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1.異世界は狂気に満ちている


 パチリと目を開けたそこは海岸だった。真っ白な砂浜に、透き通るような海の色。輝くような陽の光のもと心地良い海風が吹く中で、カイトは仰向けに寝転がっていたのだった。波音や風の音だけが響くだけのその場所は、自然の音以外、人工の音が一切聞こえなかった。
 何と心地良い場所だろうか。上半身を起こしながらそんな事を思っていると、ふと、そこでカイトは初めて気がつく。はて、自分は一体なぜこんな所に居るのだろうか。
 しばらく考えてみるのだが、今日一日、一体自分がどこで何をしていたのか、いくら考えても全く記憶になかった。しかもそれどころか、自分がどういう人間だったか、全く思い出せないのである。
 年は覚えていた。確か、十八歳に成ったばかりだったはず。カイトという名前も。だが、それ以外の情報を捻り出そうとしても、彼の頭の中はうんともすんとも言わない。
 自分は何処の誰で、何処に住んで何をしていたのかすら、微塵も思い至らなかった。頭でも打ったのか。そう思って、コブでも出来ていやしないかと手で触って確認してみるのだが、手に触れるのは何の変哲もない、ただの自分のまぁるい頭。異常は頭どころか、自分の身体の何処にも見られなかった。真っ黒い学ランと呼ばれる(カイトは覚えていた)服に身を包み、学生らしいと言われるような薄い茶色の短髪頭。学校帰りな服装は、南国の海のようなこの場には、酷く不釣り合いのように思えた。

 ここでしかし、カイトは困ってしまった。この後、その時まで自分がどう動けば良いのかさっぱり分からないのだ。何をしようとしていたかも分からない、何処へ行けば良いかも分からない、これからどうすれば良いのかも分からない。
 途方に暮れた。だが、不思議と不安はなかった。例え何もしていなかったとしても、どうにかなる事知っているのだ。これから、誰かが迎えに来るだろう事も。
 そうやって、未だにはっきりとしない頭でぼんやりとあれこれ考えていた所で。突然、彼のすぐ傍から声がした。

「ん……」

 そこで初めて、カイトは隣に誰かが寝ている事に気がついた。ずっと隣に居たのだろうが、ぼうっと座り込んでいた彼は気付く事が出来なかったのだ。
 すぐ隣で仰向けに寝転がる彼はその時、ゆっくりと目を開けるところであった。開いたばかりのぼんやりとした目を、パチパチと瞬かせる。そこに現れたのは、空を切り取ったようなスカイブルー。その色に惹かれながら、カイトは彼が徐々に覚醒していくのを眺めた。

 彼は、とても綺麗な顔立ちをしていた。女と見間違うような中世的な顔立ちで、透き通る肌に合わせるようなプラチナブロンドの長髪が輪郭に沿うように流れている。純粋に、カイトはそれを美しいと思った。まるで伝承に伝え聞く、羽の生えた神の遣いのよう。
 そこでもう一つ、カイトは気付いた。彼の姿を、とても懐かしく感じる。その感情の理由なんて分からない。けれど忘却された記憶の片隅に、懐かしいと思える感情が眠っているような気がした。誰だかは知らない。けれども、彼を見ていると無性に泣きたくなる。何故だろうか、思い出したいような、思い出したくないような、そんなどっち付かずの気分であるのだ。そんな、ぐちゃぐちゃとした思考を無理矢理奥の方へ押し込めると、カイトは再び目の前の彼が覚醒する様子をじっくりと観察する事に集中する。この時ばかりは、何も考えたくは無かった。
 周囲の様子をしばらくの間キョロキョロと見回しながら伺っていた彼と、カイトの視線がゆっくりと絡み合う。その瞬間、覚醒したらしい彼は、その場で勢い良く起き上がったのだった。

