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剥き出しの輪郭



「ノルマン」

いつものごとく、僕が出歩いていた時の事だった。前日の食事の事もあって、その日の僕は絶好調で、少しばかり明るい内に家を出た。特にすることは無いのだけれども、一日中部屋に籠り暇を持て余す昼は酷く退屈で、僕は夜が近付くと散歩がてら身体を動かす事が日課となっている。普段より早く家を出たこともあって、僕は村を一周することにしたのだ。クロードが声をかけてきたのは、彼の家の近くを通りかかった時だった。

「クロード。作業終わったの?」
「うん、今、帰って来た所なんだ」
「そうなんだ。お疲れ様」
「うん。……あの、さ、ちょっと話したいんだけど……俺の家、寄ってかない?」

話とは、何だろうか。不思議に思いながらも首を縦に振る。少しだけ不安に駆られながら、案内された家の中に足を踏み入れる。この辺りでは粗末な方の小屋だが、一人暮らしをする分にはあまり気にならない。僕も似たような家に一人でいるのだから、言えた口ではないが。

クロードの家に招かれるのは、初めてではない。夕食に誘われる事もあって、家の何処に何があるか分かってしまう位には慣れ親しんでいる。ただ一つ残念な事に、僕らの味覚は酷く退化していて、複雑な味が分からないのだ。折角の料理も、美味いか不味いかすら分からないし、それどころか栄養にすらならないのだ。実に、勿体無い。

バタリと扉が閉まる音を聞きながら、僕は部屋の真ん中にあるテーブルを目指す。ぼんやりと、クロードの話の内容を予測しながらイスに手をかけようとした。しかし、その手は突然腕を掴んだクロードの手に阻まれ、宙で止まる。何かと、顔を向ければクロードの真剣な眼差しとかち合った。その眼の真剣さに、僕は酷く動揺した。

「ノルマン」
「っなに……?」
「俺に隠してる事、ないか?」
「っーー!」

質問されて、動揺する。隠し事なんて、たくさんある。日光が嫌いな事、食事が要らないこと、隠れながら生きている事、闇夜が僕らの庭である事、ーー血を飲まなければ生きてゆけない事。僕という生そのものが隠し事。

「なんで、そんなこと、きくの」
「見たんだ、昨日の夜、あの廃屋の前で」

クロードの言葉が、自分の心に突き刺さってくる。何処を見られたのだろう。食事の所か、それともその後か。どちらにせよ、あの時の僕の行為は、この村の人間からすれば嫌悪の対象だ。動悸が激しくなる。クロードに嫌われたのではないか。思えば、足元が崩れていくような感覚を覚えた。

「お前……男、イケるんだな」

そう呟くように言ったクロードは、予想外に僕へと口付けてきた。絶望していた所への不意打ちに、僕は酷く混乱して動くことができなかった。クロードのそれは吐息さえ喰らうような激しい口付けで、困惑しながらもされるがままだった。気が付けば身体をきつく抱き締められていて、慣れたような舌遣いに翻弄される。食事をほとんどとらず、身体も細いばかりの僕とは違って、武器を片手に土木作業に従事する立派な体格の彼に捕まっては、調子が良いとはいえ抜け出すのも骨が折れる。早々に諦めた僕は、嬉しい誤算に一先ず身を預けた。

「ふっ」

一通り荒らされた所で、クロードの口が離れていった。それにホッとして息を整えていれば、彼は僕の首を後ろから回した手で撫で始めた。息を詰めてのけ反れば、今度は耳を食まれた。耳どころか、人に触られる事自体苦手な僕は、慣れない刺激に震えるだけだった。

「それ、耳、むりっ」
「ーー俺さ、お前のヤってる所見て、すげぇ興奮した。お前、エロすぎる。前々から、思ってたんだ。いつか、お前をぐちゃぐちゃにしてやりたいって。そのすました顔を、どうにかしてやりたいって……」

興奮した様子でそう言うクロードは、いつもの彼ではなかった。こそばゆさに震える僕を観察しながら、服をたくし上げてズボンの中に手を入れてくる。ハッとして弄る手を掴むが、彼は止まらなかった。

