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03.類は友を呼ぶ



 それはほんの一年前の事であったというのに、三上はほとんどその感覚を忘れてしまった。

 目が覚めて朝食を食べて、皆連れ立って学校へ行く。休憩時間には下らない事を話して、時々休みの日の予定を合わせながら空いた時間を過ごす。時たま巻き起こる学校の騒動を面白おかしく煽ったり、噂話に耳を傾けたり。

「ーー!ーー、ーーーーっ!」

 それはそれは、夢のようなーー。

「っ三上隊長、お下がりください!ここは自分が」
「いい。退いてろ。一瞬で終わる」
「っしかし、これ以上隊長のお身体に負担をかける訳にはーー」
「この程度何ともない。最早時間切れだ。これ以上構ってられん。退避しろ、ブチかますぞ」

 言うや否や、三上は魔力を込め始めた。常人に真似出来ぬような、巨大な魔法陣が浮かび上がり、隊員達は一斉に退避を始める。最早、敵方の命に構っている余裕など、今の三上には残されていなかった。一年という期間は、三上を疲弊させるのには十分であったのだ。バチバチとほとばしる電流に、茶色に染められた髪が逆立つ。

「森ごと消し飛ばしてやる」

 運が良ければ、敵も生き残れるだろう。そんな事を考えながらも、三上はその周囲一帯を吹き飛ばすつもりだったのだ。




 敵はゲリラ戦の構えを見せ、三上らは敵の位置の把握に四苦八苦していた。かの国の内紛がこれほどまで泥沼の様相を呈すとは、三上にも予測出来なかったのである。きっと政府は、反政府派の要求を受け入れ和解に持ち込むだろうと、三上は読んでいたのだが。

 この一年間で、反政府軍は諸国より支持を取り付け、援助を受けながら資金集めの地盤を固めた。元々国に対して不満を抱えた民衆は、こぞって反政府軍に協力したのである。民衆の締め付けを強め、見せしめのように反対派の粛清を続けた政府は、最早味方などいないようなものであった。
 しかし諦めの悪い政府側は、あろう事か、三上らの所属する国家戦略実行部隊へと協力を求めたのである。かの国より多くの資源供給を受ける国は、敗けると分かっていても協力をしない訳にもいかなかった。故に、戦力の高い一番隊へと出動命令が下された訳であるのだが。敗け戦に人員など割けるはずもなく。三上と、大隊規模の隊員を各隊より派兵する事で合意された。
『内紛の鎮静化に務めよ』
 これが三上に下された命である。だがこの戦況を見る限り、それが不可能だという事は目に見えている。国はハナから、それが出来るなどとは思っていないのだ。派兵したという事実が、国にとっては重要なのである。




 珍しく息を乱しながら、三上は指示を飛ばす。吹き飛んだ木々の破片が、あちこちに降り注いでいた。

「生存者を探せ……生け捕れ。もし、抵抗するようであれば、構わん、ヤれ……行け!」

 初めて見る光景に惚ける隊員も居る中、三上は声を張り上げる。殆ど魔力を使い果たしたせいか、額から汗が滴った。一番隊から送られてきた隊員は皆、その疲労に気付いている。他の隊員達よりも素早く行動に移っていった。

 魔法陣の中心地で膝を立てて座りながら、三上は残りの魔力で情報をかき集める。先ほどの一撃で、敵の殆どが動きを止めている。動いているのは、生き残った者たちだろうか。しかし、攻撃できるだけの魔力を動かす者は、最早皆無であった。

 三上は、そこでようやく力を抜くと、深く深く息を吐き出した。疲労の滲む動きで髪をかき上げれば、汗でその手が濡れた。そのまま、震える手の中に視線を落として少しだけ考える。
 これでまた、自分は国の言いなりに、必要のない争いに手を下したのである。国の連中の思う壺。この一戦でまた、国は己らの従わせて居る戦力を他国へ見せ付けた事になるのだ。

