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03


「サガラさぁぁぁぁん!どこ行ってたんすかぁ!?」
「ボス今度いなくなったら身体にGPS埋め込んでイイデスカ」
「…………」
「アイツらマジで半殺しにして、あんなこととかこんなことさせた写真撮って脅しておきましたから、もうここには絶対やって来ませんよ!だから安心してください!僕らはサガラの過去なんて微塵も興味ありませんから」
「オイてめぇどういう事か説明しろや。オレの組にゃ何も情報掴ませんかったクセに、あんなガキどもに易々とバレやがってからに……俺らの面目丸潰れやこのボケェェェェ!」

3日程外を放浪し、久々に廃工場へ来てみればこの有り様。少しだけ、俺が居ない事を寂しいと思ってくれてたら良い、だなんて淡い期待を寄せていた。今はそんな、淡い期待を別の意味で粉々に打ち砕かれた気分だ。

最近が平和すぎてすっかり忘れてた、コイツら異常者だった。泣いてるヤツも色々アレだがまだマシな方だ。俺の自称下僕連中なんか真顔でとんでもない事を提案してくるし、キラキラした笑顔でえげつない報告をしてくる、しかも何故か仕事で携帯を押し付けてきた取引先の組の面々までいるし。

ハッキリ言おう、コイツらウザいし気持ち悪い。

思いがけない衝撃で、声すら出せない。元々、あまり口を開かない俺だから、まず何を言って良いかも分からなかった。他のマトモな奴らは隅っこの方でひそひそとやっている。当事者であるはずが、酷い疎外感を感じた。


以前、半殺しにしたしつこい男の組関係の騒ぎで、駆け付けてくれた組の人間達や、裏に繋がりの強い自称下僕達に、どうして俺の為に動いてくれたのかと聞いた事があった。その時はまだコイツらの異常性がよく分かってなくて、それが不思議で不思議で仕方なかった。けれど、口々に言う彼らの言葉の意味が良くわからず、しかし得体の知れない不気味さだけはハッキリと感じた。

『ええと、サガラさんはなんかこう、なつかない野良犬みたいで、意地でもなつかせてやるっていう気になります』
『構い倒して、取り敢えず愛でたい』
『ミステリアスなのもよいが全て暴きたい……やべぇもえる』
『……正直、――かんきんしてなめてたい』
『持ち帰って自分にだけ尻尾を振るように調教してやりてぇ』

よくもこれだけクセの強いやつらが集まったと、自分でも思う。よく分からない身の危険を感じた事もあったけれど、根掘り葉堀り追及してこないその環境は心地好い。それに――、コイツらはきっと俺の昔を知っても、俺が逃げ出した事を知っても、サラリと流してくれるっていう、漠然とした確信を持っているから。

このままじゃいけないとは思うけれど、踏み出す勇気も切欠がない。それがあれば、とは思うけれど、切欠を見つけて、それにタイミング良く飛び付く事が出来るかどうか。先の事は分からないが、今はまだこれでいい。こうしていたい。

「――、――さん?サガラさん、僕らの話聞いてました?」
「……いや」
「出たーボスのノーガード戦法ー、ぼーっとしてるとホントに喰われちまいますよ、『あの人だけ〜は〜、ダイジョーブだなん〜てーうっか〜り信じたら〜、ダメダメ、ダメ、ダ〜メダメよ』」
「…………」

色々考えていたら、どうやら周囲の声を全て吹っ飛ばしていたらしい。軽く諌めるような自称下僕に適当に返事を返した。そんな俺達の傍で、無表情に声に抑揚もなくハイテンションに歌い出す気持ち悪いこいつは無視だ。

「……イツキが気持ち悪いのはいつもの事ですが、イツキの言う事には一理あります。サガラさんは気を許した人に甘っチョロくて無防備すぎるんです。ここの連中や仕事の人達といる時ももう少し、警戒してください」
「……は?」
「オイこいつ無意識か?」
「そのようです」
「そりゃあタチわりぃ……」
「龍崎(リュウザキ)さん、共にがんばりましょう」
「ああ。テメェ分かってんじゃねぇか……ウチ(組)に一度来いよ、コイツに24時間監視つける方法について話し合おうじゃねえか」
「オイ……」
「その話乗った!オレも入れてクダサイ、ボスの1日の行動把握したい」
「イツキはダメです、絶対ストーカー化します」
「……タチバナだってこのまえボスの寝てる部屋――もがっ」
「イツキ、テメェ死にたいんですか?」
「オイ待て……タチバナ何かしたのか?」
「……まぁ取り敢えずお前、タチバナって言ったか?」
「はいタチバナです」
「今日時間あんならサガラを追い詰めた後でオレと来いよ。こん中でも一番お前ができそうだ」
「はい、サガラさんのためなら死んでも空けますからご一緒させていただきます」
「…………」

前言撤回、俺はコイツらと巧くやっていける自信がない。俺を無視してとんでもない計画を立て始めるコイツらが心底、気持ち悪い。だからとっとと連中から離れよう、そう思ってそっと立ち上がった。おおっぴらにとんでもない相談をしている連中に気付かれない内にどっかに行ってしまおうと、そう考えてソロリと足を踏み出す。

「ボスー、つぎ逃げたらかんきんしちゃうよー」

しかし突然、阻むように足を捕まれ、抑揚のない声を耳にした。振り返って、声のした下方を見れば、イツキと呼ばれた彼が、タチバナに身体の上に座られながらうつ伏せで、俺の足首を両手で捕まえこちらを見上げていた。
いつもと変わらぬ無表情だが、声音にイツキの本気が感じ取れた。背筋に冷たいモノが走った。無駄に鋭いイツキが心底恐ろしい。何となく、逃亡は不可能だと判断し、再びゆっくりと腰を下ろした。

瞬間、イツキが薄ら笑ったような気がして、更に背筋が寒くなった。






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