「っ!」
「でもお前、そういうの興味なさそうに見えたし、友人としての関係が大事でさ……諦めてたんだ」
「んんっ」

尻を揉まれながら、股間を押し付けられる。彼のモノは既に硬くなっていて、興奮を煽るように上下に擦られる。そのまま、中途半端な刺激を与えられれば、僕もその気になるのはあっという間で。耳元の吐息すら、興奮の材料となった。

「でも違った、お前、あいつをヤってる時のお前さ、すげぇ好い顔で。我慢、出来なくなった」
「クロードッ」

そんな事を切羽詰まった様子で言われて、僕が我慢できるはずがなかった。ゾクゾクする。彼のズボンと下着を早急に下ろして、勃ち上がったそれを手で擦る。それと同時に、気持ち良さそうに吐息をこぼす彼が愛おしい。

お返しとばかりに、彼も僕の前を弄ってきた。先程からの刺激で、僕のモノもすっかり勃ち上がっていて、擦られる度に身体を快楽が駆け巡る。その気持ちのよさに、思わず僕は口付けを強請った。舌を絡め合い、互いの興奮を煽る。そうしている内に、あっという間に高められてしまって、僕は待ち望むその先に期待を膨らませた。だがもう少し、という所で、突然彼の手が根元を絞った。余りの事に驚いてしまって、抗議の意味で唇を離す。途端に彼は、僕をテーブルの上へと押し倒して、中途半端であった下半身を完全に剥いた。空気に触れる感覚にひどい違和感を覚える。思わず起き上がろうとすると、僕を左手で制して、ズボンのポケットから何かを取り出した。

「僕が下なの……?それより、なに、それ?」
「大丈夫、凄く良くなれるって」

それは小さな細長い瓶のようで、彼はニヤリと笑いながら片手で器用に蓋を開けると、中の液体を僕の下腹部にぶちまけた。ヒヤリとした冷たい感覚に震えが走る。

その液体を手で塗り広げ、上半身の服をたくし上げ、乳首へと舌を這わせてきた。舐られ食まれ、時々強く肌を吸われて全身が触れられただけで気持ち良くなってくる。声を噛み締めながら、じわじわとやってくる快感を追っていた時。突然、下腹部に違和感を覚えた。

「んっ、なに?」
「悪りぃ、指、入れた」
「なんかあつい」
「言ったろ、良くなれるって……ってお前、コッチもヤんのか」
「……たまに。大きいひとはいれにくいから」
「ーークッソ、俺以外でイけなくしてやる」
「あ!ちょっと、イキナリは……っ!?」

鈍い感覚の中でも、微かな痛みと共に指が一気に増やされるのが分かった。しかもそれだけでは済まなくて、中を覆い始めた熱とむず痒さに、背筋が震える。じわじわと何かが込み上げてくるような。こんな、脳が痺れる程の焦燥は感じたことがない。早く、この熱をどうにかして欲しかった。

「嫌だ、なにこれ、あついっ」
「気持ち良いか?もう少し、我慢して」
「っムリ、早く、出したいっ、ねぇクロード!」
「!」

ザワザワとする中に刺激が足りなくなって、僕は強請るようにクロードを見る。それでも、彼は意地悪な事にまだだと僕を焦らそうとする。必死に言葉を紡ぐが、彼は動こうとしない。そうして、とうとう耐えられなくなった僕は。愛撫する彼を引き剥がして、テーブルからダイブするように抱き付いた。咄嗟の出来事に彼は反応出来なかったようで、その場で尻餅をついた。

そのまま、僕は彼を床に押し倒すと、噛み付くように口付けた。実際、僕は本当に噛み付いてしまったのかもしれない。血の味を感じながら、舌で中を弄った。こういう色事に関しては、経験からすれば僕の方が何倍も上手いはずだ。時折ビクつく彼に興奮しながら、僕は手探りで少しずつ、目的のモノを中へと挿れていった。思っていたよりモノは大きくて、少し苦労しながら腰を落としていく。微かに走る痛みすら気にならなくて、僕は彼に満たされていくのを感じながら彼の全部を中へと収めた。