「カイト! ねえ、大丈夫!?」
「んん?!」

 彼は起き上がる勢いのまま、両手でカイトの肩に掴みかかった。その顔はどうしてだか、酷く動揺しているように見えた。揺れる瞳の奥で、隠し切れない不安が見え隠れする。
 そんな彼の不安をどうにかして取り除きたいとは思えども、記憶の無い今のカイトには、その不安を取り除く手段なんてさっぱり思い付かない。それどころか、何故自分がそんな事を思うのかすら、分からない。自分がどういう人間なのかも分からない。自分という人間の輪郭が、酷く不安定だった。

 そんな事をボンヤリ考えるカイトをよそに、彼はカイトの身体中を一通り確認したかと思うと。その場で一気に弛緩した。

「ッ良かったぁー! 何処も、怪我ないみたいで……、ってか、ここ何処!? 俺ら街中歩いてたはずなのに……あの時ーー」

 そう言って騒がしくもキョロキョロと周囲を見回す彼は、非常に怪訝な様子だった。どうやら察するに、彼とは此処へ来る以前、カイトと行動を共にしていたらしい。
 そんな彼の様子を、カイトはまるで傍観者のような心地で眺めていた。彼が自分を気にかけてくれて、ホッとしてくれて嬉しい。けれどもそれを、何処か他人事で済ませてしまいそうな自分もいて、どうにもむずむずとして仕方ない。自分の感情をここまで揺さぶるこの男は一体、誰だったのだったか。どうしても、カイトは思い出せなかった。記憶に靄が掛かったように曖昧だった。けれどもこの状況、このままではいけないというのは、カイトにも分かっていた。彼ならば。この目の前の彼ならば、今のカイトをどうにかしてくれる。それは漠然とした信頼だった。
 そしてとうとう、カイトは静かに口を開くのである。

「誰、だっけ?」
「ーーーーは?」

 目の前の彼が、じわじわと目を見開いていく様子を、カイトはただジッと見詰めるだけだった。

「え? え? 本気で、言ってる?」
「……うん」
「っな、だって、俺らずっと一緒に居たじゃん! この前だって……一緒に誕生日祝ったし、今日だってさっきまでーーえ、ホント? それ、本気で言ってるのーーーー?」

 焦った調子でカイトの肩を揺する彼は、カイトに嘘を付いている気配はない。呆然、と云うよりは寧ろ、絶望、といった形容が似合う表情をしている。
 カイトは悲しくなった。彼にそんな表情をさせるつもりではなかったのに。けれども今、彼を悲しませているのは、明らかに自分だ。それがどうしようもなく、歯痒かった。
 それでも表情を変えないカイトに、彼は続けて言った。

「ーー俺……俺だよ、ハルキだよ。お前の幼馴染で、高校もおんなじとこ進んで、大学だって、決まってただろ? 今度一緒に卒業旅行行くって、計画してて……もうすぐ冬休みだからって、二人で色々計画してたじゃんか」

 泣きそうな顔で語るハルキは、カイトの記憶には無い様々な思い出を語っていった。子供の頃の出来事、小学校に上がってからの話、二人で初めて電車に乗って遠くへ行った話、旅行での話などなど。覚えはなくても、何処か心の中で引っかかる部分があって。カイトはムズムズとした気分を味わい、無意識に胸の辺りを手で掴むような仕草をした。
 そして、そんなカイトの様子を見て、もう少しだと思ったのだろうか。ハルキは懐から何かを取り出したかと思うと、ズイとカイトの胸元に押し付けて来たのだ。

「ほら、これ! 二人で買ったじゃんか……お揃いで、御守り、二人で同じ大学行こうってーー」

 無理矢理渡されて、それを手に取った瞬間。靄がかっていたカイトの頭は、あっという間に晴れ渡っていったのだった。

 ハルキと過ごした幼少期、両親を早くに亡くし悲しみに暮れるカイトを助け、支えてくれたのはハルキとその家族だった。学校に上がってからも二人はいつも一緒で、馬鹿やってよく教師に怒られていた。色んな無茶をやって、それでもいつも一緒で在る事を確信していてそして、どうしようもない程の恩を感じているーーーー。
 その瞬間、カイトは目覚めてから今まで考えていた事を、すっかりと忘れてしまったのだった。いつもの、高校生であるカイトが表に姿を現す。

