシスはそっと口を離した。
 アレクシスの性器は、未だエドヴァルドのナカで精液を搾り取るように揉み上げられしゃぶられていた。何度か震えるように痙攣した事もあって、その度に軽く絶頂しているだろう事が窺えた。
 けれどもやはり、エドヴァルドの性器からは精液は出ておらず。ナカだけでイッてしまった事が窺えて、それだけでもう、何度もアレクシスはイッてしまいそうになった。けれどそれを何とか気合いで耐え、エドヴァルドの奥の奥へと注ぎ込む事だけに全力を尽くす。

「もう、私のだッ、誰にも渡さないーーッ!」
「ひぃ、あ、あああッーー!」

 エドヴァルドの奥の奥で、アレクシスは入り口を何度もくぐり抜ける。その度にナカは痙攣し、逃げるようにエドヴァルドが上にずり上がろうと腰をくねらすが、アレクシスはそれを許さなかった。
 いつもは聞こえない、エドヴァルドの臀部にアレクシスの太腿がパンパンと当たる音と、ぐちゅぐちゅとナカが掻き回される音が部屋に響き渡る。

「あ、あ、っエドヴァルド、お前のナカに、出すーー、愛してるんだ、ああ、早く、早く、孕んでしまえーーッ!!」
「ああああッーーーー!!」

 そんな叫びと共に、アレクシスはエドヴァルドの奥へと精を吐き出した。本能のままに何度も何度も打ち付けるように吐き出すと、それに呼応するようにエドヴァルドも震え、今度は精液を吐き出しながら絶頂していた。

 それからしばらく。アレクシスは余韻に震えるエドヴァルドを抱き寄せながら口付けた。ようやくエドヴァルドの息が整ったかと思うと、アレクシスは再び律動を再開する。
 エドヴァルドからは抑え切れない嬌声が何度も上がり、時折静止の声もかかったりしたが、すっかり興奮しきったアレクシスは止まる事が出来なかった。
 そうしてアレクシスは何度も奥で精を吐き出し続けて、エドヴァルドが解放される頃には腹の奥が膨れる程に、ナカに注がれたのだった。

「絶倫、過ぎる……」
「す、すまん……お前があれ程乱れて誘うものだから、つい……」

 最早声も枯れ、腰も立たなくなってしまったエドヴァルドは、そのまま部屋の風呂場でアレクシスに精液を掻き出されるなどして。そこで更に興奮したアレクシスと更に一回、致してしまう事になったりした。

 それから程なくして。何度も何度も、エドヴァルドが嫌がる位に行為を重ねた結果。魔王アレクシスの伴侶懐妊の知らせが国中に響き渡る事となった。その相手の名前が国民全体へと知らされるのはしばらく後にはなったが、内情を知る魔王城内に至っては、一部で大興奮の様相を呈した。

「ぎゃあーーーー!とうとう、とうとうでございますよ!ようやく、ようやくぅぅッ!このベルはエドヴァルド様のお子様の乳母としても人生を捧げる所存でございますのぉーー!」
「あ、うん、ベル殿……それはとても光栄な事ではありますが、その、そうなったら私は……一体、どうすれば……」
「イェレ様……どうぞお気を確かに。きっと大丈夫でございますわ、ベル様もばばフィーバーが過ぎればちゃんと冷静になれますわっ」
「ば、ばばフィーバー……」
「諦めろ。惚れたら負けなのだぞイェレよ。こんな、宮廷侍女の皮を被った御転婆娘、ジッとさせておく事など出来る訳なかろう。その内戦場へも飛び出して行きそうな勢いではないか」
「アスタロト公……貴方、ちょっと面白がっていませんかね?」
「ねぇちょっと……俺、今回めっちゃ頑張ったと思うんだけど、誰も俺の事褒めてくれねぇの?ねぇ、……今回結構身体も命もはった気がするんだけど……」
「貴様も少し黙れフルーレティ。貴様の所為で私がいつもどれだけ迷惑を被っていると思っている。今回の成果とソレとは、相殺だ阿呆め」
「ええーー!そんな、殺生なぁー……!」

 そんな賑やかな様子を眺め、そして時に加わりながら、エドヴァルドもアレクシスもようやく訪れた幸福な己の世界を噛み締めたのだった。

「アレクシス」
「ん?」
「俺、今本当に、生きてて良かったと思ってる」
「ふふ、それなら良かった。私もだ。ずっと、お前を愛すよ。死ぬまで」
「俺もだ。アレクシス。愛してる。二度と、もうあんな事は言わないよ。君が生きている限り」

 そうして世界に逆らいながら、二人で、三人で、彼等は共に己が道を行く。





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