彼女の仮装姿を見て怒る三ツ谷







「あっ!三ツ谷ー!遅かったじゃーん」
「…は?」

10月31日ハロウィン。何やらここ最近はハロウィンの日に仮装して渋谷の街を練り歩くイベントが流行っているから、ナマエが行くと言っていた。で、記念に一緒に写真撮りたいからオレにもちょっと来てほしいと連絡来たのが3時間前。一緒に写真撮りたいとか何可愛いこと言ってくれんだよって頬を緩ませながら来てみたけど…いや、なんだよこれ?


「お前…これ、なに?」
「セーラージュピター」
「いやそれは分かるけどさ!」
「あ、わかるんだ?さすが」
「そこじゃねぇよ!なんだよその露出は!」
「セーラームーンの衣装って全部こんな感じだよ?」
「いやだからさぁっ!」

そこらの女子高生より短いスカートからすらりと伸びる脚。上もノースリーブなしなんかぴったり目だし胸元のでかいリボンが逆に胸の大きさを主張してる気がした。人でごった返しているセンター街。そこらを歩く男の視線がナマエに向けられている気がして仕方ないのは気のせい…じゃない気がする。

「友達がウィッグまで買ってセーラービーナスやってんの!私ウィッグとか面倒くさいから普通の茶髪でもいけるジュピターにしたんだけどさぁ。でも髪緩く巻いて高めのポニテすればバッチリジュピターっぽいっしょ?」
「…それでそのセーラービーナスはどこ行ったんだよ」
「あっちでタキシード仮面見つけたから写真撮りに行ったよ。あ、ほらあそこ。見える?」

そこには確かにタキシード仮面の仮装をした男と、長い金髪のウィッグを被ったセーラービーナスがいた。そこで出会ったばかりのタキシード仮面に肩を抱かれながらピースサインをしている。異常な光景だと思った。

「三ツ谷は仮装しないの?」
「するかよ…」
「まあ急に呼び出しちゃったしね。仕方ないかっ。ねぇとりあえず写真とろー!」

ナマエがオレの腕に抱きついてきて、顔をオレの頬に擦り寄せてカメラを構えた。いや、あのさ、胸当たってんだけど…。「はいチーズ」とウキウキな声と共に押されたシャッター。撮った写真を確認するとやっぱりウキウキな顔のナマエとちょっと口元だけで笑った自分が写っていた。

「三ツ谷もっと笑ってよー」
「いやいいよ…つか寒くねぇのその格好?」
「めーーっちゃ寒い!見て鳥肌立ちまくり!」
「お前さぁ、風邪ひくだろうが!バカじゃねぇの!」
「まぁまぁ怒らないでくださいよ三ツ谷さん」
「怒るわ!いいか!?お前大体な、そんなに脚出して…」
「あっセーラームーンいるじゃん!めっちゃ可愛いーー!」

オレの言葉を遮るように声をかけてきたのは、そこを通りかかった見知らぬ男女のグループ。ナマエの仮装を見て「すげぇ似合ってますねー」なんて声をかけてきて、ナマエも満更ではない様子で「あざーすっ」なんて返事をしていた。

「おねーさんちょっと一緒に写真撮りません?」
「ぜひぜひー!皆さんはこれナルトの仮装ですか?」
「そうっす!」
「いやー皆さんめっちゃお似合いですねー!」

これが渋谷のハロウィンか…。普段なら絶対話さないような見知らぬ人と謎に交流し謎に写真を撮り合う。いやなんの文化これ?

「三ツ谷も写真写る?」
「いやいーよオレは…」
「じゃあ撮ってもらってもいい?」
「はいはい…」

スマホを渡され、少し離れた位置から「撮りますよー」なんてやる気のない声掛けをした。ナマエが知らねえ男女のグループの中心に立ちポーズをとった。なにあれ、セーラージュピターの決めポーズかなんかか?スラリと伸びるナマエの生脚に周りの男共の目線が移る。その時口元を緩ませながら「やっべ」と言葉を吐いた一人の男に、苛立ちを覚えた。

「お願いしまーーす!」
「……」
「あれ?おにーさん?シャッター押してくれました?」
「…やっぱやめるわ」

そいつにスマホを返してナマエの腕を引っ張ってセンター街を駆け抜けた。ナマエは困惑した声を出しながらついて来た。バッカらしい。なにがハロウィンだよ。こんなんただの露出した男女の交流イベントじゃねぇかよ。

「みっ三ツ谷待って!ヒールだから私…!」
「あ、わり」
「えっもうなに?何で急にこんな…」

センター街よりは人気の少ないところに出たけど、でも相変わらず仮装してる奴らがこの辺も彷徨いていた。そしてやっぱりみんなナマエを見てる気がするんだ。どいつも、こいつも。

「…ナマエ、これ着て」
「え?いーよ三ツ谷寒くなるじゃん」
「オレは中も長袖だからいいんだよ。お前と違ってそんな薄着してねぇし」
「あ、ありがとう…」
「…なぁ、なんでこんな格好して渋谷練り歩いてんだよ」
「え?」
「楽しい?楽しくないよねこれ。周りの男たちがやらしい目でお前の体見てるだけじゃん」
「え?え?」
「お前自覚ある?こんな寒い時期に、夜に、脚思いっきり出してさぁ。危ねぇと思わねぇの!?」
「え?三ツ谷?どうした…」
「どうしたじゃねぇだろ!お前のこんな格好をそこらの男達が見てるとか、オレが正気でいられるわけねぇだろ!」
「……」
「もう金輪際ハロウィン禁止だからな」

捕まるかわかんねぇけど、タクシーを捕まえるため道路側に立った。あー…なに怒鳴ってんだオレ、街中で。これこそ恥ずかしい奴じゃん。しかもやっぱりタクシーなかなか来ねえし、イライラする。


「三ツ谷…ごめん」
「あ?」
「そんな嫌がると思わなかった…心配させてごめん」
「分かったんならいいよ」
「でも金輪際ハロウィン禁止は嫌だー!」
「はぁ?」
「仮装するの楽しいもん!来年からは三ツ谷の前だけで着るから!それならいいでしょ!ね?」

おまっ…その格好でそんなセリフで甘えて来るなんて、反則だろ!とりあえずこのままナマエはオレんちに持ち帰って、この仮装したまんまのコイツをじっくりと堪能させてもらうことにした。





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