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リーダー



広い廃工場はこの日も、集うゴロツキ連中のせいでがやがやと騒がしい。あちらこちらで笑い声が反響し、たまに殴り合う音すらも聞こえる。だが、そんな些細なことを気にするような人間はここにはいない。ここはある意味無法地帯だ。

「相楽さんの背中は俺のものだぁーー!」
「…………」
「くっそ、でも明日は俺の番!」
「俺の番が来たらーー」

一連の騒動があっても、俺は未だ廃工場に訪れている。俺の家にまで押しかけて、散々俺に謝り倒しに来た連中は、俺がうんと言うまでしつこく居座り、強制的にあの廃墟へと連れて行かれたのだ。家を知られ、ちゃんと廃工場に訪れるという約束までさせられた俺が連中をどうにか出来るわけもなく。半ば諦めの心境であそこへ足をはこんでいる。

家まで押しかけてこられた時は度肝を抜かれたが、あの変人共が俺の服に隙を見て発信機を忍ばせたり、金で釣って大家を手篭めににしたりと、奴らの本気具合に若干、いや、かなりの危機感を覚えた。引っ越す事は考えてはいるが、どうせ引っ越してもすぐに変人共にバレてしまうのが想像できて、思い立っても行動に移せずにいる。どうしようか……。

問題はこれだけではない。奴らに対して、少しだけ気を許してしまったのは俺自身自覚しているのだが、奴らは目敏くも感じとっているのか、俺への構い方をエスカレートさせた。……必要以上に、馴れ馴れしくなってしまった。事あれば寄って来るし背中には乗って来るし、ベタベタと鬱陶しい。最初こそ抵抗し続けてはいたが、余りのしつこさに一週間で諦めた。気分は保育園に放り込まれた新人保育士だ。ガラス張りの事務所跡に行く事すら妨害されるものだから、ここ最近はずっと絡まれ続けている。集団攻撃は卑怯だと思う。

俺も俺で、奴らをぶん殴ってでもやめさせれば良かったのだろうが、知らず知らず、連中を殴る事に抵抗を感じてしまうようになった。これはちょっとーーいや、かなり不本意な事ではあるがあそこまでして自分を探してくれる連中に愛着というかーーペット?にじゃれられているような気分になる。大変不本意ではあるが。こんな変人がペット……笑えない。

「ん?もしかして、サガラさんの背中独占ーみたいな、そういう順番があるの?俺も混ざっていいかな?」
「あれ、ナカライさんもやりたいんですか?」
「うん」
「…………」
「それじゃ、イツキ、お前変わりなさい」
「えええええええええ!?俺だってサガラさんのカラダ触るの楽しみにイメトレをーー」
「死ねばいいのに」
「…………うわぁ」

ーー他に変わった事と言えば、あの半井さんが時たま廃工場に来るようになった事だろうか。彼の容姿の良さも手伝ってか、すぐに皆とは打ち解け、今やここのマスコットのような扱いだ。時々、イツキとタチバナのやり取りにヒいていたりするが、半井さんはここが中々気に入っている様子。危ないから来るな、なんて大して親しくもない俺が言う前にような事ではないだろうし、かといって放置して半井さんに危険が及ぶのはいただけない。どうしたものか。

「サガラさんサガラさん、やりました!明日は俺がサガラさんの背中をゲットしました!」
「…………」
「じゃあ、ちょっとだけ出かけませんか?この前のお礼も兼ねてー…」
「何ですって!?この前って……2人とも一体どういった仲なんですか!?答えようによっちゃ俺も態度を変えねばなりません!」
「い、一体どんなプレイを−−」
「…………」
「ナカライさん大丈夫です、アレの話を耳にしては耳が腐るだけですので雑音として認識する程度で十分です、ブンブン飛び回る蚊だと思ってください」
「、あ、はいそうします……俺とサガラさんはですねーー、」

俺の意見なんか聞いちゃいない、連中はがやがや、時折鳥肌モノな勘違いをしては話を先へ先へと進めている。少し前までは、キレやすいだの何だの言われ若干遠巻きに扱われていたのに、今や話の中心に居ながら軽い扱いを受ける見た目はただのいじめられっこだ。誰だこのチーム作った奴、リーダーが俺だと言い出した奴、この有様を見てみろ俺は一体何なんだ。

ギャーギャーグダグダ、纏わりつかれながら恨み言を頭で組み立てていた時だった。ジリリリリ、どこからともなく誰かの着信音が響いた。




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