「あーーあれ? ハルキ? ……今俺、何してたんだっけ……?」
「ッ、思い出した?」

 涙ながらに縋り付いてくるハルキに、カイトはその場でたじろいだ。

「はぁ? 何馬鹿な事言ってんだよ! ……ってか、ここ何処だよ」
「バカァァァー! マジ焦ったんだからああああぁぁぁーー!」
「!?」

 どうしてだか、一層大げさに喜びしがみ付いてく親友を目の前にして、カイトはギョッと驚いていた。二人きりの時でさえ、このように抱きつくような事なんてしないのだから余計に。らしくもない。それでも、ハルキが自分の事を心配してそうした事くらいは今のカイトにも分かるので、少しばかり照れながら彼の身体を無理矢理に引き剥がしたのだった。ぶっきらぼうな言い方と、恥ずかしさを誤魔化すためにする話題逸らしの指摘は、いつものカイトの常套手段だった。

「んだよ、らしくねぇなあ……ってかさ、その格好なに?」
「え? 格好って?」
「髪と目……お前ってカラコンとかウィッグつける趣味あった?」
「は? ーーって、何この髪ッ!」

 カイトの指摘を受けてはじめて、ハルキは自身の容姿の変化を確認したらしかった。その場で、ハルキはギョッと声を上げる。その髪が、異様に伸びていたのだ。おまけに髪色ですら、全くと言っていい程に違う。
 立派な日本人男子であったハルキは勿論黒髪であったし、教師にも目を付けられる事のない、極一般的な短髪に切り揃えていた筈である。決して、プラチナブロンドであった事はないし、長く伸ばしたような覚えもない。
 似合ってねぇぞ、なんて軽口を叩きながら、カイトはそれを笑い飛ばそうとした。

「マジ何だよその格好、コスプレ的な? ハルキ、実はそんな趣味あった?」
「いや、違、これ、俺がやったんじゃないって! ってか色々怖っ! ーーってかそういやここどこなん!? 結構ガチでホラーなんだけど」
「それな」
「ヤバい俺これ夢でも見てんのかな? カイトほっぺ抓っていい?」
「あ? そんな原始的なボケ……ちょ、自分のを抓れーー触んなっ、いてぇ、バカ、やめろっ」

 そうやって二人は、不安を吹き飛ばそうと普段通りのバカ騒ぎをしていたのだ。何も分からないという中で、不安に押し潰されないようにわざと、明るく振る舞う。
 そして、そんな二人の空元気も、話題が尽きかけて来たところで。海岸の先の方から随分と物珍しい異様な集団がやって来るのが目に入ったのだった。
 それに気付いた瞬間、二人は同時に黙りこくる。こんな、どこかも解らぬ場所で不安で仕方ない時。見知らぬ集団が小規模ながら群を成して、二人の青年の前へと現れたのだ。不安にならない方がおかしいだろう。無意識に手を繋いだのはどちらからだったか。二人は警戒しながら、件の集団の様子をジッと眺めたのだった。

 それらは皆、何かしらの武器を所持し、防具を身に着けている者達だった。中には全身甲冑鎧を身に着けている者さえいて、その装いはまるで、カイト達の知る中世の欧州で見られたようなものばかりだった。
 現代の日本の洋服を見慣れている二人には、まるで何処かの劇団員のようにしか見えない。そんな二人の思惑に気付いているのか居ないのか、彼等は不躾にも容赦なく、ゆっくりとすぐそこまで迫ってきていた。ジリジリと後ずさる二人の目の前、数メートル程の距離まで迫った頃。
 彼等の中でも特に、位の高そうな男が一人、カイトとハルキの目の前へと一歩進み出てきた。金の髪を肩口に切り揃え、同じく金色の眼で真っ直ぐに見つめるその男は。力強い視線を向けながらその場で片膝をつき、二人にーーすっかり姿の変わってしまったハルキに向けて一言、言い放ったのだった。