 毎度ながら後味が悪いと三上は思う。そもそも、この戦いそのものが無駄な諍いだった。そのような諍いにわざわざ首を突っ込み、諦めの悪い足掻きに加担した。不毛である。
 この一戦だけで戦況が覆る事はないだろうが、この国への義理は果たした。そうすれば、三上は時期に国へ戻される事になる。これで再び、一番隊隊長としての自由が許されるのである。ホッとする反面、じわじわと身の内を蝕むこの世界への不信感が、積もってゆく。



 状況を確認し終えた隊は、己の陣地へと帰還した。あの場で生存を確認できたのは僅か10人余り。手加減も出来ぬ一撃を、生き残っただけでも大したものである。彼らを捕虜とした三上らは、政府側へと彼らの保護を念押しした上で、彼らを引き渡した。

 その時点で既に、三上の体力は限界にも近かったのだが、必死で平然を装い、いつもの調子で政府側との会談を行った。そうして会談が終わるや否や、三上は己の為にと用意されたテントへと直行したのだ。そこに設置された簡易ベッドの上に倒れ込み、三上は毛布も掛けず、食事も取らず、死んだ様に眠りについた。それが、今の三上に必要な事であったから。
 たとえ鍵のかからぬ場所であれ、三上の部屋へ入ろうと考える者など居ない。紺野の監視も、一番隊の隊員達の目もある。それ以上に、鬼と畏れられる三上の寝込みを襲おうとする者など、最早香久夜以外には居ないのだから。

 三上はその時から丸一日、眠り続けた。





* * *







「三上、ご飯だってよ。食べないの?」

 その時三上は、自分の名を呼ぶ声に、意識が引き戻されるのを感じた。

「三上、ほら、低血圧なのは分かってるけど、食べないとダメでしょ?昨日もご飯食べずに寝たって」
「あ……?」

 覚えのあるやり取りを何処か懐かしく感じて、それと同時に奇妙な感覚を覚える。
 この他愛無いやり取りを、それ程に己は欲していたのかと、夢にまで見る程に渇望したのかと。

「あ、じゃなくて返事して、食べるんでしょ?なくなっちゃうよ」
「……あー……」

 三上は回らない頭で考えながら、返事をするようにモゾモゾと動いてみせる。言われた通り、三上は確かに腹が減っていたのだ。昨日どころか、しばらくまともな食事をした記憶がない。三上はその言葉に反論をしたくて、のそりと上体を持ち上げた。俯いたまま目を擦り、薄らと目を開ける。外は随分と明るくて、どうやら朝と呼べる時間はとうに過ぎているように思われた。

「……食う。はらがへった」
「うん、知ってる。一体、何時間寝たのさ……三上、僕だってさ、1年間頑張ったんだよ」
「…………あ?」

 髪をゆっくりとかき上げて、その言葉をよくよく考えた所で。三上はようやく頭がまともに機能するようになる。確か自分は戦場に居た筈だったのだが。この、覚えのある、自分の心を落ち着かせる声は一体誰のものだったか。記憶を手繰り寄せる。

「お前ーー」

 その一年という期間で、身体は少なからず大きくなった気がする。少し、日焼けをした。きちんと訓練を積んだのか、詰襟の軍服もしっかりと身体に馴染んでいる。幼い顔立ちの中にも、しっかりとした男としての精悍さも相見えるようになった。
 その幸福な記憶の中で、浅見との半年間は、色褪せる事なく、今でもしっかりと色付いている。忘れる事なんて、出来る筈がない。

「何故来た」

 三上はまず、そんな事を言った。それは、心からの本心だった。

「三上に全部責任とってもらう為」
「…………」
「僕を傷モノにしてくれた責任と、三上のせいで友達が消えた責任と三上のせいで僕の気持ちが変わっちゃった責任と僕が師匠から大目玉くらった責任」
「……おい、ふざけるのはーー」
「ふざけてない。僕がちゃんと決めたんだ。三上が言ったんだから。……三上のせいだから」
「…………」
「僕はあんな形で三上と離れたく無かった。さよならも言わせてくれなかった。三上の所為だから」
「俺はーーーー」

 そこから三上は、何も言えなくなってしまった。
 それ程までに疲弊していたのか、三上はそのまま両手で頭を抱えると、蹲るように頭をベッドへ押し付けた。顔を、見られたくなど無かったのだ。寝起きが故にだろうか。聞いた事もない、何処か浮ついたような覚束ない声音だった。

