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「全く……あの人はいっつもこうだ!本当に、人の話を聞かない!」

エミールはイライラと髪を掻き毟ると、先ほどふらりと出て行ってしまったクラウスの事を愚痴る。穏やかそうな見た目に反して、エミールは案外感情の起伏が激しい。パリパリと、エミールの感情に反応するように溢れ出る魔力が音を立てる。すぐ側でその音を聞いたカイは、その強力な静電気の被害を被っていた。

「痛っ!うわっ!?」
「わっ、ゴメン!」

頭に走る違和感にカイが髪を触れば、パチパチという音と共に痺れるような痛みをもたらす。更に、帯電した髪は空中に持ち上がり、周囲にいた漂う小さな妖精達を引き寄せている。引き寄せられまいと精一杯羽ばたく妖精達の羽音がブンブンと周囲に響き、驚きに飛び出した彼らの魔力がチカチカと空中を彩る。物に被害がなかったのが幸いだったが、軽く髪の毛が焦げる匂いが辺りに漂う。それに気付き、エミールが慌てて感情を収めると、途端に場は鎮まる。申し訳なさそうに心を落ち着けると、すみませんと一言告げた。

カイの目の前で醜態を晒してしまった事を恥じつつ、未だに抑えきれない属性特有の性質にため息を吐く。この性質を自分のモノにしてこそ、魔術師として一人前になれるのだ。

エミールの属性は雷。その性質は、鋭い激情。強い闘志を性質とする炎と似通い、感性の強さが術者を悩ますのは、術者の間では有名な話だ。炎のフィデリオとアルノーに始まり、カイやクラウス、マリクのような水は揺れ動く感情、ゲオルグの地は堅固な意思、他にも、他者に尽くす草、留まらない風が主だ。

まだまだだ、そう一人ごちる。目の前のカイが、自分をジッと見ている事を不思議に思いながらも、エミールは目を瞑り精神統一を試みた。

その時だった。学友会会議室の扉がコンコン、とノックされた。エミールはハッとすると、いち早く扉へと向かった。

「はい」
「失礼するよ」
「り、理事長!?すぐお開けします」

かけられた声に驚愕しながら、扉を開けば、凛々しい姿が目に入る。光特有の白金が、エミールの目にしみる。

「ありがとう。ーーやあやあ皆ご苦労様、今年度を共にやり抜く新しい仲間との自己紹介は済んだかな?」
「っ、申し訳ありません、まだ、自己紹介は済んでおらず...」
「ああ、それはいけない!人間関係は挨拶から!今すぐやろう、皆、立ち上がって」

理事長ーーユリウス・ディ・グレゴリオは会議室に入るなりそう言い放つと、笑みを湛えながら手を叩いた。七人は何か言うでもなくその言葉に従うと、順に簡単な自己紹介を済ませた。だが、どこかソワソワとした落ち着きに欠ける雰囲気は、全員が自己紹介を終えても抜ける事はなかった。

そりゃそうだろう、とエミールは内心考える。ユリウスから溢れ出る力は、生徒や教師のそれとは比べ物にならない程で、今までに出会った誰よりも頼もしい。そんな、この学院自慢の理事長が学友塔にやって来たなど、今までに聞いた事がなかった。エミールは、滅多に拝めない理事長の顔を、無意識に見つめた。






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