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04



意図したところではないが、戦いは思いの他熾烈なものとなってしまった。

「ルーさんっ、少し問題が」

始まりこそ意図したものではなかったが、両者共引けない。速さを生かし攻撃を除け、時折小型ナイフで応戦する武兵隊と、間を空けずに次々と魔法を繰り出し隙を伺う魔導士団。擦りはすれど決定打には欠け、どう見ても体力がつきた方が負ける消耗戦と化していた。

「保たないか?」

攻撃の合間を縫い、すれ違い様に話をする。ルーと呼ばれた彼は、この状況を問題視しているようだった。

「私とジルは、平気ですがっ……、」
「やはりリードか」
「はい、長期任務で体力の消耗が激しいようです」

少々無理をしつつ互いに近づき、長髪のカイルが小声で囁く。ルーは、仮面の下で顔を顰めながら、敵を見据え目を細めた。一人でも手こずる団長レベルが3人も。おまけに、彼まで−−。人知れずルーは溜息を吐いた。

普通の魔導師団員程度であれば、ルー達にとってあまり脅威ではない。何人でかかろうが、通常の魔術攻撃に特化した魔道士の攻撃は、武兵隊にしてみれば遅すぎるのだ。いくら強力な魔術を使おうが、武兵隊の速さに追いつけなければ、当たらなければ、無意味。魔術が襲ってくる前に、敵を食らう。ものの一瞬で仕留めるのだ。
それが、武兵隊の強さだ。

しかし、この場に居るのは、それぞれの魔術師団を統率する団長たち。経験もスピードも平の団員とは比べ物にならない。相手の行動を伺いつつ、じわじわと攻撃を強める。広範囲のもの、一点集中のもの、相手の自由を削るもの、様々な魔術を使い分けつつゆっくりと追い詰めてくる。さすがの武兵隊も、得意の接近戦へと持ち込めないでいた。

そして、武兵隊側にはまだまだ新人のリードがいる。リードは未だ年若く経験も浅く、体力もカイルやルーには遠く及ばない。ましてや、長剣を何十分も軽々と振り回していられるジルには敵うはずもない。本人も分かっているようだが、この場において、彼は足手まといだった。

「クソッ、……ルーさん、もう、僕には構わず、」
「駄目だ。お前を先に、通す」

息を切らし、悔しそうな声音でリードは提案するが、ルーはそれをすかさず一蹴する。捕まったとて命をとられる心配こそないが、彼らに顔を見られる事がどれほど厄介な事か、ルーは重々承知していた。だからこそ、経験は少ないが、技量を認められ今回の任務に就いたリードを見捨てるわけにはいかなかった。

「俺が行く、後は自分の判断で動け」

人数の少ない武兵隊にとって、出来うる限り『知られる事』を避けたかった。唯でさえ風当たりの強い【カリカ】の部隊。【カリカ】にとって希望でもあるこの部隊を、少しでも危険から遠ざけたかった。

状況を読み周囲を見渡し、ルーは突然思い切り宙に飛び上がる。軽々と3m程飛び上がると、驚きに見上げる団長達目掛けナイフを放った。3本のナイフは、それぞれ確実に団長達目掛け突き立てられ。その攻撃を回避するため3人は一斉に空中へ魔術を放つ。あわよくば、彼に当てようと。

一本は強風に煽られ軌道が逸れた。一本は業火に焼かれ燃え尽きた。一本は氷壁に阻まれ凍りついた。そして。逸早くナイフを射落とした業火がルーを目掛けて飛翔する。

その炎を目の当たりに、空中で身体を捻り衝撃に身構える。視界の隅で倒れ伏す2人の人間と森の中を駆け抜ける影を捉え、ホッと胸を撫で下ろす。

そうして間も無く、ルーは熱に襲われた。






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