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03



「左様か……よくやった、そなた達武兵隊には褒美をとらせよう」

部隊の隊長である彼がこの国の王に任務の報告をした後、国王はそう言い放った。同時に周囲からはどよめきが巻き起こり、ザワザワと騒がしい声が響く。謁見の間には、国王やその重鎮達ばかりではなく、各部隊の隊長や補佐官も脇に控えていた。彼らは皆、この報告の主旨も理解してはいたが、思いもよらない結果に動揺を隠せない様子だった。中には、その活躍さえ疑う者までいる。

「まさか主らがやってのけるとは……」

信じられん、とは口に出さないが、国王でさえ彼らーー武兵隊の報告書の内容を何度も何度も見返している様子だった。

「……まさか、たった10人であの国を落としてしまうとは……」


国は、隣国による度重なる威嚇攻撃により脅かされ、極度の緊張により疲弊すらしかけていた。しかし、敵方の強大な武力故、下手に攻撃をすることすら出来ず、いつ始まるか分からない戦争への恐怖におびえていた。そんな中、彼ら武兵隊は隣国へと隠密任務のため派兵されたのだ。たった10人しかいない小さな部隊ではあるが、闇に紛れ人に紛れ、情報を収集する能力に長ける彼らにしかできない任務であった。

『情報を収集し、敵に動きがあれば直ちに国に伝えよ。万が一、隙を見つければ即作戦を決行、部隊を呼び国を落とせ』

国王よりの命は、武兵隊により忠実に守られ、隣国は内より崩壊、後発部隊によりたったの数日で城が制圧されたのだ。とはいえ、後発部隊が隣国の城内に到着した頃には、既に王族のほとんどが殺害され、屈強だったはずの兵たちは皆城から逃亡し離散、城中が混乱し全く統制がとれていない状態だった。後発部隊のしたことを上げるとすれば、城内で訳のわからないことを喚き騒ぎ立てる高官を黙らせ、しぶとく抵抗する国に忠実な家臣を捕え、国王の死亡を確認した事くらいだろう。

そういう報告を事前に受けていた国王は、彼ら武兵隊が持参した、潜伏期間の活動報告を疑いつつも信じるしかなかった。その時国王は、その報告を読み上げる補佐官から報告書を取り上げ、自ら何度もそれを読み直した後に、ようやく納得したように、武兵隊に金貨百枚と1人一頭の馬を寄越すと宣言すると、強制的に会合を終了させてしまった。

終了した途端、周囲はざわめきに包まれる。一体どういう事だ、とそれぞれの部隊が報告の主である武兵隊を問い詰めるべく、終了のその時を狙い彼らに駆け寄ろうとしていたが。国王が終了を宣言した次の瞬間には、彼らは跡形もなく消えてしまっていた。混乱の極み。一兵隊が国王や高官に真実を直接説明を請う訳にもいかず。どういうことだと喚き合い、疑問を胸に見当違いな憶測をするだけだった。



















喧騒を背に、彼らは無言で長い廊下を駈けていた。混乱する謁見の間の事など歯牙にもかけず、彼らのルールに従い誰も口を開こうとはしなかった。ルールを破れば、仲間をも巻き込む事態になりかねないと皆知っている。

先ほどまで彼らがいた謁見の間から、彼らの陣地までは約2キロ。城内の最北端に生い茂る森林をしばらく抜けると、誰も近寄らない彼らのねぐらがそびえている。王宮ほど広くはないが、寝泊まりや訓練には十分な広さを持つその塔は、物見やぐらとしての機能も果たしている。彼らは今、そこを目指しているのだ。

あっという間に王宮を抜け、森林のエリアに抜け出る。もうじき、塔の入り口を示す目印が見えてくる、という時。突然彼らの目前に火柱があがった。サッと散り散りに後退する。4人共、その炎の正体が分かっているのか、それぞれが仮面の奥から一カ所を睨みつける。その犯人たちは木の陰に隠れているようだが、彼らには気配ですぐに分かる。彼らにこういう事を仕掛けられる人間は決まっている。滞空時間を終え地面に降り立ち、犯人のいるであろう場所を見据える。飛び上がる瞬間、誰かが苛立ち紛れに放ったナイフが、目印とばかりに3本の木に深々と刺さっていた。

