隣の席の高杉くん | ナノ



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「はよ、名字」
「おはよう、高杉くん」

高杉くんの隣になって分かったこと。

朝はギリギリに登校する。
授業中は寝たり起きたりを繰り返す。
休み時間はフラッとどこかへ消えることが多い(どこで何をしてるかは不明)。
クラスメイトとも先生とも、必要最低限の会話のみ。
でも、隣の席のわたしには毎朝挨拶してくれる。





「名前ちゃん凄いよねぇ、あの高杉くんと会話してて」

お昼休み中、教室でお弁当を食べながら友達にそう言われた。因みに高杉くんは教室で食べていないのでこの会話は聞かれていない。


「そう…?喋ると全然普通の男の子だよ?」
「でも話しかけるなオーラが凄いじゃん!いつも教室にいないし、どこで何してるか不明だしさぁ」
「まあ確かに…不明なところは多いけど」
「あたし隣の席の山田さんにも言われたよ。あの大人しめな名字さんが高杉くんと喋ってるの超意外〜って」

山田さんて…あのすごくクラスのリーダーっぽい女子。あんな気の強そうな人でも高杉くんとはなかなか会話できないなんて、なんか意外だ。みんななんか誤解してるみたいだけど、本当に話すと普通なんだけどなぁ。


「私、図書室にちょっと用事あるから行ってくるね」
「うん。がんばれ図書委員〜」


なんとなくやり続けている図書委員のせいなのか、元々の性格や声のせいなのか、私は周りに大人しいと思われることが多い。確かに大勢の中に入っていくのは苦手だし、友達も広く浅くより、狭く深く付き合っていきたいタイプだ。でも別に人が嫌いなわけではないし、色んな人と友達にはなってみたいと思ってるんだけど…。


「って、あれ?」

階段を上っていく一つの後ろ姿。あれは間違いなく高杉くんの背中だ。どこに行くんだろう。この先って…屋上?

いつもどこで何しているか分からない高杉くん。そんな彼がどこに行くか…興味が湧いて彼の後を追ってしまった。

行ったことのない場所、屋上。新たな道への扉を開けるような緊張感が走った。ゆっくりドアノブを握って右に捻ると、ガチャリという音と共に扉は開いた。


「……名字?」


驚いた様子で高杉くんは振り向いた。


「あ、高杉くん…」
「びっくりした。どうしたこんなとこに」
「いや、えっと…高杉くんが見えたからちょっと追ってみたくなっちゃって…」

言った後にハッとした。高杉くんの手には煙草が握られていた。もしかして、吸うために屋上に…?


「見つかっちまったか」

軽く笑いながら彼は煙草を箱に戻した。


「もしかして、いつも煙草吸うために教室から出てってたの?」
「あぁ。まさか名字に見つかるとはな」
「す、すごいね…校内で吸うとか」
「少しだけだけどな。でもそれも今日までだな」


真っ青な空を見上げながら高杉くんはそう言った。

屋上、初めて来たけどこんなにも広くて空が近いんだ。一応立ち入り禁止って事になってるけど、鍵はかかってないし案外誰でも立ち入れるんじゃないのこれ。だったら私だって、たまにはこの大空を味わいに来たい。


「高杉くん。私別に先生に言ったりしないよ」
「は…?」
「意外?」
「まぁな。お前って真面目なイメージだから」
「私ってそんなに真面目だったり大人しそうに見える?」
「そう見えてた…けど、席隣になってちょっと話すようになってから、そうは思わなくなった。話せば全然ふつー。大人しくもなんともないよな」


ほんの少し口角を上げて笑ってみせてくれた高杉くんのその言葉は、とっても嬉しかった。話せば普通。それは私も高杉くんに対して思っていたこと。私達はお互い、隣になって喋るようになって、お互いのイメージがいい意味で崩れていたんだね。


「高杉くん。煙草のことナイショにしててあげるから私も時々屋上に来てもいい?」








* * *









「…で、これでログインするとこのシステムが使えるようになるので…。パスワードはあとで自分で設定してね」
「分かった」


高杉くん入社1日目。隣の席になったし上司に頼まれたこともあり、パソコンのセットアップだったり社内の色々な物の場所や使い方を説明していた。まさか私が高杉くんのお世話係をする日が来ようとは…!


「私達が使うプリンターはこっちね。で、この棚には文房具の備品とかあるから。こっちの扉は給湯室に繋がってて…それからこっちにはね、」

私はドアを開けて廊下に出て、突き当たりの個室を指差した。


「喫煙室。あそこにあるから」


その言葉に高杉くんは驚いた顔をしたけど、すぐに軽く笑ってくれた。懐かしいその微かな笑い方。高校の時、たまに見せてくれるその笑顔に私は胸が踊っていたんだよなぁ。


「なんでまだ吸ってるって分かった?」
「なんとなく。やめられるとも思えなかったし」
「今はお前も吸ってたり?」
「まさか」


だろうな、と言う高杉くん。まるで私のことをよく知っているかのような言い方に心臓がぎゅっと摘まれた気がした。

デスクに戻り、業務を進めつつ高杉くんのサポートをした。

また隣に高杉くんが座っている。あの頃は教科書を目の前にしていたのに、今はパソコン。私たちは大人になった。大人になったのに肩を並べて座っているとあの頃となんも変わっていない気がした。

これは私の錯覚…?
ねぇ高杉くん。あなたもそう感じてくれていますか?





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