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02




あの噂、知っているかしら?

あら、どういうものですの?

カリカ【出来損ない】達が恐ろしい軍隊を作って国王様を欺いているらしくってよ

なんて恐ろしいのかしら……!

ええ、きっと碌でもないものに違いないわ!魔法が使えないなんて、あれは動物にも劣るもの

そうよ、頼りは国家魔術師団だけよ!

そうに違いないわ、あの方々は恐ろしく強いもの!

カリカに国は渡さないわ、絶対に

もちろんですとも、あの方々がきっと、連中を追い出してくれるわ!

ええ、あの方達は私達の誇りですもの!














云わぬが花



暗闇を背に路地裏を、音も立てず、気配も消し、早足で進む一団があった。4人はいるだろうか、彼らは声を発することもせずに進んでいた。時に壁を駆け、屋根を伝い、宙を舞い、一所を目指していた。全身を覆う黒い装束は暗闇に良く馴染み、しかし顔に張り付く白い仮面だけは、暗闇でも微かな明かりを拾い空中を飛んでいるかのように見えた。不気味な光景だった。だが、よくよく耳をすませば、時折金属が擦れるような音が聞こえる。着地の衝撃にかがむ瞬間、宙を舞い身体をしならせる瞬間、普通の人間には聞き取れない程の微かな音。それが唯一、彼らの存在を認識できるものだった。

一団が向かう先には、この街ーー否、この国一番の巨大な建造物がそびえ立っている。巨大な白。大きな城。それは、この国の王が住む、王宮だった。

かの一団は、迷う事もなく、城壁に隠された扉へと辿り着くと、順々に中へと消えていった。


「ルー、王がお待ちだ。早急に謁見の間に行かれよ」

扉の中で彼らを待ち受けていた男は、宙に浮かぶ光源を片手にそう言い放った。齢5-60、威厳ある出で立ちの老爺は、一団をソワリとさせる。顔に刻まれた厳つい皺のせいか、一目見て国の政治に関わりのあるのだろうかと思わせる。ギロリとした目には鈍い光が宿り、一団を睨めつけるかのように捉えていた。

そんな男の発した言葉に反応したのか、先頭を走っていた男がまず先に動き出した。老爺の威光を物ともせず、ひと言も発せずその場を離れる。男につられるように、他の面々もその後を追った。そうした彼らの背後では、フンッ、という息が長い廊下に霧散した。

「カリカの癖にーー」

その音が一団の耳に拾われることはなかった。


「何なんですかねぇ、あのジジイ。いっつもルーさんに失礼な態度ばっかとりやがって」

老爺に声が届かなくなった道中程、一団の内の一人が小声で話を切り出した。話題は先程のやり取りの事だ。まず口を開いた男は、肩にかかる茶髪を手で掻きながら、不機嫌そうに舌打ちをする。顔は相変わらず見えないが、男はまだ年若いのか、まだ幼さの残る声だ。

「そう言わないの。あれでも左官なんだから」

先の発言に苦笑しながらそう言う男は、穏やかに窘めた。幾分明るい長髪は後頭部で束ねられており、背は彼らの中では最も高いようだ。年若い男の頭にそっと手を乗せ、もう言ってはダメだよ、とそう言い聞かせる。だが、そんな男の仕草が気に入らない彼は、男の手から逃れようと藻掻く。が、男は容赦などしなかった。穏やかに、だが強引に、頭を無言で撫で続けた。

「あんたらは相変わらず……」

そういった彼らの様子をすぐ横で見る男は、全く、と呆れたように頭を掻く。銀鼠の髪がくしゃりと乱れる。比較的華奢な二人とは対照的に、この男の体つきはガッシリとしている。長髪の男程ではないが、長身の身長も男を大きく逞しく見せている。そして男は、彼らの中で唯一、傍目から見える武器を所持していた。腰に提げる一本の長剣。一団の中で微かに聞こえた金属音はおそらく、この剣によるものだろう。無意識なのか、片手はいつも剣の鞘にかかっていた。

そういうやり取りをしながら廊下を進み、長く曲がりくねったその道が終わりを告げようとしていた時。そんな彼らに向け、最後の一人の、無機質な声がかかった。

「おい、まもなく王の居る間だ、おふざけはここまで。しゃんとしな」

パンッと軽く手を叩き、じゃれていた2人を窘める。華奢でもなく、剣の男程逞しくは見えない男は、この中では最も落ち着き払っている。緊張しているというわけでもないだろうが、この男に口答え出来るような人間は、この中にはいないようだった。先刻のじゃれ合いなどなかったかのように、面々はシャンと居振る舞いを正した。

王へと通ずる扉の前、男は3人に向かい振り返ると、合言葉のように朗々と唱えた。

「皆前では声を発するな、粛々と振舞え、絶対に隙を見せるな、喰われるな、」

そこで男は言葉を切り、一人ひとりに顔を向けると、それを合図に全員が一斉に唱えた。

『喰い殺せ』







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