「悪く思わないでくれ。別に私達にも悪気がある訳じゃない、君らを止めるのにはこれしか思いつかなくてな」

そんな声と同時に、ナイフの刺さった木々の後ろから現れたのは、白いローブを身に纏い首に共通のペンダントを身につけた3人組だった。この国で白いローブをまとう人間は限られており、さらに王直属の戦闘員を示す金色のペンダントを身につける人間は決まっている。彼らは、国王直属の魔導士団、それも、各師団の団長達だ。

「君らは速すぎる。声をかけている間に通りすぎてしまうのだから、こうする他ない。君らだって、この火の中に飛びいるなんてバカはしないだろう?そう睨むな」

そう、冷静な物言いで睨む仮面の彼らを嗜めるのが、団長たちの筆頭、魔導士団総隊長だ。落ち着きはあるが、どこか小馬鹿にしたような視線を誰もが感じていた。いつもの事、と冷静に対処をする仮面の中、毎度になる総隊長の物言いに我慢に限界を迎えた者がひとり。年若い茶髪の仮面は素早く手に小型のナイフを構えると、重心をつま先へとかけた。

しかし、そんな勝手な行動を、リーダーである彼が許すはずがなかった。怒りに任せた衝動的な攻撃は、隊の崩壊を招く。彼は瞬く間に茶髪の仮面の目の前まで移動すると、間髪いれず、その首めがけて手刀を食らわせた。するどい手刀を身に受けた彼は、その衝撃で数m吹き飛んだ。起き上がる事もできずその場で激しく咳き込むと、しばらくの間苦しそうにもがいていた。

それはほんの一瞬、瞬きをする間の出来事で、その場にいた全員が、目前の出来事への衝撃でしばらく動けずにいた。武兵隊隊長である彼の速さについていける人間は、武兵隊内部ですらいないのだ。だが仮面の彼らは一切言葉を漏らすことはない。リーダーの彼は、移動したその場所でただ、様子をうかがうように魔導士団の総隊長を見つめていた。

「……何が起こったかと思えば……まったく、君らは野蛮だ。そんな事で部下を切り捨てるとは。私たちが、そういう攻撃に対応できないとでも思っているのか?……今の対応もそうだが、それ以上に私は君らのあの任務に対して聞きたい事が山ほどある。少しは話をしたらどうなんだ」

いち早くその衝撃から抜けだしたのは総隊長で、未だ呆然とする2人の団長の肩を叩き覚醒させると、不快感を露にリーダーを見つめる。説明を求めるかのような視線。だがそれでもリーダーは喋らない。それが彼ら仮面の武兵隊の、一般人に対するルールである。そうである以上、たとえその相手が軍人だとしても、国王だったとしても、仮面のルールは適用される。仮面の彼らにも、総隊長の苛立ちが増すのがわかった。しかし彼は、話さない。

「君らはいつもいつも……、私の問いかけに答える気はないのか!?そう黙っていては解らんではないか!」

この時が我慢の限界だったのか、いつもは延々と一方的に小言を言うだけで去っていく総隊長が仮面の彼ら目がけて炎を放った。炎の蛇が一団を襲う。その攻撃に一瞬反応が遅れた仮面の彼らはギリギリでそれを交わすと、各々の武器に手をかけた。お共の団長達も普段とは異なる総隊長の様子に驚いたようで、戸惑いながら彼に問いかけた。

「総隊長、今日は一体どうしたのですか!?いつもの貴方らしく――」
「もうこれ以上我慢ならん、連中をここで調伏させる」
「し、しかし……」
「良い。上官には私の指示だと言えば済む、生け捕れ。仮面を剥いでやる」
「は、はい!」

一体なぜ、と思案する間もなく、魔法による攻撃が始まった。






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