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04


「何すんだよ奏斗!」
「俺は奏夜様を護る義務がある。あまり軽々しく近づく事は避けて欲しい」
「かなと……!?」

友達だと思って、いつも一緒にいて、必ず自分の味方になってくれていたのにどうしてと、早乙女は悲しげに呟く。そして、生徒会の彼らは、奏斗のその振る舞いに憤った。

「……貴方、何を言うんです!」

奏斗へ罵倒を浴びせ、それぞれが奏斗に怒りの篭った眼差しを向けるが、制限から解放された奏斗を抑える者は奏夜しかいない。奏斗は、彼らの言葉を切り捨てる。

「ーー公私混同で学校を乱すような人間には、奏夜様に触れてほしくはない。……俺は、正真正銘、榊原奏夜様の唯一の従者。近づく輩を見定める義務が、あるーー」
「ーーっ、」

予想だにしていなかったその反応に、彼らは思わず言葉を詰まらせた。しかし、先頭に立つ彼、副会長はひとり、言葉を紡ごうと口を開きかけた。

「君はーー」
「カナ、カッコいいよもっと言ってやって!僕惚れ直しちゃう」
「ちょ、奏夜様……ここはもうちょっとシメるべきところで……俺にも格好つけさせてください……」
「大丈夫大丈夫、ジジイじゃあるまいし誰も気にしないって」

奏夜の茶々に多少狼狽えつつも、奏夜のそういう趣向も熟知している奏斗は困ったように振り返った。話が脱線するのもお構いなし、奏夜はニコニコと振り返った奏斗を見つめた。副会長が何かを言いかけていたことなど気にも留めない様子だった。

「ッ奏斗!」

そんな緩んだ雰囲気を再びぶち壊したのは、早乙女だった。大声で奏斗の名を呼び、周囲の視線を集める。奏夜との楽しい会話を遮られた奏斗の表情は、一瞬彼を睨むようなものになった。早乙女はその眼光に怯みつつ言葉を続けた。

「従者とか主人とか、そういうもんがあるのは分かんだけど、学校で近づく人間を制限するとか、見定めるとか、そういうのヤメろよ!奏夜だっていろんな人と仲良くなりたいに決まってるだろ!」
「…………」

奏斗は、そんな的外れな言葉に呆れ、眉間のシワを濃くした。自分と奏夜との関係を、安易にただの従者だとか主人だとか、そういった言葉で表してほしくはなかった。桐生と榊原の主従は、昔からそんな生易しい言葉では表せない深い関係にあるのだ。多少怒りを感じたものの、そこらの人間に理解できるはずがないと奏斗は割り切っていた。だから、怒りよりも呆れの感情の方が大きかった。だからこそ、奏斗はその一般的思考が誤りであることをどうにか説明できないだろうかと思案していた。これ以上、早乙女を嫌いたくはなかった。そう考えを巡らす奏斗だったが、奏夜の方の考えは大分違ったようだ。突然、背に庇われていた奏夜は、奏斗の前に躍り出た。

「は?何言ってんのアンタ。人の事情も知らないで」

食ってかかるように、声を荒らげている。彼のそれが演技なのかは定かではないが、食堂中に漂う息苦しい雰囲気を払拭するかのようだった。

「ちょ、奏夜様……」
「ーーさっきから様づけすんなよ!カナトのバカ!」
「ええぇ、」
「それより早乙女晴也!アンタは、一体僕らの何を知ってるっていうのさ!?軽々しく説教なんてやめてくんない?」

奏夜は、背に庇う奏斗の前へ出て早乙女と対峙する。そんな奏夜を、厳しく制する権限を持っていない奏斗はただただ狼狽えるだけ。しかし、自分を庇ってくれる奏夜の姿を見て嬉しくないはずがない。奏斗の表情は、態度とは裏腹に緩みきっていた。

「カナトだって、好き好んで僕の下についてるわけじゃないんだ。僕らがこういう関係になれるまでどれだけ苦労したのか、知らないくせに、偉そうな口叩くんじゃないよちび。−−僕なんか、カナトって呼んで返事してくれるようになるまで何年かかったと思ってるのさ!2〜3年一緒にいれたからって羨ましくなんてないもんね!僕にはちゅーだってしてくれるし!一緒に寝ると寝ぼけながら僕に抱きついてくるんだからね!犬みたいでほんとに可愛いんだよ!」
「奏夜様あーっ!そんな変なこと暴露しないで下さいっ!」
「ヤダよ!僕なんか3年もカナと離されてたんだよ!?悔しくないワケないでしょ!」

真っ赤な顔をした奏斗は、両手で顔を覆い悶える。それを見た奏夜は幾分気が晴れたのか、楽しそうに奏斗を見ていた。一方の早乙女は、表情がコロコロと変わる奏斗と楽しそうな奏夜のやりとりを見て、複雑そうに顔を歪めた。

そんな中で相も変わらず奏斗を憎悪のこもった目で見る人がいた。奏夜は、さり気無く奏斗をその視線から隠すように動き内心であの男を罵る。奏斗がそれに気づいているのか定かではないが、今以上に、奏斗の負担になってほしくはなかったのだ。

表面で笑いながら、奏夜は誰にも気づかれぬようひとりあの男を思ったーー。















微笑ましい彼らのその様子を、憎しみのこもった目で、彼はじいっと見つめていた。そうやって鋭い視線を向けていた時。彼とアイツの間に、かつてのあるじだったその人が、立ち塞がった。彼は人知れず悲しみにくれ、それと同時にアイツへの抑えきれない思いを増幅させる。

それが、彼が固く何かを決心した瞬間だった。






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