三ツ谷くんと修学旅行






クラスも違えば班も違う。でも行く場所は同じだし泊まる宿は同じ。そう、それが三ツ谷くんと行く初めての修学旅行だ。



「お前の班どこ回るの?」

修学旅行の一週間前に、三ツ谷くんにそう聞かれたので、班のメンバーで意見を出し合って決めたルートを見せた。それを見て彼は「あーこことか時間的に被るかもな」とか言いながら笑った。できればザ・観光地なところで一緒に写真撮ったりしたいね、と言えばまた笑ってくれて。クラスも班も違うけど三ツ谷くんと行く修学旅行が楽しみで仕方なかった。


でもいざ修学旅行が始まると全然回るルートと時間が合わず、一緒に写真なんか撮れなかった。クラスの集合写真を撮るときにすれ違って「おー」なんてちょっと声掛けられたり、朝宿から出てバスに乗るときに「おはよ」って挨拶されるくらいだ。…なにこれ、全然三ツ谷くんと過ごす時間がない。勿論彼は彼でクラスの友達と過ごす時間もあるだろうし、それは私も一緒だ。友達とも一緒に思い出作りしたいけど…でも三ツ谷くんとだって、思い出作りしたい。

そんな感じでちょっと不貞腐れていた修学旅行最終日、大浴場から部屋に戻って携帯を見るとメールが届いていた。

『夜の点呼終わったらちょっと出て来れる?』

嬉しくて飛び跳ねそうになる衝動を抑えながら速攻返事を送った。表情も抑えてたつもりなのに友達には「何ニヤニヤしてるの」と聞かれ正直に白状すると、何かあった時は上手く先生に口裏合わせてあげると言ってくれた。同室の友人に感謝しながらルンルンで支度を始めた。ドライヤーで乾かしたばかりの髪にヘアコロンをつけて、夜の点呼が来るのを今か今かと待った。





「三ツ谷くんおまたせ!」
「おー」

スウェット姿の三ツ谷くん。いつから待っててくれたんだろう。指定された場所は宿の一番隅にある階段。なかなか広い宿だからこんな端の端の階段はうちの生徒や先生も使わないだろうからと、三ツ谷くんが提案してくれた。

「抜け出すのめっちゃドキドキしたー」
「ほんと?オレこーゆーの上手いから全然余裕だったわ」
「なに、上手いってどういうことよ」
「んー?抜かりなくやるの上手いからさ、オレ」

そう言って見せてきた余裕の笑顔にキュンとする。…はぁ。好き。三ツ谷君はこのルックスと優しい性格のおかげでかなりモテる。ダメ元で告白したのにOKしてくれた時は心臓が止まったかと思った。


「全然会えなかったね」
「なー」
「結構時間押しちゃってバタバタだったからかなぁうちの班」
「ん。うちもだった」
「だよねーやっぱ予定通り行かないよねぇ修学旅行なんて」
「でもこれは予定通りだよ」
「ん?これって?」
「ナマエを最終日のこの時間にここに呼び出すの」

かぁっと顔に熱が集まる。三ツ谷くんはそんな私の顔を笑いながら見て、「真っ赤じゃん」って頬を撫でてきた。


「えっこれ…ずっと計画してたの?」
「うん。どこなら先生にバレず会えるかなーって初日から下調べしまくったし」
「えっうそー?」
「嘘じゃねぇよ。だってさ、二人きりになる時間全くないとか絶対ぇ嫌だったし」

嬉しさと恥ずかしさでまた顔が熱くなる。嘘だ…私が好きで好きで告白して付き合えること自体奇跡だと思った相手から、そんなこと言われるなんて。

「ナマエ、こっち向いて」

頬に添えられた手、ゆっくり近づいてくる顔。もう次の瞬間何が起こるか分かった私は、目を瞑ってドキドキとその時を待った……が、


「…やべっ」
「えっ、あ、えっ?」

下のフロアの階段から誰かが登ってくる音がした。やばい、先生!?と思った瞬間に三ツ谷くんは私の手を引いて長い廊下を走り抜けた。スリッパが脱げそう、だなんて言う暇もないくらい二人で必死に走った。


「あーー…まっじびびった…ナマエ大丈夫か?ごめんな、あんな走らせて」
「はぁ、はぁ…うん、大丈夫……」

分かっちゃいたけど三ツ谷くん、足速い。女の私がついて行くにはなかなかしんどかった。肩で呼吸する私の背中をさすりながら三ツ谷くんはもう一度謝ってくれた。

「あれ…てゆーかここって」
「あ、オレの部屋」
「えっ!」
「大丈夫、ぺーやんもぱーちんもとっくに寝てるから」

どうやら三ツ谷くんは林くんと林田くんと同室だったらしい。薄暗い中でも二人が寝ている様子は見えたから一安心……ってそうじゃなくって!

