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04



カルという子供の部屋に住まうようになってひと月ほどたったある日のことだった。

相変わらず生きる気力もなく、死んだような日々を生かされていたそんなある日だった。
突然、乱心した魔王が何かごちゃごちゃとやりだしたのだ。目に黒い何かを突っ込まれたかとおもえば、抉られ落ち窪んだ右目に厚みが戻っている。右目を手で触れば、それはまるで義眼のようだ。魔王は一体なにをしたいんだと、次に服を剥がれながらぼんやりとそう思った。こんなみすぼらしい姿なぞ見ても面白くなかろうに。

すっかりなくなってしまった身体の筋肉を惜しく思いながら、生白い貧相な身体をじっとみる。あんなに、綺麗についていた筋肉が、見る影も無い。体格も小さくなったような気がする。日々ぼんやりと思っていたことを改めて実感しながら、魔王様様の乱心を眺める。見ればちょうど、ズボンを剥いだ所だった。

「肉、ついてきたな」

マジマジと己の身体を見つめながら、魔王は満足気に呟く。前々から思っていたのだが、この魔王、一体何のつもりで己の世話を焼くのだろうか。カルが世話を焼くのは、ペットの飼育と何ら変わりないというのは分かる。楽しそうに己に餌付けする様は、可愛らしい子供だ。その、餌付ける相手が己であるという以外は、普通の反応らしい。ーー流石に魔王の真似だと言って口で食わされた時は焦ったが、それ以上に、彼にとって意味はないだろうと断言できた。

だがこの魔王、子供でもあるまいし、こんな男の世話など面白くもないだろうに。思考もなく落ちぶれた人間など、そこらにいる動物と変わりない。動物。よく、愛玩犬を飼うと父親が一番可愛がるという話を聞いたが……そういう事なのだろうか?


さわさわ、魔王に上半身を触られる。伸びた爪が時々肌を引っ掻くが、傷つくほどでもない。そうやって、僅かに残った傷跡をなぞるように触れていく。

魔族の術はすごい。あれほど酷かった傷も、今ではほとんど目立たない。魔族にもともと備わった治癒力をそのまま力で移しているだけだと聞くが、本当にあっという間だった。生憎、折れた左足は炎症を起こして完全には元に戻らなかったが、それでも右足は元通りになった。無論、回復を望んではいなかったが。

ありがとう、そういう言葉を口にしないわけにはいかなかった。

「お前、話せない訳ではないだろう?なぜ話さん」
「…………」
「例え飼育動物だとしても、なぜあそこまでボロボロだったか位は聞いておかんとならん。ましてやお前は国王だろうが、いい加減何があったか話せ、命令だ」

飼育動物。
そう言われて、やっぱりと実感が湧く。王だった自分がだ、落ちたものだ。やはり、自分は死ななければならなかった。魔王の言葉に応えるつもりはない。こんな落ちぶれた人間、とっとと殺してしまえばよいのに。

「この私の命令も聞けんのか……駄犬め」

チッという舌打ちに、内心でしめたと思う。このまま、怒りに任せて喰い殺してはくれないだろうか。そういう思いで、魔王の言葉の続きを待つ。

「しょうがない、ならば仕置きだ。カルの勉学は昼までかかる。しばらく、じっくりと躾けてやろう」

やはりこの魔王、乱心している。己はそう確信しながら思わず眉を寄せれば、魔王はますます笑みを深める。

「音を上げても、話すまで許さんぞ」

一体何のつもりかーー。久々に恐怖を感じながら、己は後ろへ逃げを打つ。何と無く、ここは逃げなければいけないような気がする。

「そんなに下がると落ちるぞ、まぁ当然、逃がしはしないが」

言葉通り、ベッドの反対側で落ちそうになり、魔王の手に間も無く捕まった。うつぶせで腿の上に馬乗りに乗られ、完全に逃げられなくなる。何をするつもりか。底知れない恐怖だった。

「背中の傷もほぼ消えたな。さすが、グライフの腕は超級だ」

背中をするすると触りながら、そうのたまう。腕は自由だが、魔王に抵抗するだけの力もない。半ば諦めの気持ちで、両手でベッドの端を掴み拒否の意を表す。ただ表現するだけで、魔王には通じるかすら不明だったが。

するり、突然の首筋への刺激に思わす身体が驚きに跳ねる。何かと目を背後へむけようとするが、すかさず頭を上から押し付けられて固定される。そうして、後ろ髪を横に流されたかと思えば、べろりと舐められるような感覚を覚えた。一度ではない、二度三度と生暖かく柔らかい感触が首筋を舐めていく。再び飛び上がらんばかりに驚くが、目視するどころか抵抗すらできない。鳥肌が酷い。

魔王の乱心だ!

何度目か分からない思考に混乱しつつ、続く首筋を舐められるという事態に嘆きが入る。頼む誰か、早く死なせてくれ!

そんな事を考えながら、出そうになる声を抑えるのに必死で。目を見開きながら、とにかく耐えた。が、突然の行動は予測しようがない。時々溢れる声は、どうしようもなかった。

「ふぅっ!」
「良い声だ。……前も思ったが、お前は旨そうな匂いがする……そうだな、喰われたくなかったら話せというのはどうだろうか」

ああぜひこのまま血肉共に喰らってくれ!そんな心境で、魔王の次の行動を構える。はやくはやく、一思いに殺ってくれ。それが唯一の願いだった。

「そうかそうか、だんまりならば、容赦はしないぞ?」

耳元で告げられれば、とうとうか、と覚悟を決める。ようやく死ぬことができる。かの有名な魔王に喰われ死ぬのなら、王族の先祖も浮かばれよう。そう、ホッとしながら魔王の行動を待っていると。

最後の下着を、剥かれた。

「細っこい。私のモノを挿れたら壊れそうだな……まぁ、グライフが治せるだろう。せいぜい良い声で鳴けよ?男は久々だからな」

そっちか!
己の勘違いに絶望しながら、すぐさま腹一杯の力で叫んだ。こんなに大声を出したのは久しぶりだった。

「わ、分かった分かった!全部話す、話すからーー頼む離してくれ!」

途端、チッという舌打ちが、背後から聞こえたのは気のせいではなかった。早く死にたい。






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