「うっ……、きっつ」
「中、全部挿入ったよ、ねぇ、気持ちいい?クロード」

彼の唇を舐めて、緩く上下に律動する。最初は小さく、段々と動きを大きくしてゆっくりと、好い所に当てながら動かしていく。動くにつれてスムーズになっていく出し入れと、ぐちゃぐちゃと音をたてる結合部が僕の興奮を高めていく。そんな僕の行動が予想外だったのか、彼は僕にされるがままだった。

「……ヤバい、夢みたいだ。すぐ、イきそ」
「僕も、凄い嬉しくて……っねぇ、クロードも、早く動いて?僕だけじゃ、足りないーーっ!」

僕がそう言い終わるのが早いか、彼は突然、凶暴とも言える律動を開始した。先程までの僕の余裕が吹き飛ぶ位、彼は激しかった。腰を両手で掴まれ、何度も奥へ叩きつけられて、好いところを抉られる。ぐちゃぐちゃと泡立つような水音が、耳を犯す。じわりと染み出た汗が肌を滑るだけで肌が泡立つ。速さもさることながら、力強く奥へと叩きつけられるものだから、僕は酷く感じてしまって。全く動けずただ崩れ落ちないように手を突っ張る事しか出来なかった。

「い、ぃ、ーーあぁっ!」
「あー、も、出そっ」

そうしてしばらく。彼の動きが緩くなったかと思えば、奥へと強く叩きつけられて、中のモノがビクビクと震えだした。彼が、イッたのだろう。そのまま緩く上下に揺すられて、僕は中に出された事を自覚する。そして僕は。その事実に酷く倒錯的な快感を見出してしまって。奥に出された事を感じながら、僕もその時にイッてしまった。僕の出したモノが、彼の衣服にかかっているのを惚けたまま見つめる。青臭い匂いが立ち込める中、僕は屈んで無言のままクロードに口付けた。

「なぁ、ノルマン」
「なぁに?」

じわりとした余韻に身を委ねていた時。クロードが穏やかな声で話しかけてくる。僕は、彼の上に乗ったまま彼の心臓の音に耳を傾けて、話を促す。

「他のヤツの所へ行くな」
「?……クロードがいいなら、僕はずっとクロードの傍にーー」
「違う、そうじゃない。……俺が、お前に血をやるから、他の誰の血も吸うな」

唐突な話の内容に、僕は思わず上体を起こす。言われた言葉の意味が中々理解出来なくて、僕はまじまじと彼の顔を見つめる。気付いていたなんて、思ってもいなかった。知らなかったからこそ、彼は僕を求めたのだと思っていたのに。

「ーー知ってたの?」
「昨日初めて知ったよ。でも俺は、ノルマンが何者でも、俺の傍にいて欲しいと思う。村の奴らが、他の人間がどう思おうが、お前はお前だ。だからもう、無理をするな、俺のでいいからちゃんと食え、我慢するな」
「っ」

クロードの言葉が、じわじわと僕の中に染み込んでくる。僕のように、人間として生きたい者の気持ちを理解してくれる人が、この世にはちゃんと居たのだ。望むと望まざるとに関わらず、血を糧とする人間。望まざるにも関わらず、吸血しなければ生きてゆけない僕。この18年という、未だ短い僕の生の中で、僕は初めて満たされる感覚を覚えた。じわりと這い上がってくる涙は留まる事を知らず、次々と溢れ出る。まさか、この不運な国に、僕らが受け入れられる余地が隠れていたとは。

「俺のになれよ、他のヤツとああいう事、もうするなよ」
「うん、うん、クロード、僕、ぼく、嬉しい、ちゃんと、分かってくれる人は、居たんだ。クロード、大好きだよ」
「俺は最初から、ノルマンしか見てなかった。俺の性癖も、理解者なんてまず居ないから、お前と似たようなもんだ。ずっと、実らない恋を心にしまってきたんだ」

起き上がって、僕の止まらない涙を拭い取りながら、彼は穏やかに話しかけてくる。その顔には笑みが浮かんでいて、穏やかな表情を彩っている。僕はどうしようもなく嬉しくて、笑う彼にひとまず抱き付いたのだった。






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