「やはり、お前達にはあの話をすべきでは無かった」
「なん、で、今更そんな事……」
「お前達は、平和な中で暮らしていく権利があった。汚い外など知らず、幸福な日々を生きるだけの、その権利があった。それを約束されていたのだ」
「…………」
「俺がそれを、壊した。切っ掛けを与えてしまった。だから判断を誤ってーー」
「違う!」

 そう言うや否や、浅見は三上の肩を掴むと、力任せに起こしたのだ。その腕は頭から外れるも、それでも三上の頭は俯いたまま、浅見を見ようとはしなかった。

「言ったでしょ、僕が自分で決めたって。三上が強制してもしなくても、僕の事は僕自身で決める。師匠にだってそうだ。三上は切っ掛けひとつで相手を制御出来るとでも思ってるの?そんなの、ただのーー」
「出来る。それが俺にはできる。だから今迄十分注意してきた。俺がーーーー」
「三上隊長」

 その時突然、三上の言葉を遮る声がかかった。
 その場に居た全員が、声のした方、テントの入り口へと目を向ける。そこには、入り口の幕を上げながら、紺野が立っていた。彼はそのまま無遠慮に足を進めてテント中程で立ち止まる。そうして、未だに顔を上げない三上を、真っ直ぐに見つめて言った。

「それは、いけません。彼等にはそれを伝えてはなりません。違いますか?」

 三上は顔を上げなかった。それでも、いくらかは落ち着いたのか、紺野の問いにもきちんと応えた。

「……そうだ。それは駄目だ」
「ええ、駄目です。ーー貴方がた、三上隊長も疲労されています。寝起きは特に、冷静な判断もできませんのでご退出を」

 そう言うのと同時に、紺野は浅見以外の者達を外へと連れ出した。不思議と、浅見にその声は掛からなかった。

 人の気配の薄くなったテント内で、三上は未だ顔を俯けたままだ。浅見もまた、三上の肩に手をかけたまま、ジッと三上の様子を見つめている。しばらく、沈黙が続いた。


「三上」
「…………何だ」
「全部聞いた。二番隊隊長にも、師匠にも、紺野さんにも」
「…………」
「僕だけ。僕だけだよ、皆の中で僕だけが全部知ってる。会長も副会長も、西園寺も風紀のあの人も来たけど、僕だけがみんなみんな知ってて言ってる。深く考えないでよ。ただ、一緒に居たかっただけなんだからーー」

 そう言うと、浅見は三上を抱き寄せた。殆ど力の入っていない身体は、浅見よりも大きいのにも関わらず、すんなりと抱き寄せられた。腕が三上の首に、肩に回されてギュウと力が込められる。痛くは無い。けれど少しだけ苦しく感じた。
 夢心地に暖かいと三上は思う。

 他人とこのように抱き合うだなんて、三上は考えた事も無かった。子供の頃から一人だった。小さな頃から国に囲われていた。化け物だと蔑みつつも、三上に頼らなければ生きられない彼等を、三上は心底嫌っていた。
 姿をコロコロと変えるのは、生き残る為だった。化け物だ何だとは言われようが、軍人のそれと、子供だった三上の体格差は大きかった。子供だ化け物だと厭う者も多く、庇う者は居なかった。親代わりの二番隊隊長はそれでも彼を庇護したが、いつでも一番隊の三上の傍に居られる訳では無かった。
 殺されぬ為生き残る為にと突き詰めていったその結果として、鬼の三上が出来上がった。鬼であれば誰も寄り付かない。どうせ嫌われて居るならば、化け物と呼ばれるのであれば、化け物が鬼であっても大差は無い。

 だから、三上は鬼に成った。己の身の為に。

「…………」
「三上?」
「……お前、浅見、お前の事を教えろ。何故あのジジイに師事していた」

 三上は浅見の腕を外すと今度こそ、ちゃんと顔を見てそう言った。きっと戦い続きで薄汚れている。睡眠も碌に取れなかったからやつれても見えるだろう。それでも、三上は浅見の顔をしっかりと見ながら言った。
 浅見はそれを、少し驚いたような顔で言うと、笑いながら答える。