「男子部屋に入ったなんてバレたらやばいよ!」
「でも今出てっても先生まだ巡回中だと思うよ」
「そうなの…?」
「うん。今日最終日だし彼女と会うって言ってる奴他にもいたから。先生たちもそれ見越して巡回してんだろ」
「えぇ…まじか」
「だからもう少しここにいな」
「うん…」

畳の上に敷かれた3枚の布団。一番奥の窓側に林田くん、真ん中に林くんが寝ていて、三ツ谷くんの布団は一番出入り口側。三ツ谷くんは自分の布団を林くんの布団から少し離してからその上に座った。

「ナマエも座りなよ、ここ」
「えぇっ!?」
「ちょ、声でけぇよ。ぺーやん達が起きる」
「あっごめ…」

慌てて口を押さえると、三ツ谷くんが素早く私の腕を引っ張って布団に座らせようとしたが、私はそのまま布団の上に寝転んでしまった。…これが引っ張られた反動による事故なのか、それとも故意なのか……。うん、それは三ツ谷くんの表情見れば一発でどっちか分かった。

「みみみ三ツ谷くん…あの、座るから私」
「んー?なんで?」
「ねぇ、わざと布団の上に倒したでしょ」
「さて、どうでしょう」
「ねっ、ねぇちょっと無理!近い!」
「無理ってひどくね?彼氏に対して」
「いやだってこれ、ちょっと本当に…!」
「しっ」

急に三ツ谷くんが私を抱きしめたかと思うと、そのまま掛け布団を被って布団に潜ってきた。狭いシングル布団の中、私たちの距離は只今限りなく0に近い。バクバクとなる心臓の音と、三ツ谷くんの呼吸の音で頭がクラクラしそう。

「三ツ谷くん…?」
「なんか今、廊下で先生の話し声しなかった?」
「うん…したね」
「だよな…ビックリした。暫くこうやって布団に潜ってた方が安心だな?」

部屋の電気は暗くなってるし、さらに布団の中だしで彼の顔は見えないけど、悪戯そうに笑っているであろう三ツ谷くんの表情が想像できる。

「ナマエ」
「んっ」
「不意打ち」
「…ちょっともう、やめてよ…」
「なんで?ナマエと布団の中いられることなんて滅多にないんだからいーじゃん。あれ、なんかお前いい匂いする」
「あ…ヘアコロン、かな」
「ふーん。オレのために付けてくれたの?」
「……うん」
「なにそれ、嬉しすぎんだけど。はぁ、まじいい匂いする」
「えっちょっもう!変になるからもうやめて!」 
「いいんだよ変になって」
「何言ってるの三ツ谷くん!」
「ナマエ、かわいい」
「ちょっ…耳元やめて」
「あ、耳弱い?じゃあもっと…」
「ねぇ待って、そんなとこ触らないで」
「ナマエの体触れるのはオレだけなんだし、いいだろ?」
「か、勘弁して三ツ谷くん!!」
「おいうっせーぞ三ツ谷ぁ!」

隣から聞こえた大きい声。私たちの体はびくりと跳ね上がった。三ツ谷くんは私の口元を押さえてから布団から顔を出して声の主である林くんの様子を慎重に伺っていた。私もそろりと布団から目元だけ出して林くんを見る。あれ、もう寝息が聞こえくるけど…。

「…寝てる?」
「だな。寝言かな」
「それにしては的確だったような…」
「まぁ実際うるさかったんだろ。お前突然でかい声出すなよ」
「だ、だってそれは三ツ谷くんが!」
「…ふがっ」

体を大きく捻りながら林くんが再び声を上げた。私たちはまた体をびくりと跳ね上げながらその姿を見ていた。…やばいな、林くん眠り浅そうだしそろそろ帰ろう。そう思って体を起き上がらせようとすると、トンっと三ツ谷くんに肩を押されて私体はまたすぐに布団の上に倒れた。

「み、三ツ谷くん」
「シーっ」

人差し指を自分の唇に当てながら彼はそう言って、また私を布団の中に導いた。

「…声、抑えろよ」
「……っ」
「も少しだけ、こうしてたい」

今度は私の唇にその人差し指を当てながら言う三ツ谷くんに、私の心臓はもう限界だった。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -