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可笑しいひとたち


「オイ、居たか!?」
「いいえ……、あっちから探しましょう」

遠くから聞こえるのは、何かを探す声……そんな奴等の探し物は俺だ。


しばらく姿を消していたせいで、俺は奴等に散々説教(とセクハラ?)をされた俺は、奴等の目を盗み、廃工場を抜け出そうとした。だがもちろん、そんなに上手くいくわけがなくて。
目敏いイツキに、気づかれてしまった。

『サガラさあぁぁぁぁん逃げちゃらめぇぇぇぇ!』

そう叫びながら猛スピードで追ってくるイツキは、中々の恐怖だった。そんなイツキが大声を出すから、タチバナや龍崎にも気付かれてしまった。幸いにも出口近くで気付かれたたため、捕まることはなかったが。だが、大変なのはそこからだった。

そうやって、町中を持ち前の反射神経と持久力を活かしとにかく逃げ続けたのはいいが、いつの間にか廃工場にいた連中全員が俺の捜索に加わったらしく、逃げても逃げても誰かしらに見つかる。誰かが奴等を焚き付けたのか、奴等の判断なのかは知らないがとにかく、とんでもなく大変な事態になった。

そして今も、路地の暗がりに隠れながらこそこそと移動している最中だったりする。あちこちから俺を探す連中の足音が聞こえてくる。……なんか、段々面倒臭くなってきた、しにたい。早く奴等帰んねぇかな……そう、現実逃避気味に息を潜めていた時。

「ここ、見たか?」
「いや、見てない気がする」

すぐ近くで誰か、聞き覚えのある声がした。恐らく工場の連中、しかも幹部クラスだ。先日俺を泣いて出迎えたヤツと、最近良く『もえ』だとかほざいてる不審者だ。イツキやタチバナに次いで、少々厄介な連中で――絶対に捕まりたくないと心からそう思ってしまうような奴等。そうは思ったものの、マズいことに、ここから更に逃げるには、一度奴等の前を横切り向こう側の通路を行かなければならない。反対側を行けば大通りに出てしまう。

ようやく周りに誰もいないと思い一息ついていたのに……今動けば確実に見つかってしまうだろう。あいつらも伊達に幹部を名乗ってはいないし、逃げきるのもなかなか体力を使う。ああ面倒臭っ!そう思いながらも、俺は逃げきるため、意を決して奴等の前を横切ろうと、そっと体制を低くした。

だが、突如背後から何かが走ってくる気配を感じ、驚いて咄嗟に振り向いた。暗がりで相手が誰だかよく判らず、警戒しながら相手が近づくのを待った。

「イバさん見つけた!」
「!?」

そんな明るい声と共に、その男は俺に勢い良く抱きついてきた。咄嗟に踏ん張り尻餅をつくような間抜けな事態にはならなかったが、この状況はマズイ……見付かる上に何か色々と勘違いをされそうだ。そう思った瞬間、奴等が姿を現した。

「あっサガラさん見つけた!オイ、お前皆呼んでこい、いざ捕獲ぅー!」
「うっせ、テメェが行け!サガラさんソイツ誰っすかぁ俺達と居るよりソイツと密会する方がいいんですか!?うああああ俺達のサガラさんがああああ!」

流石と言うか残念と言うか……こいつらも顔はいいのに色々と勿体無い……。そんな、逃避とも言うべき事をツラツラ考えていれば、目の前の男が声を出した。

「イバさん?ほら、覚えてる?俺ナカライ、ついこの前会いましたよね!」
「えっ……、ああ、あの時の」
「中々会えないから探してたんですよ。今度また付き合ってほしいな、って」
「サ、サガラさんソイツとそんなに親しいんですか!?ってか……俺達よりソイツ、大事なんですか」
「お、俺、俺っ、」

抱きつかれているせいで妙に近い距離に少し困りながら、俺は言葉を返すものの、こういう状況でどうすればいいか分からない。あいつらが段々と刺々しい雰囲気を纏うのが分かった。予想外にこの状況はとんでもなく悪い。気に入らないと暴力に訴える帰来のあるこの二人。普段フザケているように見えるが、連中の中でもトップクラスの問題児達なのだ。癇癪を起こし、一端暴れだすと手がつけられないらしい。この程度で何を、と思わないでもないが、奴等の考えてる事は俺にも分からない。最近まだマシになってきたとタチバナが話していたが、あまり改善されてはいなかったようだ。普段は連中に対する関心も薄いせいか、彼等の問題に対して他人事だと高をくくっていたのだが。自分が当事者になって初めて分かった。死ぬほど面倒臭くて、死ぬほど――ブチのめしたくなる。

ああもう、そう思うと大きく舌打ちが出た。瞬間、俺に貼り付くナカライさんがビクリと体を揺らしたのが分かった。チラリと盗み見れば、彼は少し怯えたような表情で俺に巻き付いていた手をそっと離した。別に、この人にイラッとしたワケではないのだが、まぁ俺もあの二人も、装いは見たままに不良だ。あまり恐くないのかなと近寄ってみたが、実際は見たままの人間だったから少し恐くなってきた、そんな気分なのだろうか。その事実にますますイライラした。

そうやってナカライさんの様子を見ているうちに、俺はもう先を考えるのもイヤになり、もうどうにでもなってしまえ、そんな投げやりな気分になった。別に怯えられても嫌われてももう何でもいい、ただ兎に角、この不安定な状況から抜け出したかった。――こんな気分になったのは久々で、俺はこの町で喧嘩を買い出したその頃を、つい思い出してしまった。そういう癇癪はつい治ったものだと思っていたが、ぶっ倒れた頭は健在だったようだ。

「その男、ブッ殺せば戻ってくれますよね」

ユラリと危ない目で奴等がナカライさんを見る。
プツリ、自分の糸が切れるのが分かった。
クツクツと一頻り笑う。何だ、と訝しみ不安げに目を見合わせている奴等。俺は奴等に狙いを定めると、俺は苛立ちのままに目の前の二人に襲いかかった。







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