「ふふふ、三上が僕の事聞いてくるなんて、変な感じ」
「おい……」
「だって三上、いつも何も聞かないからさ」

 少しだけ膨れたような顔をしてから、浅見は続ける。

「僕はね、師匠に拾われるまでは施設で育ったよ。孤児だったから。その時から、魔術師になれるって言われてた」

 浅見は思い出すように、少しだけ微笑みながら語った。三上はそれだけで、浅見のような子供達だって、きちんとした生活を送れている事を実感する。今まで考えた事の無い、視点だった。

「そんな時に師匠がやってきて、家に連れてかれて、何が何だか分からないまま色々教わって。凄い人だって知ったのはずっと後だったよ。僕さ、人前に立つのだって苦手だしおどおどしちゃうし、施設でもよくいじめられてたんだ。小さいから。まぁ、魔術使えるっていうのでやっかみもあったんだろうけど」

「でも、僕自分で決めるのって苦手でさ、三上も知ってるでしょ?だから色々流されて、師匠にも言われてあの学園に入って……」

 時折長めの沈黙を挟みながらゆっくり、浅見は言う。三上は何も言わずに、黙って聞いているだけだった。

「でも、せっかく三上と会えたのに、行っちゃうって言うんだもん。もう会えないなんて言われたらショックじゃんか。だからさ、ああ僕はこのままだと駄目なんだって、大事な人にすら会えなくなるんだーって、思ったら何かもう悔しくて。ケンショーの事なんかもう頭から吹っ飛んじゃって」
「……おい」

 さしもの三上も声を出さずには居られなかった。僅かな間とはいえ、浅見がどれほどソレにうじうじしていたかを三上は良く知っていたのだ。

「だって……三上の所為だし」
「俺の所為って……此処に、西園寺も来てんだろ」
「うん」
「じゃあ……」
「うーん……そりゃあさ、僕も初めての友達だったし?ずーっと気にしてたけど……いつでも会えるじゃん?」
「……現金だな」
「べつに急いでないし」
「おい」
「僕お付き合いとかよく分かんないし」
「おい……お前、誰かに奪られるなんて事は思わないのか」
「ケンショーはものじゃないし」

 ツン、と口を尖らせる浅見に、三上は何とも言えない表情をする。あそこまで悩んでいる素振りを見せながら、こうもあっさりと割り切れる人間を、三上は他に見た事が無かった。人間は誰も彼も傲慢で凶暴、本能を上手く隠しながらも平気で人を傷付け、争いを好む愚か者。三上が生きた中で分かったのは、そんなどうしようもない結論だった。
 それだと言うのに。浅見は、そのどれとも違う。
 三上は少しだけいつもの調子を取り戻すと、笑いながら言った。

「お前は馬鹿だな」
「ぐ……突然の暴言」
「お前達、だな。馬鹿者だ。わざわざ軍人になんてなる必要無かっただろうに。俺も、お前達も、大馬鹿野郎だ」
「ほら、あれだよあれ、類友ってやつ」
「全員揃って馬鹿野郎か」

 それから2人でクスリと笑って、それっきり黙ったまま、しばらく見つめ合った。ようやく三上も、その事実を受け止める事が出来たのだ。後悔は未だある。けれど、それが彼等の選択なのだとすれば、それ以上三上に言える事はないと、思えたのだった。

「三上」
「ん?」
「今の姿めっちゃ腹立つ」
「は?」
「なにその筋肉」
「羨ましいだろう」

 突然の浅見の言葉に、三上は少しだけ驚く。浅見が言っているのは、三上の現在の姿についてだ。三上は外へ出る任務の際、殆ど元の姿を晒す事がない。己の身を護る為に始めた事だったが、これが案外有効で。特に、現在のような大柄な男に成った時には特にその効果が発揮されるのだ。外部との連携など取らされた日にはもう、効果抜群なのである。
 浅見は、それを指してそう言った。そして、あっという間に高校生らしくおちゃらけた雰囲気に持って行ってしまった。そんな浅見の空気が、三上の記憶を一年前へと引き戻していく。