「お迎えに上がりました」

 まるで、騎士が姫に向かって行う誓いのような雰囲気でもって言った男のその言葉に、二人は互いに目を見合わせる。ハルキとカイトはその場で、あんぐりと口を開けて呆然と呟く。

「マジかよ……」

ザザーンと波が砕ける音を先程よりも遠くに感じながら、ハルキの小さな呟きは空気中に溶けて消えていったのだった。






* * *







「いや、待って、ほんと無理。ドッキリでしたーって言われた方が信じるくらい無理、信じらんないわ」
「ド、ドッキ……?」

 その異様な様から劇団員と二人に形容された一団は、とある国の国王直属の騎士だと名乗った。
 サザンクロス王国ーーそれは、大陸の南にある大国のひとつだという。彼等の王国には占術師がいた。国に仕える神殿が管理する、未来を見通せる唯一無二の存在。その男が言ったのだという。今日この日、数百年に一度の神子様がこの国に降臨すると。それが此処にいるハルキだと。そして、そのような神聖な存在を守る為、彼等が代表として迎えに参った次第だという。

 それを聞いてまず、カイトは鼻で笑った。現実離れした内容だからというよりは、他力本願な彼等の有り様に、嘲りのような笑みが自然と溢れてしまったのだ。カイトは、神だの聖人だのというものをさっぱり信じていない。それを改めるつもりなどないし、合わせる気も更々ない。それどころか、少なからず嫌っているのかもしれない。
 聖なるものは決して人を助ける事はない。昔も、今も変わらない。
 何故だかそこで、酷く荒んだような気分になってしまった彼は、会ったばかりの筈のハルキに熱い視線を向ける連中に向かって、ハッと小馬鹿にしたような笑みを向けてしまった。
 そして当然、カイトのそんな無礼を彼等が良く思うはずもなくて、一層厳しくなった視線がカイトに向けられた。しかし何故だか、それに何ら恐れを抱く事なく、カイトはハルキに向かって囁いたのだった。

「何これ、異世界トリップクソ小説?」
「カイト言葉遣いぃ」
「や、だってよー……」
「うん、言いたい事は分かる、分かるから今はちょっと抑えてよっ! 色々、こっちからも聞かないとだし……」
「あー……、分かった、分かったよ。向こうはハルキに用あるみたいだし、その辺、任せるわ」

 そんなやり取りの後で。神子と呼ばれたハルキは、彼ら遣いの者達と何やら交渉しているようだった。それをどこかぼんやりとした心地で、カイトは聞き流していた。この不可思議な状況での大一番、普通なら相手の言葉ひとつひとつから得られる情報はとてつもなく大切なものであるはずなのに。カイトは全くと言って、それらを聞く気分にはなれなかった。カイト本人にもその理由は分からない。
 けれども、その必要はないと、彼は漠然とした確信を抱いていたのだ。聞かなくても判ると、カイトには何故だか、解るという自信があったのだ。ただの勘違いなどではない。彼はすべて存じて居るようなのだーー。

「ーーて、カイト……おい、カーイートーッ! 今大事な話してんだけど、聞いてた!?」

 そう、強めにハルキに呼ばれてようやく我に返った。
 カイトは、それまでの遣り取りを全くと言っていいほど聞いていなかったのだが、素直にそんな事を言えばハルキが怒るのは目に見えている。故にカイトは、咄嗟にウソをつく。ちゃんと彼等とのやり取りを聞いていたと、この世界の事を理解しているのだと。

「おお、聞いてる聞いてる、俺の事は気にすんな」
「ホントに? コレさぁ、カイトにとってもかなーり大事な事だったんだけど……」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと分かったから」
「大体って……」

 そう言ってヘラヘラと笑いながら、カイトは目の前の騎士達をさりげない仕草で観察した。
 自分には到底ある筈のない知識が、頭に浮かんではすんなりと己の中へと吸収されていく。それを、当たり前の事であるかのように自然と受け入れつつ、カイトは思考を続けた。

 鎧の形態と刻まれている紋章から、追従しているのは国王直属の近衛を長に据えた国王軍だと思われた。騎士と名乗っては居るが、そうでない者も混ざっている。
 神殿よりの遣いと思しき神官が2名、そして恐らく国王陛下直下らしき文官も1人混じっている。文官らしきソレは、黒地に豪華な金の刺繍をあしらえたローブを身につけている事から、宮廷庁辺りであろうかと推測された。
 それ以外、ほとんどが騎士だった。紋章と、旗持ちにより掲げられた旗色より、国軍内部でも幅を利かせる第一師団であろう。故に皆、戦い慣れた優秀な騎士達だと見受けられた。
 しかし何よりも、カイトが最も気にかかったのは、彼らの頭上を飛び回り、時折旗の先端にとまる鷹の姿であった。それはずっと、カイトとハルキの動向を監視している。そして、彼はすぐに理解した。彼等には大魔導師が付いているのだと。それならば、彼等の余裕の態度も頷ける。
 こんな、神子を迎えに行くだなんていう襲われやすい危険な任務を、彼等が余裕の表情で請け負っているその理由。大魔導師程の存在が味方であるならば、距離が離れていようとも、簡単に助けが駆け付ける。
 カイトは無意識のうちにそんな思考を巡らせながらも、そんな事をおくびにも出さなかった。
 まるで識者であるかのような思考を持ちつつ、カイトはその場で素人のフリをするのである。彼の考え方の異様さと違和に全く気付かれることもなく、そして最初から無害な人間であるかのように、カイトはこの場で道化を演じた。

「ーーーーんで、結局、俺らはどうすりゃいいの?」

 そう、不安そうな表情を作ってカイトが言ってやれば、彼等は目に見えて動揺した。この事態は、彼等にとっても予想外であったようだ。まさか、カイトのような男が、神子であるハルキと共にこの地へ来てしまうとは、と。そんな男達の弱味につけ込むように、カイトは言葉尻を強める。不安に怯えて語気を強める少年のように。不幸な目にあってしまった可哀想な少年のように。人畜無害、か弱い人間のフリをするのである。

「まさか、帰れない、ってんじゃないだろ? 俺もハルキもここに来れたんだから、当然、帰れるんだよな?」
「そ、そうだ! 俺だって早く帰んなきゃ親が心配する!」

 カイトの言葉に続き、ダメ押しかのようにハルキが言葉を重ねれば、一団は相談でもするかのように言葉を交わし始めた。それを見ながら、カイトは更に考える。
 多大な犠牲を払い他所から見つけて来た神子を、みすみす帰す訳にはいかない。それに、帰すにしても術を発動させるに何年もかかるのだ。そんな苦労を、困窮しているコイツらが喜んでするとは思えない。ならば、彼等はどうするか。嘘で神子を納得させるしかない。彼等へ与える情報を制限し、飼い殺すのだ。

「神子様、申し訳ありませんが、お帰り頂く方法は現段階ではございません、何卒ご容赦を。我らとて、なりふり構わぬ程に状況は逼迫しているのです」
「そ、そんなーー!」

 弱々しく悲鳴を上げたのはハルキだった。何も知らぬ中、見知らぬ土地、文化、能力を持つ者達と共に修羅の国で生きねばならないその不運を、どうして受け入れられようか。自分ならば到底納得し得ぬだろうな、そんな事を考えながら、カイトは茫然と立ち尽くす相棒の袖ぐりをギュッと握り締めるのだった。

 大丈夫、俺がお前を解放してやる、お前だけでもちゃんと家へ帰してやる。全く違和感なくそう心に決め、カイトは完璧に気配を隠しながら、目の前の騎士達を剣呑な心持ちでもって見遣ったのだった。





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