「見せかけでしょーどうせー」
「…………そこも、負けてねぇぞ」
「僕知ってるもんね、三上は僕と同じヒョロヒョロタイプだ絶対」
「ーーお前、覚えてろよ」
「図星ー」

 そうやって2人は、会えなかった時間を取り戻すかのようなやり取りを、しばらくの間続けたのだった。


「ねぇ三上」
「ん?」
「もう勝手に居なくなっちゃ駄目だよ」
「……ここは俺の家だ。居なくなるとしたお前だろう」
「んー……多分、それは無いかな」
「そう言う言葉こそ信用ならん」
「僕って頑固だから、一回言ったことはぜーったい撤回できないんだからさ」
「よく言う」

 そう言いながら、2人は笑い合った。誰も寄り付かないテントの中で、互いがどれ程大切かを思い知った。誰かが2人を割く事なんて出来はしないし、頑として離れない。それは予感だった。



 それからの2人の話。

「おい浅見!お前がどうにかしろ!」
「無理無理無理!僕ブレーンだもん、そう言うのは脳筋の三上の仕事じゃんか!」
「この野郎っ、こういう時ばっか調子乗りやがって!」

 そんな2人の様子は、すぐに一番隊の名物となった。敵陣だろうが何だろうが、2人はいつもの調子を崩さない。
 片割れが居さえすれば、絶対に誰にも負ける気なんてしないのだと、2人は信じて疑わないのである。

「またやってる……相変わらず、2人仲好いねぇ、羨ましい」

 学園の生徒会副会長だった男が言った。

「お前がそんな事言うの珍しいな」

 生徒会長だった男は、そんな彼を驚いたように見ながら、そんな事を言った。彼等の普段のやり取りだ。

「だって可愛い」
「は?」
「え?」
「んん?」

 突然の彼の言葉に驚いたのは、隣に居た元会長だけでは無かった。例え緩衝地帯だからとはいえ、戦場に居るというのにその緊張感のカケラも無い台詞。すぐ近くに居た件の西園寺と、結界術の得意な風紀委員もまた、思わず声を漏らした。

「あのやり取りが。なんかちっちゃい子達のわちゃわちゃ見てるみたいで」
「「「ああーー、」」」

 他の3人がじわっと同意すると、元副会長は穏やかな笑みを浮かべ、2人のやり取りを見ながら言葉を続ける。

「欲しくなっちゃう」

 途端、その4人の殆どが絶句する事になったのだが、張本人の彼は普段の調子を崩す事はない。ニコニコと笑みを浮かべながら、ジッと見詰めるのである。

「…………果てしなく聞きたく無いが聞かないといけない気がするから聞くが、どっちだ?」

 酷く嫌そうな顔をして、幼馴染みたる元会長が義務感を覚えながら聞く。

「そりゃあ、両方ともかな。両手に華って事で」

 あんまりにもな言葉に再度絶句する面々を他所に、マイペースな彼はいつも通りの調子だ。

「お前、その節操の無さはどうにかした方が好いぞ」
「ん?ーーでもしょうがないじゃん、可愛いものは欲しくなっちゃうんだから」
「タツキ……タツキ……俺のタツキ……」
「何で、僕こんなとこ居るんだろ」

 そんなような濃いメンツに囲まれて、根も歯もある噂を撒き散らしながら、三上も浅見もやりたい放題に突き進む。

「え?昨日の夜2人でどこ行ってたかって?……イイトコだよ」

「あ?次の連休?浅見と出かけるに決まってるだろ」

「またその質問?だから、今夜も2人でお泊まりだから駄目だって言ってるでしょ!」

「しつこいわ!お前達に割いてる暇などない!そんなに時間を作らせてたけりゃ浅見にでも許可もらえ!」

 2人共、否定も肯定もしないものだから、噂にはどんどん尾鰭が付いていくのである。それでも構わず、なりふり構わず進む2人の姿は多くの者の心を掴む。

 そうやって少しずつ、三上は人へと戻っていったのである。どこかの世界のどこかの国、とある2人のお話。






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